第39話 初デート前夜


 いよいよデートの前日となった夜のこと。

 俺たちはいつものまったりモードへと突入していた。


「真人君や、明日は晴れるといいですなぁ」


「そうですなー。麻帆さん」


 俺がソファーに座ると、先にのんびりと寛いでいた麻帆が俺の顔を見て言う。

 最初は畏まっていた麻帆だが、今ではこうしてリラックスするまでに慣れてもらっている事に密かに嬉しく思っていた。


 それだけこの空間が羽を伸ばす場所として認めてもらっているのだと思うと場所を提供した甲斐があるというもの。

 それに、好きな人が毎日家に来てくれるなんてなんて贅沢なんだ。


「さっき見た予報だと晴れだったみたいだけど、このまま崩れないといいよな」


 俺は通常通りの口調で、テレビのニュース番組をつける。


「私なんて今夜楽しみで眠れないかも!」


「ははっ、小学生の遠足前みたいだな」


「だってさ〜」


 楽しみにしてもらえるのは嬉しい。当然俺も楽しみだけど、その分ちゃんとした振る舞いができるかという不安もある。

 でも大丈夫だ。俺なりにしっかりとデートに関する予習をして来たのだから、伊達に南沢高校の学年二位の学力を保持しているわけではない。


 問題はその相手の麻帆が学年一位だけどな!


「でも、本当に遠足みたいだ。ハイキングなんて子供の時ぶりだよ」


「私もだよ。でも山頂からの景色とかすごく有名みたいだよ!」


 明日のデートで行く場所は電車で三十分程離れた駅から歩いて行ける小さな山である。

 住宅もさほどない静かな自然に囲まれた土地で、この辺りでは散歩気分で楽しめるアウトドアに縁がない人でも初心者からも喜ばれるスポットの一つだ。


 てっきり街中やショッピングモールなどでのお買い物になるかと思って身構えていたけれど、以外にもハイキングデートという形になった。


 そして今回、この場所を希望したのは麻帆なのである。


「よくこんな場所知ってたね。道沿いにはちょっとした飲食店とかお土産屋さんもあるし、観光地っぽい感じもあるけど、こんな良いところがあるの知らなかった」


「えへへ、ネットで見つけて、真人君と行ってみたいと思ったんだよね。最近だと老若男女問わず人気みたい」


 と言う事みたいなので、麻帆の発案で俺たちは明日のデートコースを約束をしていた。


 そんなに標高も高いわけではなく高齢者やアウトドア初心者でも登れる山というのであれば普段バイトだけの生活である俺でもなんとかなりそうだ。


 あとは、その日に持っていくだな。


「あとさ、真人君のお弁当も楽しみだよ! お互いが作ったお弁当をお昼に交換しようなんて考え思い付かなかったよ」


「うん、ハイキングといえばお弁当かと思ってさ。ただ、麻帆にも負担をかけちゃうけど」


「全然大丈夫だよ〜。料理スキルも真人君のおかげでバッチリ身について来たし、弟子の実力を発揮してみせるよ!」


 力瘤を見せるポーズをするが、全く筋肉は浮き出ていない。

 そんな可愛らしい姿をする麻帆に頬が緩んだ。


「分かった。楽しみにしているよ」


「うん! でも本当にいい考えだよね。なんだかデートっぽくていい感じ」


 デート……。

 彼女の口から聞くと本当にカップルみたいだ。実際は付き合っていないけれど、今はただこの楽しい時間を過ごせるだけで俺は十分だ。


「そういう風にした方が楽しみも増えると思って」


「さすが真人君!」


 これは雪からデートのアドバイスをもらった時に思いついたものだった。


 お昼の時間帯に出掛けるとなると、昼食を摂る時間を設けることになる。その時にオススメのお店の話になった時、俺が自炊をしているからか、お弁当を作るのもありじゃないかと考えを持ったのだ。


 茜さんには、デートにお弁当持って行くのって場所によっては重く捉えられるかも。なんてポツリと言われたけれど、結果最高のデート場所になったのでむしろ効果的だったといえるだろう。


 そこに麻帆のハイキングがしたいという話を聞いて、それを応用した考えが思いついたのだ。


 俺が準備していくと伝えれば、麻帆も手伝うと言い出すのは予想できたからな。

 お互いに手料理を食べている分、どんなお弁当になるのか、より楽しみである。

 俺も自分で言っておいて童心に戻った感じがした。


 はぁ、早く明日にならないかな。

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