第25話 世間は案外狭い
煌びやかな髪を手で払い威厳を放つその姿は、すごく力強さを感じた。
お互いそれなりの理由があるために、ほとんど話題には上がらなかった。
「あの、初めまして!」
俺は、そんな姫白さんのお姉さんに意を決して挨拶をする。
「俺、姫白さんの友達の
「大路? あー、おかあさんが言ってた子って、もしかして君?」
訝しげな表情を最初は向けられたが、俺の挨拶を聞いて理解したのか表情が少しだけ和いだ。
「あたしは姫白
「一応って、……姉妹なんですよね」
姉妹に一応も何も無いと思うのだが。
「あー、なるほど……ね」
茜さんがちらりと、姫白さんの方を見た。
「お、お姉ちゃ、」
「あたしら、血繋がってないから」
「えっ」
茜さんは冷たい視線を姫白さんの方へ向けて言う。
それを聞いた俺は一瞬、言葉を失った。
「よくある話だよ。あたしのお父さんと、
そんな事はお構いなしとでも言うように、茜さんは続ける。
「だから、麻帆はあたしの義理の妹ってわけ」
知らなかった。姫白さんのご両親って再婚してたのか。
けど、普通に考えてわざわざ言う事でもないし、姫白さんも言いづらかったのだろう。
「お義母さんから麻帆がバイト始めたって聞いたけど、本当だったんだ」
「……うん」
姫白さんが弱々しい声で答えた。
どうしたんだ姫白さん。明らかに様子がおかしい。
「まぁ、あんたがどうしようと構わないけどさ。夜遅くに外出歩いて、友達の家に入り浸って次はバイト? 自由過ぎにも程があるんじゃないの」
察するに、茜さんは姫白さんが俺の家に通っている事情を知っていそうだ。
家族という事なら、
「はぁ、お義母さんも甘いよね。お父さんは何も言わないし。男子の家に毎日出入りするなんて、何かあったらどうすんのよ。あたしにも迷惑かかるってーの」
あれ、俺ナチュラルになんかディスられてません?
面と向かって言われると、ちょっとへこむな。
「お、大路君は……優しくて、いい人だから!」
「姫白さん……」
それを聞いた途端に茜さんを睨みつけて言う。
「はぁ? なに急に。いつもは何も言い返さないくせに」
「……っ!」
茜さんの語気強めな言葉に姫白さんは俯いた。
やっぱり、姫白さん。どこか様子がおかしい。いつもと違う様子だけど、もしかして……。
「あっれ〜、
「なっ⁉︎」
突然背後から呼びかけられ、俺はすぐさま振り返る。
確かめるよりも早く、それが誰なのか俺にはわかっていた。
どうしていつも、彼女は俺の背後から登場するのだろうか。
「ゆ、
「ぶーぶー。私は今お客さんなんだぞー。
そこには何故か幼馴染の雪の姿があった。
ぷっくりと頬を膨らませて、俺の胸の辺りを突く。
「駄目だよ真人ちゃん。いくらアルバイトでもお客様には敬語を使わないと」
「ご、ごめん。って、いや、今はそれどころじゃ」
「雪。探してたお菓子あったの?」
「うん隣のコーナーにあったよ」
雪は手に持っていたスナック菓子を見せて言った。
いや、まてまて! 今気にする点はそこじゃない。
「あれ、そういえばどうして茜が真人ちゃんと一緒なの?」
「ちょっとまって! 雪は茜さんと知り合いなのか⁉︎」
「んー? 知り合いも何も私たち親友だよね」
「はい?」
今親友って言ったか? 俺の予想よりも遥か上の関係性なのだが。
「そう? まぁ、よく一緒には居るよね」
「もぉー、冷たい事言わないでよー。中学からの仲じゃん」
「そうだったっけ?」
「忘れたの⁉︎」
「もちろん冗談に決まってるじゃない」
「んもー!」
え、ちょっと待って欲しい。何この情報量の多さ。頭がパニックなんだが!
姫白さんには義理のお姉さんが居て、その茜さんが雪と中学時代からの親友って、世間狭いなおい!
「いやぁ〜、茜が真人ちゃんのバイト先に行くって言うから何事かと思ったけど。そっか、妹ちゃんもバイトしてたんだね」
「大路君に会ったのは偶然だよ。雪が本当に働いてるのか確かめたかっただけ。別に深い意味はないから」
明らかに壁を作るような言い方で、茜さんは腕を組む。
胸が強調されて、改めて容姿にスタイルの良さを思い知らされる。正直、目のやり場には困る。
「雪さん……」
そんな中で姫白さんが小さく声を漏らす。
「久しぶりだね麻帆ちゃん! そんな畏まらないでいいよー。気軽にお姉ちゃんって呼んでいいからね!」
「あんたはただの他人でしょ?」
「ひどい! 私は麻帆ちゃんがこーんなに小さい時から知ってるんだから!」
「何その古いギャグ。さぶっ」
俺、完全に置いてけぼりだな。
この女子だけの空間に俺がいるのって相当場違いな気がする。
「でもそっか。あんたが昔から言ってた真人ちゃんって大路君の事だったんだ」
「あれ? 言ってなかったっけ」
「言ってないよ。あたし会うのすら今日初めてなんだけど」
「あっ、そっかー」
雪と茜さんマジで仲が良いな。中学からの仲だというのも頷ける。
「……大路君、大丈夫?」
俺の様子を気にかけてか、姫白さんが近くに寄ってきた。
俺を気遣ってくれてるのかな。むしろ、俺は姫白さんの方が心配だけど。
「う、うん。姫白さんって雪と知り合いだったんだね」
「……うん、お姉ちゃんが中学に上がってから何回か家に遊びに来てて」
「そっか」
まさか姫白さんと雪に繋がりがあったなんて全くもって想像できん。しかも、二人が中学に上がった頃といえば雪が引っ越してすぐ位だ。
「私もようやくわかったよ。雪さんがずっと言ってた弟って大路君の事だったんだね」
「いや、ただの幼馴染だからね。お互い昔住んでた家が近所同士だったってだけで。いわゆる幼馴染だよ」
「……ふーん」
あれ、なんか姫白さん機嫌悪い? そっぽ向かれてしまったんだけど。俺なにかしたのか!
「それより雪。こっちの用済んだんだし、早く行こうよ」
「あっ、そうだね。真人ちゃんに会えてラッキーだったけど、今日はこの後も用事あるんだ。名残惜しいけど、またね。真人ちゃん、麻帆ちゃんも」
「あ、あぁ、また」
俺は手を振る雪にそう応える。
「……」
茜さんは最後に姫白さんをジッと睨みつけ、何か言いたそうな素振りを見せる。
「茜〜。行くよー」
「ふんっ!」
しかし、それだけを言い捨てて、茜さんは雪を追いかけていってしまった。
少しの時間だったけど、まるで嵐が過ぎ去ったかのようだった。
「…………」
「……姫白さ、」
「ごめん私、ちょっと休憩してくるね」
「あ、うん」
なにか声をかけなきゃと思ったけど、姫白さんがバックヤードへと下がっていってしまった。
逃げるように離れていく彼女の背中に、俺は何も言えなかった。
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