第24話 お姉さん……だと!?

 

 次の日の夜、姫白ひめしろさんとは別に普段の作業へ戻っていた俺のところへ再び店長がやってきた。


「じゃあ、あとよろしくね大路おおじ君」


「あ、はい。でも本当に俺でいいんですか? 俺もまだ入って三ヶ月くらいですけど」


「大路君はもう十分アルバイトとしては独り立ちできているからね。シフトも二人が同じ日の方が多いし、気心が知れた仲の方が姫白さんもやりやすいんじゃないかな?」


「は、はい!」


 店長から視線を向けられて、今日も俺と共に出勤した姫白さんは大きく頷く。


「品出しについては来週から教えるから、今週は前出し作業に集中してもらうからね」


「まずは商品の場所を覚えるところからですよね」


「さすが大路君。わかっているね」


「いえ、俺も同じ流れだったので」


 前出し作業は、陳列された商品が崩れているところを手直しする事をいう。

 簡単に見えて綺麗な売り場作りには欠かせない作業だ。俺も最初はその作業を教えられた。


「大路君はいつもの仕事をしながら度々姫白さんの様子を見てあげて。姫白さんはわからない事があったら大路君にすぐ聞くこと。いいね?」


『はい!』


 俺と姫白さんは声を揃えて返事をする。


「シフトの方もしばらくは二人とも一緒だからね。それじゃ、あとは若い二人に任せて私は帰らせてもらうよ」


「店長、それ使い方間違ってますよ……」


「ははっ、んじゃよろしく」


「お疲れ様でしたー」


「お疲れ様でした!」


 バックヤードへと下がる店長を見送って、俺たちはバイトを続ける。


「姫白さんのシフト、やっぱりほとんど俺と一緒なんだね」


「うん。大路君よりちょっとだけ出勤日が少ないくらいかな」


 昨日の時点では、事前に俺と姫白さんが重なるようシフトを組むと聞かされていたが、どうやら完成したシフト表を姫白さんは渡されたようだ。


「大路君、店長さんに凄く気に入られてるんだね。パートさんも言ってたよ」


「ただ言われた仕事をこなしてるだけなんだけどなぁ」


「でも、それがお店側には大変助かってるって事だよきっと」


「そうかな。そういえば、店長も姫白さんの事褒めてたな。教え甲斐があるって」


「ほんと? やったね♪」


 嬉しそうに手でピースを作る姫白さん。


 楽しそうでなによりだ。

 人によっては仕事が合わなくて辞めてしまう人もいると聞く。けれど、姫白さんもこの様子なら俺同様に続けていけそうだ。


 姫白さんは勉強ができる分、物覚えが早い。

 作業の決まり事。それに、商品の場所も覚えるのが早いようで昨日教えた事もしっかり覚えていたと、先ほど店長からも聞いたしな。

 まさに、期待の新人が入ってきたというところだろうか。


 おっと、今は売り場にいるのだから私語はこれくらいにしとかないとな。


「じゃあ、姫白さんはここから前出し作業お願いします」


「うん、わかった!」


「俺はあっちで陳列作業してるから、何かあったら呼んで」


 張り切る姫白さんに作業を任せて俺は再び自分の仕事をするため、商品在庫を取りにバックヤードへと移動する。


 在庫起き場を見ると品出し用の札がついた台車が数台用意されていた。

 こうして、俺たちバイトが仕事をしやすいように事前にお昼からのパートさんが準備してくれているのだ。俺たちは基本、それを引き継いで作業をする。


 今日はそこまで忙しい日ではないからこれくらいか。


 休日とかだと売れる商品在庫を抱えて置くため大量の段ボールが乗せられているのだが、今日の納品数は少ないようだ。


「これなら、姫白さんの作業状況を見る余裕もありそうだな」


 俺はすぐに品出しを始めようとバックヤードから商品台車を持って、売り場へと戻る。

 ちらりと、姫白さんの姿を確認して俺は自分の仕事を黙々とこなしていく。


 しばらくの間、作業に専念して自身の仕事の終わりが見えてきた頃。


「ふぅ、ちょっと休憩」


 俺は一旦作業を中断して姫白さんを探す。


「姫白さんは……っと」


 どの辺まで作業が進んだか状況確認をするため店内を見渡す。


「おっ」


 すると、お菓子コーナーで姫白さんの姿を見つけた。

 これだけの時間でここまで進んでたのか。やっぱり飲み込みが早い。


「姫白さん」


「あっ、大路……君」


「ん? あれ、ごめん。取り込み中だった?」


 声をかけると、姫白さん以外にももう一人いた。


 見たところ、制服姿の女子高生に姫白さんが話しかけられていたようだ。


「ん?」


 あれ、この制服って、ゆきが通ってる絢爛けんらん女子高校の制服だよな。

 確か、リボンの色で学年分けされてるって言ってたから水色のリボンをしているって事は、雪とは同級生か。最初見た時は気づかなかったな。


 しかし、俺が制服を見てすぐに絢爛女子の生徒だとわからなかったのには理由があった。


 姫白さんの前に立つ女子の髪は金髪。しかも制服をだいぶ着崩していた。

 そのため、それが雪が着ているものと同じ制服だと気がつくのが遅れた。


 見た目はギャルっぽい感じだけど、あの絢爛女子にもこういった生徒がいるんだな。


 だが、やはり絢爛女子に通う生徒の容姿のレベルはかなり高いらしい。顔は整っているし背も高い。それに美人だ。


 もしかして、姫白さんの知り合いとかかな。


「姫白さんの友達?」


「う、ううん。そういう関係じゃないんだけど……」


 では、なんの話をしていたのだろうか。商品の場所を聞かれたとかかな。


「君……誰?」


 すると、ふんわりとしたスタイリングのセミロングヘアの金髪女子高生が俺に気づいて強目な口調で言う。


 どうして喧嘩越しなのかはわからないが、とりあえず表情を崩さぬよう心がける。


「もしかして、麻帆まほの彼氏?」


 どうしてみんな俺と姫白さんの仲を恋人と印象付けるのだろうな。店長もそうだったけど、お客さんにまでそう見られるとは。

 あれ、でもこの人姫白さんの事知ってそうだけどな。姫白さんは知り合いじゃないって否定してたけど。


「へぇ、いつの間に彼氏なんか作ってたんだ」


「あ、いや俺は……」


「ち、違う!」


 俺が訂正しようとしたところで、先に姫白さんが前に出た。


「違うよ。……お姉ちゃん」


 ……え?

 まって、今この人の事、お姉ちゃんって言わなかったか!


 という事は、この人姫白さんのお姉さん⁉︎ どうしてこんなところに⁉︎

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