第55話 白雪姫と小さな女の子 2

 

 雪が引っ越す前、家が近所だった頃の話だ。

 小雪ちゃんとは、雪の後ろについて回って一緒に遊んでいた事を覚えている。


 あの頃は、今よりもさらにちっちゃくて幼稚園に通っていたから、覚えていてくれているか心配だったけど、雪から聞いた様子だと覚えていてくれたみたいだな。

 俺にとっても、小雪ちゃんは妹みたいなものだから素直に嬉しい。

 ただ、俺もこうして会うのはその時以来だからこの歳にして、子供の成長ぶりに感動を覚えてしまっていた。


「小雪ちゃんは何歳になったのかな?」


 そのせいなのか、俺は親戚の叔父さんのような態度で声をかけてしまう。

 俺は大人しく座る小雪ちゃんをびっくりさせないように優しい口調を意識した。


「……なんか真人ちゃんさ。小雪には優しくない?」


「当たり前だろ。雪と違って小雪ちゃんは純粋で可愛い女の子なんだから」


「なんですとー!」


「雪はとりあえず静かにしててくれ」


「ガーン! ひどいっ!」


 本当に昔から正反対の姉妹である。

 歳が離れた兄弟がいると、よく上の子の真似事を下の子がすると聞くけれど、活発的な雪と違い小雪ちゃんは小さい時から大人しかった。


 現に今も、俺と雪の会話を黙って聞いていたわけだし、変わらず成長していることに安心する。

 別に雪が悪い子だとは思っていないけどな。

 ついさっきの仕返しで意地悪をしてしまっているだけである。


「まぁ……。真人ちゃんは小雪の事可愛がってくれてたからなぁ」


「……」


「って、こーら。小雪はちゃんと質問に答えなさい」


 小雪ちゃんは雪に肩をぽんぽんとされて俺の事をじっと見つめる。

 その瞳はすごく綺麗でまるで潤んでいるように見えた。子供だから体温も高いせいか、頬もやや紅潮しているようだ。


「……十歳」


「そっかぁ。じゃあ、今五年生かな?」


 俺は小雪ちゃんが話しやすいように笑顔を見せる。すると、小雪ちゃんも小さく笑みを浮かべて小さく頷いてくれた。


「そっか、久しぶりに会えて嬉しいよ」


「うん。わたしもお兄ちゃんに会えて嬉しい」


 なんだこの小さくて天使みたいな子は。


「なぁ、雪。相談なんだが、小雪ちゃんを俺の妹にするというのはどうだろう」


「真人ちゃんどうしたの急に。落ち着きなよ」


「……いや、お前にだけは言われたくないわ」


 小雪ちゃんの可愛らしさに思わずそんなことを口走ってしまった。

 ……はっ! 麻帆には変に思われなかっただろうか。

 そう後悔していると、小雪ちゃんはチラッと俺の隣にいる麻帆を見た。


「えっと、初めまして小雪ちゃん。姫白麻帆です。よろしくね」


「……はい」


 あれ? あからさまに小雪ちゃんの態度が変わったような。


 ああ、そういえば小雪ちゃんは昔から人見知りだったな。久しぶりに会うとはいえ、俺とは面識があるわけだし。麻帆相手には緊張しているのかな。


「麻帆は小雪ちゃんとは初めましてなんだ」


「うん、雪さんから写真とか見せてもらって妹さんがいるのは知ってたんだけど。会うのは初めてだよ」


「そっか」


 麻帆の姉の茜さんと雪は親友同士。そういう家族関係の話とかもするのだろう。

 元々麻帆は俺と出会う前から雪とも知り合いだったようだからそういう機会があってもおかしくない。


「お兄ちゃん」


「ん? 何かな小雪ちゃん」


 小雪ちゃんが昔と変わらず俺をそう呼んでくれるのが嬉しくて、つい口元が緩む。


 一人っ子だった故に、本当に小雪ちゃんの存在は俺からしたら可愛い妹のようなものだからな。雪との付き合いも長かった分。小雪ちゃんとの付き合いもそれなりにあったのだから。


「お兄ちゃんと、麻帆さん……は、恋人同士、なの?」


「「はい!?」」


 咄嗟に聞き返す俺と麻帆。小雪ちゃんの隣に座る雪は「あははっ」と何か楽しいものでも見つけたように悪戯に笑っている。


 小雪ちゃんは、顔を赤くする俺たちを見て追い討ちをかけるように言う。


「雪姉が、二人は一緒に暮らしてるって言ってたから……」


 それを聞いて、俺は悪戯の主を睨む。


「おい雪。小雪ちゃんに誤解を招くような事言うなよな」


「だって、小雪の反応が面白いからさ。ついつい」


 テヘッと下を覗かせる雪。


 ついついじゃねぇー。それより、小雪ちゃんが恋愛について語る年齢になっている事に驚きだ。最近の小学生は進んでいるんだなぁ。


「こ、小雪ちゃん。仲が良いのは認めるけど、俺と麻帆はさっき言ってた通り友達だよ?」


 俺がそう言って麻帆に目配せをする。


「う、うんっ。私達まだそういう関係じゃないもんね」


 俺の意図を汲んで話を合わせてくれる麻帆。


「でも、雪姉がそういうことは嘘をつくものだって……」


 俺は雪を睨みつけるが視線を逸らす。


「本当に違うよ。俺と雪は友達」


「本当に?」


「うん。本当だよ」


「……そっか」


 それを聞いて安心したのか小雪ちゃんには笑顔が戻っている。


 子供とはいえ、こうして面と向かって恋愛話を持ちかけられるとハラハラしてしまうな。

 ほんと俺、こういう免疫全然ないんだよなぁ。


「ふ〜ん。まだ……ねぇ」


 そこまで聞いていた雪は、小さくそう呟いた。


「……っ」


 そして、いやらしい視線を向けられた麻帆が困った顔をする。


「……雪。お願いだからもう何も言わないでくれ」


「あははっ、ごめんごめん。もう今日は言わないよ~」


「今日はかよ……」


 事態をややこしくしている張本人は、完全にこの現状を楽しんでいやがる。

 相変わらず麻帆は俺の友達の拓也同様に、特定の相手を揶揄うのが好きなようだ。

 まだこの先、こんな辱めを味わうことになるのかと考えると今後が思いやられるな。

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学校で眠ってばかりのシンデレラは、今日も俺の家で甘えるそうです 桃乃いずみ @tyatyamame

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