第54話 白雪姫と小さな女の子 1
それから、あっという間に日は過ぎて行き帰省日の前日。
俺の家には意外なお客さんが訪問していた。
「いやー、本当に真人ちゃんと麻帆ちゃんが一緒に暮らしてるなんて〜。お姉ちゃんびっくりだよ」
「だから何度も言うけど、通ってるだけって言ってるじゃないか。それとお姉ちゃん言うな!」
リビングで俺の対面に座るのは白瀬雪。俺が引っ越してきたこの街で偶然再開した幼馴染だ。
「でも、一緒にいる時間が長い事に変わりはないでしょ?」
「ぐっ……。それはそうだけどさ」
今まで外で何度か会ってはいたけれど、こうして俺の家に遊びにくるのは今日が初めてだった。
しかも、事前の連絡無しに突然来たのでインターホンを前にした時は驚いた。なにせ、俺は雪に自宅がどこにあるのか教えていなかったのだから。
もし外出中だったらどうするつもりだったんだ。
「ごめんね真人君。お姉ちゃんが勝手に……」
「いや、大丈夫。麻帆が謝る事なんてないよ。別に怒ってるとかではないから、茜さんも悪気があってした事じゃないだろうし」
どうして雪が俺の自宅の場所を知っているのかと本人に聞いたところ、「茜からマンションの場所と部屋の番号を教えてもらったんだよー」との事ですぐに理解した。
茜さんには以前、うちのポストへ麻帆宛の手紙を投函してもらう際、俺の住むマンションと部屋番号を教えている。つまり、麻帆同様に茜さんは俺の自宅の場所を知っているのだ。
それを親友関係にある雪に聞かれれば、当然教えるだろうな。
雪自身も俺がマンションで一人暮らしをしている事は知っていたけれど、どこに住んでいるかまでは教えていなかった。
茜さんの性格上、俺に何も教えてくれなかったのが彼女らしいというかなんというか……。
「麻帆ちゃんも急にごめんね〜。驚いたでしょ?」
「い、いえ」
お茶を淹れてテーブルに置いてくれた麻帆が席に着くなり、突然そんな事を口にする。
それならせめて、事前に連絡してほしかったけどな!
「むふふ、しかも二人でいちゃついてた時にお邪魔しちゃって」
「「なっ!?」」
雪の言葉に俺と麻帆は同時に反応した。
「別にいちゃいちゃしてたわけじゃっ!」
「そ、そうですよ! 真人君の言う通りです」
「でも真人ちゃん、さっきから機嫌悪いから」
「そんな事はない。ただ、俺たちは付き合っているわけではないんだし……」
「……うん」
麻帆、お願いだから今はそんな悲しそうな顔をしないでくれ。
「とにかく! そういう事を無闇に言うのはやめてほしいってだけだ。麻帆だって困るだろ」
雪の悪ふざけは時として行き過ぎなところがあるからな。昔からの付き合いがある俺にとって、他の誰かを巻き込むのは頷けない。
「ふーん。じゃあやっぱり真人ちゃんにとってはお邪魔だったわけだね?」
「違うって! 俺はいきなり来られたのにびっくりしただけで……。それより、麻帆を話に巻き込むなって話で」
「真人ちゃんはそうかもしれないけど、麻帆ちゃんは?」
「えっ!」
「おい! 無視するな!」
おれが弁明しているうちに、雪の意識は麻帆の方へと向いた。
「麻帆ちゃんは、私に言われた事は嫌だった? 二人の関係についても。少なくとも私は二人がかなり仲が良いと思うんだけど」
「えっ! いや、私は別に気にしてないです……その、ふ、深い意味はありませんけど。仲が良いと思われるのも嫌ではないです」
ほら、麻帆も実際困っているじゃないか。
「付き合ってはない……ですけど」
顔が少し赤いけど、決して良い方に捉えてはいけない。あんな恥ずかしい事を言われれば誰だって同じ反応をする事だろう。
「ふふん、なるほどね〜」
「なにが、なるほどなんだよ」
「二人とも素直じゃないなぁ、って話」
「はぁ?」
雪は何か満足したような顔をして、腕を組んで背もたれに身体を預ける。
何かを納得した様子だけど、せめて事前に連絡が欲しかったのは正直なところだ。
しかし、
「それより雪。まさか小雪ちゃんまで連れてくるとは思わなかったぞ」
「!」
話はひと段落したが、俺たちの話を静かに聞いていた小さなお客さんに視線を移す。
そう、リビングにはもう一人いる。雪の隣には小さな女の子が座っていた。
目は大きくクリっとしており、頬は柔らかそうにぷっくりとしたショートヘアーまるで雪を五、六歳若返らせたような瓜二つの可愛らしい女の子が座っている。
「えへへ。私が真人ちゃんに会いに行くって言ったら、付いてくるって聞かなくてさー。ねっ、小雪」
「……うん」
雪の問いかけに小雪ちゃんは小さな声で小さく頷く。
全てがちっちゃくてつい、子供ながらの愛らしさを感じてしまう。
この子は、白瀬小雪ちゃん。見ての通り雪の妹である。
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