第33話 デートの誘い
「私が部屋にいるのが迷惑なら……。そう言ってほしい」
麻帆は俯いて、弱々しくそう言う。
「な、」
なぜそんな話になっているのか、身に覚えのないことに俺は驚愕した。
「なんでそんな話になるの! 俺そんな事思ってないよ」
「でも、真人君の様子がいつもと違うから」
「!」
「今日は私の我儘でお昼前からお邪魔してるし。やっぱり、夜だけの方が真人君もいいんじゃないのかなって……」
もしかして……。俺が拓也から言われた事をずっと気にしていたせいで不安にさせてしまっていたのか?
「…………」
あんなに偉そうな事を言っといて、こんな顔させてしまうなんて。最低だな。
「……そんな事ないよ」
「じゃあ、どうして教えてくれないの?」
「それは……」
「真人君、私の話し聞いてくれるって言ってくれたよね」
「うん」
俺が麻帆の力になりたいとそう思っていた言葉だ。
「私にも真人くんのこと、話してほしい」
「俺……も?」
「うん、悩みがあるのは私だけじゃない。真人君だって……」
心配そうに俺の顔を見る麻帆に心が揺らいだ。
俺は、麻帆に自分の過去を明かしてる。それを聞いて、麻帆もずっと考えてくれていたのかもしれない。
本当に、俺の好きな人は優しい人だ……。
拓也に言われたからとかじゃないけど、やっぱり麻帆の隣にいるのは俺でありたい。
麻帆が学校では普段見せない姿。
それは明るくて可愛い、至って普通の女の子と変わらない一人の女子高生だ。
でも、おそらくお姉さんである茜さんとの事があるからか、たまに弱さを見せる。
俺はそれを、受け止められる相手でありたい。
彼女が頼れる人でありたい。
だから、ここはもう正直に話そう。
「……じゃあ、お願いがあるんだけどいいかな」
「もちろん。なんでも言って」
一息置いて、俺は覚悟を決めた顔つきをする麻帆のことを見つめる。
「今度さ」
「うん」
「二人で……外に遊びに行かない?」
これは、俺の弱さでもあるけど。恥ずかしさのあまりデートという単語だけは咄嗟に濁した。
俺の馬鹿!
「え?」
対して、俺の誘いにキョトンとした顔を麻帆は浮かべる。
突然こんなこと言って引かれたかな。
やばい、異性の相手を遊びに誘うなんて初めてだから、間違っているかもわからないぞ。
「それってさ……」
「え、」
ちらりと彼女の方を見ると、頬を赤らめているのがわかった。
「デートって……こと?」
「!」
そ、そうだよな。デートという言葉を使わなくても、男女が二人で出掛けるというのは、つまりそう捉えられるのもおかしくないか……。
「……も、もし行きたくなかったら、」
「行きたい!」
「!?」
俺の正面に麻帆が顔をグッと近づける。
ち、近い近い!
あと少し近づいてしまったら唇が触れそうな距離にまで、麻帆は身を乗り出してきた。
「そういえば、一度も外で遊んだ事なかったよね。バイトとか夕飯の買い出しくらいでしか二人で出掛けたことなかったし」
「そ、そうだね」
ひとまず元の体制に戻った事に安堵する。
でも、麻帆の言う通りだ。俺たちは遊び以外の理由でしか二人で外出したことはなかったのだから。
「じゃあ、俺としてくれるかな?」
麻帆の表情を確認してもう一度伝える。
「その、……デート」
「うん、いいよ」
笑顔でそう答えてくれた麻帆に俺は内心すごく喜んでいた。
やった! ついさっきまで頭の中でしか考えられなかった事が現実に!
「そっか〜。真人くんは私とデートしたかったんだ」
だが、その嬉しさも束の間。
「うぐ……」
そうだった。俺がなにを考えていたのかという話だったからな。そう思われるのは仕方がない。
俺は恥ずかしさのあまり耳を塞いだ。
「私も……だけどね」
「えっ、なんか言った?」
しかし、麻帆が隣で何か言ったような気がして耳から手を離すと。ニコッと笑い。
「なんでもなーい」
麻帆はそう言って顔を振った。
俺の気のせいだったのかな? まぁ、いいか。
「じゃあ、次にお互いのシフトが休みの時とかでどうかな」
「いいよ! ふふ、楽しみ」
麻帆が嬉しそうな顔でスマホを開く。
「どこがいいかな〜」
普段は家の中だけで過ごすから、麻帆と二人でお出掛けするのは俺も楽しみだ。
なにより、俺の誘いを受けてくれた事がすごく嬉しい。
女の子と二人で外出するなら、俺も初めてだし事前に色々調べとかないとな。
……ちょっと、
俺もスマホを取り出して、ある人物にメッセージを送った。
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