第11話 暇をつぶすならこれだ!
ほどなくして淹れたお茶と共に姫白さんが買ってきてくれたお菓子を食べた後。ちょっとした気分転換をする事に。
「さてと」
俺たちはテレビを前にコントローラーを握りしめていた。
ソファの前に腰をかけてゲーム機を起動させる。
俺にとって、暇つぶしといえばいつもこれだった。
「わー。コントローラー触るのなんていつぶりだろう」
「ごめんね姫白さん。俺の家こんなのしかなくて」
「全然だよ。私もたまにゲームはするし」
今日は夕方からという事もあり、姫白さんの門限までだいぶ時間がある。その為二人でゲームをして遊ぶ事にしたのだ。
姫白さんもゲームに興味を示してくれたので快く俺の提案を受け入れてくれた。
テレビゲームもいいけど、今後の事も考えて他にも何か暇つぶしグッズ的なものがないか調べてみよう。
「よいしょっと」
すると、ソファに腰をかけていたはずの姫白さんは地べたに座る俺の隣へと座り直す。
「えっと、姫白さん?」
「ん? どうしたの大路君」
「近くないですかね?」
「何が?」
「いや、距離がさ」
肩が触れそうな距離にまで姫白さんは身を寄せてくる。
隣からはふわりと石鹸のような良い匂いがして、ついドキドキしてしまう。
どうしてわざわざ隣に? てか、声も近い。
「こっちの方が見やすいと思ったんだけど、駄目?」
「駄目ではない……けど」
そんな憂いを帯びた瞳で見つめられたら断る事なんてできないよ。
本人がそういうならと、俺は素直に従うことにする。
テレビがそこまで大きくないから、確かにこの地べたの高さがちょうど良いのは俺も同意見だが。
逆に俺がソファに移ってもいいのだけど、それだと避けているみたいに思われそうで気が進まなかった。
「よかった。じゃあ、早くやろうよ」
「!」
そう促すかのように、姫白さんが俺の左肩に自分の肩を押し当ててくる。
「う、うん」
慣れないスキンシップにさらに緊張してしまう。
……さすがに恥ずかしいけどなこれは。
それよりも、汗とか変な匂いしてないよな。
帰ってきてから制服のままだけど今日はそこまで暑くもないし大丈夫だと思いたい。
「私、誰かとゲームするのなんて久しぶりかも。家にいる事自体少ないから家庭用のゲームで遊ぶのなんて小学生の時以来だ」
「俺も他の人と遊ぶのは久しぶりだよ」
最近はオンラインゲームが主流だから、こうして実際に肩を並べて近い距離で遊ぶのなんて子供の頃以来かもしれない。
俺たちの場合、くっつきすぎな気もするけど。
「でも、ちょうど二人で遊べるソフトを持っててよかったよ」
「昔からあるよねーこのレースゲームのシリーズ。私結構得意だったよ」
「マジ?」
「マジ。でもブランクあるから今は操作方法すら怪しいけどね」
これは、負けるわけにはいかないな。
自分の持つゲームでボコボコにされるのだけは避けたい。しかも女の子に。
だから経験があると聞いた時、正直ビビってしまう自分がいた。
「あっ、このキャラクター好きなんだよね」
姫白さんがオープニング映像を観て言った。
画面の中では車に乗ったキャラクター達が激しいレースを繰り広げている。
今から遊ぶのは、俺がまだ小さかった頃から流行り出したレースゲームシリーズ。
これはそれの最新作だ。当時はかなりハマっていた記憶がある。
最新作が出たという事で買ってはみたものの、殆ど遊ばずに積みゲーとなっていたが、ここで役に立つとは思わなかった。
「普通のレースにアイテムの要素が加わっただけなのに、すごく面白いよね」
「うん。てか、姫白さん詳しくない?」
「そうかな。子供の頃はよく友達とかと遊んでたからかも。意外と子供の頃の記憶って覚えてるものだよね」
姫白さんも懐かしく思っているのか、興味深そうに画面を見ている。
やはり同世代ということだけあって、周りで流行っていたものも同じみたいだ。
「姫白さんは今でもゲームするの?」
さっきはたまにすると言っていたけど、一体どんなゲームを姫白さんはするのだろうか。
「うーん、最近はアプリゲームかな。外でも遊べるし楽しいよ。大路君は?」
「俺はバイト始めてから殆ど遊んでないや。でもアプリゲームなら隙間時間でできるから良いかもね。俺も今度何かやってみようかな」
「ほんと! じゃあ私がオススメのアプリ教えるから一緒にやろうよ。周りで遊ぶ人全然いないからさー」
「いいよ。じゃあ後で教えてよ」
「えへへ、やった♪」
姫白さん嬉しそうだな。
共通の話題があれば、話しのネタにもなるからこれを機にアプリゲームをやってみるのも良いかもしれないな。
「それじゃ始めようか」
「うん! 負けないよ大路君。私のビギナーズラックをお見舞いするから!」
「俺もこのゲームの持ち主として簡単には負けないよ。恨みっこ無しだからな」
「オッケー!」
共に意気込みを口にしたところで、レースの設定を終えゲームのスタート画面へと移行する。
ルールは十回のレースを走り、順位によって貰えるポイントの総合点を競うモードだ。
「えーっと、確かこれがアクセル。ここでドリフトして……」
床に置いた説明書を見ながら姫白さんがコントローラーをいじる音が聞こえる。
隣でカチャカチャと待ちきれないといった様子が伝わってきて、なんだか可愛らしいな。
「姫白さん、準備はいい?」
「うん! いつでもいいよ」
「それじゃ、いくよ。レーススタート!」
軽快な音楽と共に、俺と姫白さんの初のゲーム対決が幕を上げた。
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