【平成十四年(2002年)晩秋~冬】


【平成十四年(2002年)十一月】


 天元のじっちゃんの忘れ形見である、ウルトラクリーク産駒牝馬のランカヴェニス、ソッカーボーイ産駒牝馬のランカナデシコは、晩春の未勝利戦2500mにそれぞれ挑んだ。


 ランカヴェニスが二戦目で勝利を得て、五百万下条件に進んだのに対して、ランカナデシコは未勝利戦で上位入線をくり返したものの勝利には至らなかった。ただ、未勝利のまま格上挑戦を果たしたナデシコの方が五百万下を先に突破し、ヴェニスもそれに続いた。


 九百万下でそれぞれ掲示板をにぎわせてくれるようなら、そこまでで種付け料、育成費、預託料などは稼ぎ出してくれた計算となる。先代から付き合いのある老調教師とは、準オープンまで上がったら大健闘で、場合によってはそれ以前に地方に送るとの意識合わせは済んでいる。騎手もベテランが起用されていて、安定感は満載な状態だった。


 中央の九百万下で好走できた状態なら、繁殖牝馬としての素質引き継ぎにも期待できそうだ。さらに長距離を得意とする種牡馬を重ねるか、スピードの補強を目指すか。


 翌年の繁殖に供用するなら、年明けから二月頃までが現役期間となりそうだ。年末年始には、上田競馬に顔を出したいところでもあった。




 ディープインパクツが当歳競りで史実通りに売られていって程なく、サンデーサイレントが世を去った。親子での主役交代、というとなにやら因果物めいてくるが。


 そして、その間隙があるからこそ、ステディゴールドにもいい牝馬が回って来る感じとなるのかもしれない。種牡馬の勢力図は、どうなっていくのだろうか。



【平成十四年(2002年)年末】


 首都圏での地方競馬連携は、緩やかに進展している。遠征の手続きが緩和され、北関東のオープンまで行かない馬が、下位条件の入着賞金目当てに南を目指し、南関東で苦戦している馬が勝ち星をつかみやすい北へ向かう、という流れが出来つつあった。


 賞金格差は正直大きいが、馬主さんたちの満足度を考えれば、それぞれの馬が好戦できる状態で賞金を最大化できるメリットは大きい。収支よりも愛馬の勝ち星を望む馬主さんも、少なからずいるのだった。


 往来が活発になると、交流拠点の必要性が高まり、伊勢崎の境町トレセンと浦和競馬場を有効活用できないかとの話が出ていた。同時に、上田競馬でも外厩拡充の話が持ち上がっている。


 この流れの中で、春待先輩の調教集団の支部を上田に設置し、冬の時期の若駒の調教を進めよう、とのアイデアが形になろうとしていた。入厩前提でなくても受け容れてもらえるのであれば、外厩的に使うことができる。先輩も乗り気だったし、廃場となった地方競馬のスタッフを吸収する流れも考えられるので、父さんも動いてくれそうだ。


 もう少し南国の方が、より効果的なのだろうが、贅沢は言っていられない。


 上田と北関東の各競馬場で事態がやや動き出している背景には、翌年春から南関東四場でSPAT4としてネット投票が開始されるとの話の存在がある。上田と北関東は、初手からの参入はどうにも間に合わないが、このまま連携を続けていければ、数年内に加入できる可能性がある。


 その流れから、上田の直線走路とナイター施設設置も進められるといいのだが……。どちらを優先すべきだろうか。



 高校の三年間も、残すところあと三ヶ月ほどとなっている。美冬は園芸系の友人との仲を深めているようで、年末時期のお泊り会に呼ばれていった。


 今回は、漁協の顔役の御曹司と、その幼馴染の女子と一緒らしい。通常なら両手に花かと言われかねないところだが、その御曹司が花と見まごうばかりの色白な美少年であるため、話が違う状態なのである。風待先輩もまた美形なのだが、よりたおやかな感じとなっている。


 いずれにしても、美冬の世界が広がるのはいいことである。どうやっても人生の序盤しか伴走できない俺とあまりつるんでいるのは、健全なことではない。漁協の顔役の御曹司を幼馴染と争って勝ち取るのも、またありなのかもしれない。




 有馬記念では、シンボルクリスエスが勝利を収めている。天皇賞秋と有馬記念をそれぞれ連覇して、GIを4勝する名馬である。ロベルト系のこの馬は、種牡馬としても優秀で、サンデーサイレントとディープインパクトが席巻した状況で、一定の地歩を固めていくことになる。


 ただ、長距離志向の爛柯牧場としては、ロベルト系の中でもフラワーシャワーを出したリアルフダイの血脈を推していこうとしている。


 前世での記憶からして、長距離の仔をよく出す馬は、日本の競馬界では種牡馬として生き残れない傾向にある。そうであるなら、能力は度外視で父系の血脈を確保していくことには、一定の意味がありそうだ。


 具体的には、ロベルト系のリアルフダイからは、未出走ながらランカリアリティを種牡馬としようとしている。


 ニジンスキー系のウルトラクリークからは、期待が持てそうな自家生産の牡馬、ウルティマクリークがデビューを控えている。


 ファイントップ系のソッカーボーイの子としては、ハネダトップロードやダイヤミラクルが種牡馬入りするものの、前者は早期に死亡し、後者は繁殖牝馬が集まらずに引退する形となるはずだ。全妹がステディゴールドの母であるからには、血脈的には残るわけだが、父系としても後代に繋げたいところで、今後の自家生産馬に期待したいところとなる。


 他の長距離血統で確保を目指したいのは、パーソロン系のメグロマックイーンと、ブラッシンググルーム系のマチカゼフクキタルあたりだろうか。


 長距離系統から離れて自家で確保しておきたいのは、グレイソブリン系のトニオビン、ジャングルポッケからの血脈となる。


 そして、ノーザントーストの孫となる、タンホイザーゲートと名付けられた幼駒にも、種牡馬入りも睨みつつ期待をかけていきたい。


 残るはブライアンズタイムスだが……、シンボルクリスエス、リアルフダイと父親が同じために、取捨に迷うところとなる。キヌノジャスティスが直仔なのだが、活躍馬を出せなかったのが史実となる。


 いずれにしても、これらの血統を組み合わせた馬づくりをしていって、サンデーサイレント、キングリンボーの二大系統とのアウトブリードができる方向を模索したいところとなる。


 もちろん、血脈をただ繋げればいいわけでもないので、できるだけ能力の高い馬を確保したいところでもあった。


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