第42話 ハイキングデート 2

 

「すごいな……」


 麻帆と手を繋いだまま展望台に足を踏み入れる。


 目の前に広がる光景は自分たちが登ってきた木に枝葉などの自然。それと遠くの方には俺たちが来た街の方の景色が広がっていた。


「うわー! 良い景色」


 そよ風が俺たちを迎える中、風になびく髪を抑えてそう述べる麻帆の横顔につい見惚れてしまう。


「ねっ、真人君」


 彼女はこちらに視線を向け、キラキラと輝めいた瞳から顔を背けるようにして恥ずかしさを紛らわせる。


「うん、本当に」


「ここでお昼休みができるね」


 展望台には雨を凌ぐ屋根と、休むためのいくつかのベンチ、その敷地を埋める煉瓦。

 自然の中に人工的に作られた休憩所が作られていた。


「ベンチもあるからとりあえず座ろうか」


 一応、地べたに座れるようにピクニックで使うシートも持ってきてたけど不要だったみたいだな。


「真人君、せっかくだから写真撮らない?」


 リュックをベンチに置くと麻帆がスマホを持ってお願いしてくる。


「だね。こんな綺麗な景色撮らないと勿体無いよな」


「うん、それもそうなんだけど……」


「?」


 俺もスマホを取り出すと、何やら麻帆がモジモジとしだした。


 こういう時は、なにか俺に言いにくいことがある時の仕草だけど。話の流れ的にお手洗いというわけでもなさそう。

 てか、デリカシーに欠けるよな。明らかに他の理由だろう。


「二人で撮りたいんだけど、いいかな」


「あっ」


「二人で来たデートの記念に……」


 そういう事か。景色ばかりに気を取られてたけれど、今日は麻帆と二人のデートなんだ。


 手を繋いだ時もそうだけど、一緒に何かしたいというのにはその根底があったからか。


「うん、いいよ」


 俺と麻帆は展望台の柵の方へと近づく。


 他の登山者が居ないから、自撮りのような形で俺たちは写真を撮る事にする。こういう時に自撮り棒と呼ばれる物が役に立つのだろうな。

 まぁ、他の人に撮ってもらうのはそれはそれで恥ずかしいのだが。


「私のスマホで撮ろうか。あとで真人くんにも画像送るね」


「分かった」


 俺はスマホをポケットに入れてから麻帆の隣に並ぶ。


「いくよー」


 展望台からの景色を背景に麻帆がシャッターを切る。

 天気も良いから本当に写真を撮るにはもってこいの日だ。


「……うーん」


「どうかした?」


 撮った画像を確認していた麻帆が不服そうな声を漏らす。


「あまり写ってない……」


「えっ」


 そう言われて麻帆のスマホを見ると、景色は撮れているが、俺と麻帆が半分ずつぐらいしか写っていなかった。


「真人君、もう少し寄って」


「あ、うん」


 先ほどよりも近い距離にぐっと近づくと、麻帆と肩が触れる。


「!」


 家で過ごす時も似たような事があるとはいえ、こうして外でくっつくのは恥ずかしい。


「じゃあ、撮るよー」


「ん」


 それからもう一度シャッターが切られた。


「――うん! 良い感じ」


「本当だ。よく撮れてる」


 女子とのツーショットなんて、子供の時を除けば初めてだ。

 よく見ると、二人とも顔が少し赤いけど麻帆も同じ気持ちだったのかな。


 麻帆と二人の初めての二人きりの写真。俺にとって大切な宝物になることだろう。

 側から見ればカップルと同じ距離感だもんな。


「なんだか……」


「ん?」


 麻帆が写真を見ながらニコッとして俺を見ていう。


「付き合ってるみたいだね。……私たち」


「!?」


 麻帆からそんな直接的な言葉が出るなんて思いもしなかった。

 彼女の顔は写真よりも更に林檎のように真っ赤に染まる。


 ……これは、ここでってもいいかもしれない。


「麻帆……、俺さ」


「う、うん」


 互いに緊張が走り、周囲を吹き抜ける風の音だけが聞こえる。


 プルルルルッ。


『!?』


 なんと間の悪いタイミング。


 俺が人生で一番緊張したであろうこの時間に、水を刺すように俺のスマホが鳴った。


「真人君、電話?」


「うん、そうみたい。ごめん」


 俺は着信相手を見て我へと帰る。


 そうか。


「ううん、気にしないで出てあげて」


「ありがとう」


 笑顔を見せる麻帆に勧められた俺は少し離れたところで着信の応答ボタンを押した。


『もしもし、大路君?』


 スマホから聞こえる声に、先程の昂まった気持ちを抑えながら応答した。

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