第40話 目的地へGO!


「気合い入れすぎたか」


 次の日、早くに目が覚めた俺は予定よりも三十分も早く駅前に到着してしまった。


 今日は初めての麻帆と二人でのデート。

 お互いに付き合ってはいないけど、男女でお出掛けするのは歴としたデートだと拓也に言われてから妙に意識をしてしまう。


 だから今日もいつもより早く目が覚めてしまったのだ。おかげでお弁当も良い物ができたので結果として良かったのだが。


「格好も変、じゃないよな」


 俺は構内が見えるガラスの前で、自分の格好を見直す


 散歩が目的の為に、オシャレよりも機能性を重視したラフな薄手のカーディガンに身を包み、中にはTシャツ。これなら暑くなっても脱げるし、ズボンもゆとりのあるボトムを履いていた。

 年相応な爽やかな感じにしたつもりだけど、本当に大丈夫だよな。


 歩くとなると暑くもなるし疲れるだろうから、荷物はリュックに水筒と後はお弁当。

 他には財布とスマホと最低限の物だけ背負って来たけれど、もう少し格好には気を配った方が良かったか。


「俺、麻帆とデートするんだよな」


 色々考えるうちに不安になり、一度家に戻ろうかとも考える。

 今から走って戻れば時間には間に合うと思うし、やっぱり着替えて来た方が……。


「真人君?」


「⁉︎」


 スマホの時計を確認していると、横から名前を呼ぶ声がした。


「麻帆⁉︎」


「来るの早いねー」


 視線を上げると、ショート丈のボトムス、上にはTシャツと桃色のアウターを着た姿の麻帆がリュックサックを背負って隣まで来ていた。


 そして……。


「ポニーテールだ……」


「えっ?」


「あっ!」


 ヤバ……、つい声に。

 咄嗟に口を塞ぐが、はっきりと口にしてしまっていた。


「うん、そうなの!」


 麻帆はニコッと太陽のような笑みを見せてくれる。


「今日は汗もかくかと思って髪上げてきたんだ。変じゃないかな?」


「へ、変じゃない! すごく似合ってる」


「えへへ、ありがとう」


 好きな子が普段と違う髪型にするのってこんなにもインパクトがあるものなのか。


 一言で言えば、可愛すぎる。

 まさに、シンデレラの名に相応しい可愛さだ。贔屓目とか関係なしに今日の麻帆はいつもよりも輝いて見えた。


 普段も可愛いけど、アウトドアなファッションもとても似合っている。


「……ふぅ」


 まだハイキングはスタートしてすらしていない。

 それなのに、もう息が上がりそうなくらいに胸が高鳴っている。


「真人君も今日は涼しげな感じだね!」


 すると、今度は麻帆が俺の服装について感想を述べてくれる。


「一応どういうのがハイキングに合ってるのかネットで調べてみたんだ。あと天気も良いし」


「よく似合ってるよ。昨日も話たけど晴れて良かったよね」


「う、うん」


 麻帆、すごく楽しそうだな。

 これからの時間、どうか素敵な一日になりますように。


「それより、真人君早いね! まだ約束の時間より三十分も早いよ」


「麻帆だって、まさかこんなに早く来るとは思わなかった」


「あはは、楽しみすぎて早く出て来ちゃった」


「ははっ、俺もだよ」


 お互いに笑い合って同じ気持ちだった事を共感する。


「少し早いけど、電車はもうあるし行こうか」


「うん!」


 それから、俺たちは電車に乗って目的の山へ向けて出発した。


 電車の中で肩を合わせて座り、本当にカップルのように団欒とした会話を楽しみながら時間が過ぎていく。


 車窓から見える景色も街中から自然が広がる住宅地の少ない場所へと変わっていく。


「ねぇ、真人君」


「ん、どうかした」


 車内の人が途中途中の駅で降りていく中で、俺たちの乗る車両がほぼ俺たちになった時、麻帆が意を決したように口を開く。


「今日お弁当交換するって言ってたでしょ?」


「うん?」


 麻帆が膝の上に置くリュックに視線を落とす。


 俺もそうだけど、おそらく俺のために作ってくれたお弁当がその中に入っているのだろう。


「私、料理は少しできるようになったけど、お弁当なんて作るの初めてで」


 彼女の声には不安のようなものが感じられた。

 麻帆と過ごす時間が増えたからかな。自然とそのことが伝わってきた。


「だから、ちょっと自信がなくて。真人君が提案してくれた時はすごく楽しみだったんだけど」


 麻帆の手に力が籠る。


「上手にできてるか分からないんだけど……」


 彼女は元気な印象だけど、時折こういう弱さを見せる。

 俺はその姿を見ると、どうしても守ってあげたい、支えたいって思うんだ。それはきっと、麻帆のことが好きだから。

 姫白麻帆だから、そう思うんだろうなぁ。


 俺は、自然と下を向く麻帆の頭に手を乗せた。


「大丈夫だよ。麻帆が俺のために頑張って作ってくれたんでしょ?」


「うん、それはもちろん」


「だったら美味しいに決まってる。見た目がどうとか、味がどうとか関係ない。俺は麻帆のお弁当楽しみだよ」


「……真人君」


 若干の憂いを帯びた瞳に、思わず抱きしめたくなるような衝動に駆られる。


 ……いや、駄目だろ。どんなに愛しく想っていても、タイミングというものがあるのだから。


「それに、むしろ俺だってお弁当を作った経験なんて殆どないし。味はともかく、普通の料理とお弁当は別物だから難しいよね」


 俺は麻帆の不安を晴らすように笑ってみせた。

 でも、喜んでくれたらやっぱり嬉しいんだろうな。


「そんな、真人君のお弁当なら大丈夫だよ! 私も楽しみ」


「うん、ありがとう。俺も同じ気持ちだからさ、二人でのデ……デートを楽しもうよ」


「……うん、そうだね!」


 我ながら、恥ずかしいことを言った。

 話すつもりはないけれど、雪や拓也にこの話をしたらきっと俺らしくないと言って腹を抱えて笑われるだろうな。


 笑顔を取り戻した麻帆と話しているうちに、目的の駅へと電車は進んでいく。

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