『無能の悪童王子』は生き残りたい~恋愛スマホRPGの噛ませ犬の第三王子に転生した僕が生き残る唯一の方法は、ヒロインよりも強いヤンデレ公爵令嬢と婚約破棄しないことでした~
聖騎士ヒロインとの対戦が決定してしまいました。
聖騎士ヒロインとの対戦が決定してしまいました。
「ありがとうございます。ですが……せっかくですので、今度はハロルド殿下にエスコートしていただけると嬉しいです」
ええー……ここで僕をご指名ですか?
僕は嬉しくないので、全力でお断りしたい。
だからウィルフレッド、こっちを睨むのはやめろよ。別に僕がエスコートをしたいって言ったわけじゃないだろ。
「エスコート、してはくださらないのですか……?」
「うぐ……い、いえ。とても光栄です……」
エメラルドの瞳を潤ませ、上目遣いで僕の顔を
おかげで断るわけにもいかず、僕は引きつった笑みを浮かべて彼女の手を取った。
それにしても。
「うふふ、デハウバルズ王国の王宮は素晴らしいですね」
王宮内を歩く中、クリスティアは絶えず微笑みを浮かべ、時折僕を見つめてくる。
こういうのはイケメンがエスコート役だと様になるけど、残念ながら小悪党
ただ、一つだけ言えることは、この場にサンドラがいなくて本当によかったということ。
今のこの僕の姿を見たら、絶対に嫉妬する。間違いなく嫉妬する。夜のパーティーを含め、それだけは、絶対に避けないと。
「ところで……ハロルド殿下は、普段はどのようにお過ごしなのですか?」
答えづらい質問してくるなあ。
第三王子としての役割も果たさずに、サンドラと毎日特訓してますが何か? ……って、別に好かれる必要はないんだし、ありのまま答えるか。
「毎日婚約者と一緒に過ごしてます。ここ半年は、もっぱら武術の特訓ですね」
「まあ! そうなんですね!」
予想以上の食いつきに、僕は思わずたじろいてしまう。
クリスティアって、そういうことに興味あったっけ?
僕は前世の記憶を呼び起こし、クリスティアの設定を思い出してみるけど……うん。恋愛パートでは、むしろそういう話題はNGだったよ。
「うふふ。でしたら、私の従者であるカルラと、一度手合わせをしてみてはいかがでしょうか。彼女は聖騎士でもありますので、きっとお互いにとって有益だと思いますよ?」
「ええー……」
クリスティアの提案に、僕は呆けた声を漏らした。
嫌な予感が的中してしまった。こういう時だけ勘が当たるの、勘弁してほしい。
「ぼ、僕なんかじゃ、聖騎士の相手なんて務まりません! 絶対に無理……」
「ハロルド兄上、ここはお相手して差し上げるべきでは?」
くっそう! ウィルフレッドめ、余計な事を言うんじゃないよ!
というか、どこか
「ハロルド殿下の素敵なお姿、ぜひとも拝見したいです……」
「う……」
僕の手を握りしめ、クリスティアが上目遣いで
今すぐその手を振りほどきたいけど、彼女の立場は聖女であり、バルティアン聖王国使節団の代表。
ハア……してやられたなあ……って。
ふと周囲を見ると、カルラが同情の視線でこちらを見ていた。普段から
「……わ、分かりました。ですが、僕は
「うふふ! ありがとうございます! では、明日にでも早速!」
強引に話をまとめられ、僕はもう一度深く溜息を吐いた。
◇
「……と、いうことなんです」
使節団が到着した日の夕方、ドレス姿のサンドラに一部始終を説明した。
彼女に逢うまでは頭を抱えていたんだけど、実のところ、今の僕はカルラとの試合なんてどうでもよくなっており、ずっと彼女に釘付けである。
だって、いつも綺麗なサンドラがこれ以上ないほど綺麗なんだよ?
瞳の色と同じ青色を基調として、黒の差し色が加えたドレスがすごく似合っているんだ。
何より、黒色は僕の髪の色だからね。こんなの、嬉しすぎる。
あ、もちろん僕も、式典用の服には彼女の色である青色をあしらっているとも。
婚約者なんだから、当然だよね。
「ふう……聖女様というのは、なかなか面倒な性格をされているようですね」
「ええ……」
こめかみを押さえて溜息を吐くサンドラに、僕は力なく頷いた。
せっかくのパーティーの前でこんなことは話したくなかったけど、黙っていたらそれはそれで誤解を与えかねないし、そのせいで彼女が悲しんだら嫌だからね。
「事情は分かりました。明日のその聖騎士様との試合には、私も同席いたします。それで……ハル様はどうなさるおつもりですか?」
「どう……とは?」
「ハル様の実力であれば、たった一度の攻撃すら受けることはないですが、攻撃手段もない以上、いたずらに時間だけが過ぎることになるかと」
「ああー……」
僕の
「それだけではありません。その……こう申し上げては何ですが、ハル様の実力を示し、不当な評価を下している愚か者達の目を覚まさせる絶好の機会だと思うと同時に、本当のハル様を知ることで、不利益を受けてしまうのではないかと……」
そう言って、サンドラは目を伏せる。
本当に、君はいつだって僕のことだけを考えてくれるんだね。
なら、僕がすべきことは一つだけだ。
「……僕は、明日の試合ではわざと負けようと思います」
「ハル様……?」
「別に周りの評価なんてどうだっていいですし、興味もありません。何より、僕の価値は君が知ってくれているから」
「あ……」
そうだよ。僕が気にするのは……僕が怖いのは、最推しの婚約者に幻滅されてしまうことだけだ。
他の連中が『無能の悪童王子』だと
「もう……」
僕の手を取り、どこか不服そうにサンドラが呟く。
でも、うつむく彼女は、とても嬉しそうに口元を緩めていた。
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