第7話 もう一人のお姫様

 


「夢じゃなかったんだなぁ」


 翌日金曜日の早朝。俺は一人学校へと向かっていた。


 通学路を歩きながら朝一番にある人物からスマホに送られてきたメッセージを開く。


 姫白さん『大路君おはよう! 今日もよろしくね♪』


 と、朝起きて早々に連絡アプリにメッセージが送られてきたのである。


 そういえば、昨日の帰り際に連絡先を交換したんだった。


 送り主は、『お昼時のシンデレラ』こと、姫白麻帆ひめしろまほさん。

 同じクラスで隣が隣同士。

 そして、昨日高校に入って初めてできた女の子の友達だ。


 友達になったばかりにしては、関わる事の度合いが半端なかったんだけどな……。


 昨日はあの後、小一時間ほど紅茶を飲みながらの雑談で終わった。


 好きな食べ物の話や、休日は何をしているかなど無難な質問のやり取り。

 他にも聞きたい事はあれど、お互いのプライベートの話などは話したくなったら話せば良いし、今は彼女が放課後外を出歩く詳しい理由についても追求するつもりも今はない。


 それに、こうして連絡するまでの仲になれたのだからいずれそういう話も自然と話してくれるだろう。


 大路『おはよう姫白さん。今日はバイト休みだから、放課後になったらいつ来てくれても大丈夫だよ』


 俺はそう姫白さんへ返信を返す。

 学校に行くための準備があったためにすぐに出来なかったのは申し訳ないが、登校中ならその時間が取れる。


 と、再びポケットにスマホをしまおうとしたタイミングでメッセージが届く。


「返信早っ!」


 少し時間が開いていたというのに、速攻で返信が来て驚く。


 姫白さん『分かった! じゃあ、私一旦帰ってから大路君の家に行くね』


 大路『わかった。急がなくていいからね』


 俺は姫白さんの返信に対してそう打ち終わった後に、OKのスタンプを返す。


「ん? ははっ」


 すると、今度は姫白さんからのスタンプが送られてきた。

 そこに表示されていたのはデフォルメで描かれた猫が走っているスタンプだ。


 姫白さんらしくて可愛いな。


 俺もお返しにと、犬が敬礼しているスタンプを最後に返した。

 それからすぐに既読が付き、もう一度メッセージが送られてくる。


 姫白さん『私ちょっと眠いか』


「なんだこれ?」


 途中まで打たれたであろう文面を見て何を表しているのかを考える。


 『眠』って書いてるって事は、眠いとかそう言った事を表現しようとしたのかもしれないな。


「あっ、もしかして『眠いから寝る』って書こうとしたのか」


 状況を察するに文字を打っている途中で力尽きて寝てしまったのだろうか。

 でも、普段学校で寝てばかりの姫白さんが遅刻したところだけは見た事がないから、おそらくもう学校には居るのだろう。


 ……うん、想像はつくな。


 きっと俺の隣の席でスマホ片手に寝ているか、もしくは机にスマホを投げ出して寝ている姿が思い浮かんだ。


 教室に着いたらスマホだけは机の中にだけでも、こっそりしまっといてあげようかな。

 流石の先生も学年一位だからって、スマホを机の上に置いてたら没収してしまうかもしれないからな。


 それから俺はもう一度姫白さんとのチャットでのやり取りを眺める。


「一度家に帰る……か」


 姫白さんは自宅に居たくない理由が何かあるみたいだけど。

 思い当たるところとしては家族関係……ってところなんだよな。

 けど、昨日見せられたお母さんとのチャットでは仲が悪そうには見えなかったし。となると、お父さんと何かあるのかな。

 それとも他にも理由が何かあるのか?


「って、気にしてもしょうがないか」


 俺は本人の口から聞かされるまではこの件について追及しないと決めたのだから、変に色々考えるのも良くない。

 今はとにかく、姫白さんの友達として力になれる事をしてあげよう。


 それよりも、今日も姫白さんが来るのなら少しくらい部屋の掃除とかしといた方がいいか。

 来客用のお菓子とかも買っておかないとな。

 昨日よりも早い時間に来るって事は、夕飯も食べていくのかな?

 それなら帰りに少しスーパーで買い物して行くか。


「…………」


 今までこんな事気にした事なかったのにな。

 姫白さんの事を考えると、だらしないところは見せられないなと思ってしまう。


 中学の頃も友達が全くいないというわけではなかったが、家に誰かを呼ぶ事もなかった。

 しかも今は一人暮らしだ。それが相手が女の子ともなれば意識しないわけがない。


 そう考えていた時だった。


真人まことちゃーん!」

「⁉︎」


 突然背後から声が聞こえたかと思えば、背中に衝撃を感じて危うく前に転びそうになる。


 こ、この声って……。


 後ろから回された腕にギュッと抱きしめられ、背中にはなにか柔らかいものがあたっている。


 なんとか衝撃に堪えた俺は、恐る恐る後ろへ振り向き目を向ける。


 いきなりこんな事する人物は、俺の知る中でしかいない。

 

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