第47話 意図

 

 俺は、口を塞いで手紙を見つめたままの麻帆を見つめる。

 しかし、心は落ち着かない。


 彼女は気付いていないだろうが、俺はテーブルの下で自分の手を合わせて忙しなく指を絡ませ動かしている。

 落ち着きがないとはまさにこの事だ。


 自分から茜さんに頼んだ事とはいえ、手紙の内容が麻帆にとって決して良い内容だとは限らない。それは最初からわかっていた事だ。


 茜さんはプライド高そうだし自分の気持ちについては明かさなそうだもんな。


 今回の手紙の件については俺が考えた。


 デートの日に合わせてうちのポストに麻帆に宛てた手紙を投函するようお願いしていたのである。

 おそらく、ただ俺が言っても聞き入れてはくれなかっただろう。

 恥ずかしさを捨て土下座までしたおかげで、現状に至ったと言ってもいいだろうな。それこそ茜さんが言っていた俺のズルい部分だ。

 正直、あしらわれてもおかしくなかったけどな。一か八かの行動が実を結んだ事に変わりはない。


 どうして手紙を書くのか。その意味は何なのか。

 茜さんに聞かれた時、俺はすぐに答える事が出来なかった。


 希望をそのまま言えば、麻帆のことを少なくとも嫌ってはいない事を綴ること。それが望ましい。


 でも、麻帆が茜さんを好いている事は俺からは明かせない。

 だから、茜さんには麻帆が茜さんに嫌われている事を相当気にしている事だけを伝えた。

 それは麻帆が普段自宅に居ないことを考えれば、ある程度の事情は勘付かれてしまうかもしれない危険性はあれど、妹としてまだ好きでいることだけは伏せたままに、少しでも楽にしてあげてほしいと頼んだのだ。


 俺が麻帆が茜さんのことをお姉さんとして好きでいることは俺から伝える事が出来なくても、麻帆がその件を気にしていることだけは知ってもらいたかったのだ。


 それを伝えたとしても、麻帆が茜さんのことを好いていることを決定づける理由にも、茜さんが望む麻帆に嫌われたままでいたいという希望も崩す事にはならないはずだ。


 茜さんが妹として麻帆を大切に思っていることをバラさずに少しでも和解させるにはそれしかなかった。


 あとは、手紙を読んだ麻帆がどう受け取るかだ。


 俺は自宅のポストから手紙を取っただけで、中身は読んでいない。だから、結果がどうなるかは麻帆次第なのだ。


「……」


 直接は言えないけど、俺は二人に知って欲しい。

 昔も今も二人は姉妹なんだって事に変わりはないんだよって事を。

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