〘六番星〙 迷夢
気味が悪いほど真っ白な部屋。
足元に散らばるのは割れたガラスの欠片。それ以外本当に何もない、殺風景だ。
「こんなところにガラスが…。窓もないのに、どうして」
拾い上げようとして触れた手を見ると、指から赤い液が滴る。
あれ、痛くない。
再びガラスを覗き込むと鏡のようになって、私の姿を映した。
鏡?
――――違う、私の顔じゃない。
それに気が付いて、ひゅっと息が詰まる。
「…う、あ……おねえちゃ――」
見間違えるはずなんてない。
じゅわりと視界がにじんでゆく。
こんなの私が一番嫌っていた、なりたくなかった自分なのに。
それなのに私は膝から崩れ落ちて、涙がガラスと白い床をどんどん濡らしていく。
うつる彼女は一瞬さみしそうな顔をして、そっち側へ去ろうと背を向けた。
こんなの私の妄想だとわかっているのに。
「行かないでおねえちゃ――いっ…!」
必死になって手をついたから、手のひらに破片が刺さる。
さっきは痛くなかったのに…!
そうこうしている間に彼女の後ろ姿はどんどん離れていく。
そこに映っているだけだから、追いかけることもできない。
絶対に届かない場所へ行ってしまった。
「いたいよ…おねえちゃん…」
怪我をしたとき包帯を巻いてくれるあなたは、もういない。
「ねぇ凛、知ってる?」
気が付くと、ふっと空気が変わる。
優しい、安心する声。
そっと目を開ければそこには、天井のすべてを覆う星空が広がっていた。
これは……
隣にはやわらかい雰囲気をまとった女性が座っていた。
さっきの涙で視界のピントが合わなくて、顔はよくわからない。
「…………何を?」
おかしいと分かっているけどなんとなく、聞き返してみる。
「え? …ああ、凛にはまだなんにも教えてなかったわね」
彼女は私を後ろから抱きしめるようにして、星と星の間を指でなぞる。
何とも言い難い、なまぬるい体温。
「安心してほしかったのよ、たどり着くところは同じ。人はみーんな、最後には――――」
その先の言葉を知っている気がして、だけど言ってほしくなくて。
ふと振り向くと、ばちりと視線が絡み合った。
今にも吸い込まれそうな……鮮やかな青色。ただひたすらに青い瞳。
もしかしてわたし、帰ってきたの?
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