第12話 レッツクッキング
「あっ! 今、私の取ろうとしたアイテム取ったでしょ!」
「こういうのは早い者勝ちだよ
「なにを〜! おりゃ!」
「って! アイテムもう一つ持ってたのかよ!」
「ふふーん油断は大敵だよ
このゲームで遊ぶのは数年ぶりと言っていた姫白さんだが、最後のレースは一位を奪われてしまった。
「あ〜! でも総合点は私の負けか〜」
「姫白さん十分強かったよ。でも今回は俺の勝ちという事で」
「……仕方ないから今日は勝ちを譲るよ大路君」
姫白さん、意外と負けず嫌いなのかな。
結論からいえば、勝ったのは俺だが姫白さんも他のレースでの順位が高かったため、ポイントはさほど変わらなかった。
次やったら危ないかもしれない。
「私もこのゲーム買おうかなぁ。本体は探せば出てくると思うし特訓してリベンジだ」
「ははっ、いつでも受けて立つよ」
もし特訓してくるというのなら、俺も少しくらいは練習しといた方が良さそうだ。
それにしても。
「また今度絶対にやろうね大路君!」
「う、うん。わかった……」
俺の肩に身体を預けて悔しさを口にする姫白さん。
レース中の時といい、姫白さんとの間にあった僅かな隙間はなくなり、こうしてピッタリと俺にくっついてきているのだ。
最初のうちは車が曲がるのに合わせて傾いてきた身体が肩に触れるだけだったのに。気がついたらこの状態だった。
……コントローラーを傾けて自分まで傾いてしまう姫白さんは可愛らしかった。
「でも楽しかったなー。こんなに夢中になって遊んだの久しぶりだよ」
「俺も、白熱した戦いだったね」
いざこうしてみると、誰かと部屋で過ごす時間も悪くないな。
「くうぅぅぅ」
「くう?」
そんな空気の鳴るような音を聞き、音のした方を見ると顔を赤くした姫白さんがお腹を抑えていた。
「あはは……。ごめん今の私」
「もしかして……、お腹空いたの?」
「う、うん」
正直に答えた姫白さんは頬を紅潮させたまま俯く。
ふと窓の外を見ればすっかり暗くなっていた。
夕飯時だし、お腹が空くのも無理はない。
「じゃあ、ご飯にしようか。夜遅くに帰るなら、ご飯食べて行くよね」
「えっ、いいの?」
「もちろん」
「家で遊ばせてもらうだけでも有難いのに」
「そんなに気にする事ないよ。一人で食べるより誰かと一緒の方が美味しいしさ」
俺はリビングからキッチンへと移動して冷蔵庫を開ける。
うん、野菜もお肉もあるし材料は充分だな。
「じゃあ、じゃがいもとにんじんを使って……」
「えっ、ちょっと待って大路君」
「ん? あ、もしかして姫白さん苦手な物とかある?」
勝手に行動を起こしてしまい、またもや気配りが出来ていなかった事を反省する。
「ううん、そうじゃなくてさ。大路君は料理できるの?」
「まぁ、ある程度は。なるべく自炊するようにはしてるけど」
姫白さんはそれを聞いて驚いていた表情を浮かべる。
「何その女子力の高さ……。一人暮らしでバイトもして料理もできるって、超人すぎだよ」
一般的な家庭料理が少しだけ出来るくらいだから、そこまで凄いわけではないのだけど。
「姫白さんの超人へのハードル低くない?」
世の中にはネットで数多くの料理レシピが公開されているため、調べればなんとかなるものだ。
俺は一人暮らしをするに当たり、掃除に洗濯等の一通りの家事に加え、栄養のバランスの事も考えて料理を作っている。
俺にとって家事は勉強の息抜きにもなって、ちょっとした楽しみでもあった。
「そんな事ないよ〜。で、何作るの? 私も何か手伝うよ」
「別に俺一人で大丈夫だよ?」
「駄目だよ! 私はお世話になってる立場なんだからやれる事はやらないと」
俺としては寛いでいてもらっても良かったのだが、本人がそう言ってくれるのであれば、ここはお言葉に甘える事にする。
「姫白さんも料理できるんだ」
「まかせてよ! カップ麺を作らせて私の右に出る者はいないから!」
……要するに、普段料理はしないってことか。
今の口ぶりから、いかにも料理ができるような感じで手伝いを申し出てくれたけど、できる事は限られるようだ。
「じゃあ、俺が洗ったレタスを千切ってもらってもいい?」
「任されました!」
そう言って可愛い敬礼ポーズをしてから姫白さんは俺の横に並んで立つ。
そんなにキッチンスペースも広くないせいか、距離が近い。
少し動いただけでまたしても肩と肩がくっついてしまいそうなくらいだ。
「私が作るのはサラダだよね?」
「うん」
「あとは何作るの?」
「お米を炊いて、じゃがいもと牛肉があるから肉じゃがかな」
「肉……じゃが。そんなに高度な物を作れるなんてさすがだね」
「そんな大したものじゃないよ」
煮物は大体食材があれば成立するから比較的楽で簡単だ。
一人暮らしを始めたばかりの頃は野菜炒めとか煮物とかレシピを見ながら適当に作っていたし。
「話し聞いてたら余計お腹が空いてきちゃったよ」
「じゃあ、さっそく準備に取り掛かろう」
姫白さんが空腹感に苛まれ始めたようなので、本格的に料理をスタートさせる。
誰かと食卓を囲むのなんて久しぶりだから、正直俺もこの夕食の時間は楽しみだ。
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