第34話 助っ人
週が明けた月曜日。
俺は学校の教室で、周りからの視線を一身に受けていた。
「まぁ、予想通りかな……」
当然、先週末のことがあったからだろう。瞬く間にクラス中にそれは広まり、朝からこんな状況だ。
やはり、俺と麻帆の仲に興味を持つ人が多いらしい。
幸い質問責めに合わないのが救いだが、視線を向けられるだけというのもプレッシャーがかかって辛い。
――なぁ、お前ちょっと聞いてこいよ。
――やだよ。俺大路と喋ったことねぇもん。お前が行けよ。
――俺だってないし。
――あの二人って仲良かったのかな?
――どういう関係なんだろうね。
クラスメイトたちがそれぞれ俺たちについて、こそこそ話している会話が聞こえてくる。
自分が友達作りをしてこなかった事に助けられるのは色々と複雑だけど。
「すぅー……」
その一方で、麻帆はいつも通り隣の席で熟睡している。
俺の部屋で昼寝をする事はあっても、やはり朝学校へは早く来ているらしく今日も夢の中だ。
ていうより、今までの生活リズムがあるからこの前のような振る舞いを学校でしたこと自体が本当に異例だっただけなのだろう。
「よっ! 思った通りの状況だな」
「拓也ぁ……」
俺の肩にポンと軽く手が触れる。
「そんな仔犬みたいな顔すんなって。自業自得だろ」
「それは確かにそうなんだけどさ」
笑いながら前の席に座る拓也。
「けど、俺も大変だったよ。お前たちのこと何か知ってるんじゃないかって、昨日一昨日とクラスの奴らからメッセージが沢山来て」
「えっ、そうなの!」
一昨日はそんな事一言も言ってなかったのに。
「安心しろよ。お前たちのことも聞かされた話も俺からは言ってないから」
こそっと俺にだけ聞こえるように、拓也は言う。
「ありがとう」
「でも、姫白さんはそういうの気にしてない……」
「すぅー……」
「……みたいだな」
「うん」
麻帆の様子を見て察したようだ。
「っていうか、プライベートの事は別にしても、お前との関係は隠すつもりもないんだろ? 姫白さん的には」
「そうみたい。この前の学校でのことも通常運転みたいだったから」
「ただ、普段は寝てるから周囲には気付かれてない状況が続いてたって事か」
「そうなんだよなぁ……」
学校にいる時に起きている俺は、周囲にバレないようにしていたけど、麻帆にそれは話していない。
だから俺が考えていることも、麻帆はわからずじまいだったというわけだ。
「ま、でも一歩前進なんじゃねーの。姫白さんとお前には何らかの繋がりがあるって認識は周りに与えられたんだからな」
「それって、どういう事?」
拓也が良かったなとでも言うような口調で話す。
「俺も最初は驚いたけど、この前のことがあってお前ら二人が付き合ってるんじゃないかって噂が立ってるんだよ」
「なっ!?」
いつの間にそんな事に!
「でもいいんじゃないか? どこかの誰かさんは姫白さんに他の男が近付くのは嫌みたいだしな」
「……それ、誰の話?」
「自分の心に聞いてみたらいいんじゃないか?」
ニヤニヤとした悪戯顔を浮かべる。
拓也、わかってて揶揄っているな。
でもそうか。俺が、麻帆の……。
いつか、この気持ちを本人に伝える事ができたらいいな。
けれど、今はもう少し、この関係を大事にしていきたい。
このまま永遠と何もしないわけにはいかないけど、周りがそう認識してくれたのなら、自分のペースで進んでいけばいいだけの事。焦る必要はないんだ。
「そうだ。今日俺部活休みなんだけど、一緒に帰らねー?」
と、そこで拓也が話題を変えてきた。
「あー、ごめん。今日はその、用事があって」
だが、俺は拓也の誘いを断った。
「もしかして、今日も姫白さんと帰るのか?」
「いや、麻帆はバイト。俺だけ休み」
「なら、用ってなんだ?」
「ちょっと、人と会う約束してて」
「……そっか」
「ごめん、今度この埋め合わせはするから」
拓也には色々と迷惑もかけているようだし、今度何かお礼をしないとな。
「わかった。まぁ、色々落ち着いたら今度こそダブルデートでもしようぜ」
デート……。
「うん、わかった」
俺は前に同じ事を言われた時よりも、はっきりとそう答えた。
◇◇◇◇
その日の夕方。
俺は一人ファミレスの席でコーヒーを飲む。
ここに来た目的は、約束をしていた人物と会うためだ。
「ふぅ」
美味い。
家では紅茶を飲む事が多いけど、やっぱりコーヒーも良いものだな。今度、いくつかインスタントでも買ってみるか。
麻帆も気に入ってくれるかもしれない。
「一人だけ休みって、こんな感じなのか」
家で迎えられる事の多い俺にとって、今日という日は新鮮だ。
麻帆は今頃、アルバイト頑張ってるんだろうな。
近くにいてあげられないのがもどかしい。
でも、今からの時間も大事な事だしな。背に腹はかえられない……。って、それはこれから来る相手に失礼か。
とりあえず、帰ったら美味しい晩御飯でも作って帰りを待つとしよう。
「真人ちゃーん。お待たせ〜」
「あっ」
お皿にカップを置いたところで、待ち人が俺の座る席へとやってくる。
「ごめんね。ちょっと遅れちゃった」
煌びやかな制服に身を包む彼女が俺の前で立ち止まる。
「いいよ全然」
そう、俺が麻帆とのデートに向けて相談するために呼んだのは、麻帆を除いた知り合いの中で唯一の女友達。
幼馴染の雪だった。
「珍しいね。真人ちゃんから話があるなんて」
「うん、ちょっと雪に相談したい事があって」
「そっか。じゃあ尚更遅れちゃって申し訳なかったね」
「いや、俺の方こそ、急に呼び出してごめ……」
むしろこちらから突然相談したいなどと連絡を入れたのだから、それについて謝ろうとしたその時。
「雪、歩くの早いよ」
雪の背後から声が聞こえた。
「だってー、真人ちゃんが見えたからつい」
「小学生かあんたは」
雪の後ろには、そうぼやきながら歩く見知った顔の人物がいた。
「どもー」
「あ、茜さん!?」
雪と一緒に現れたのは、麻帆のお義姉さんである茜さんだった。
ど、どうして茜さんが……!
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