第一王子と第四王子は怪しさ満載でした。

「そ、その、寒くなってきましたので、そろそろ中に戻りましょうか」

「……仕方ありません」


 今もまだ僕の胸に頬ずりをしているサンドラに耳打ちすると、彼女は口を尖らせつつも渋々了承した。

 もちろん僕だって、こうやって彼女とくっついていたいけど、緊張と彼女のとてもいい匂いで心臓が破裂しそうなんだよ。これ以上は無理です。


 そうして、僕はサンドラの手を取って会場の中へと戻ると。


「……ふうん」


 カーディスとウィルフレッドが、フレデリカとマリオンを交えて楽しそうに談笑していた。

 エイバル王からの依頼だとはいえ、ウィルフレッドに笑顔を見せるカーディスに違和感を覚える。


 だって、今までカーディスとウィルフレッドが会話している姿なんて見たことがなく、せいぜい冷たい視線を送る程度だったのだから……って。


「サ、サンドラ!?」

「ハル様。せっかくのパーティーなのですから、そのような顔をなさらないでくださいませ」


 サンドラに人差し指を僕の眉間をぐにぐにと押しつけられ、僕は思わず戸惑ってしまう。

 ひょっとして僕、そんなに酷い顔をしてたのかな……。


「それはもう、あのくずを鬼の形相でにらみつけておられましたよ? ハル様のくだらない悪評を信じてしまっている周囲の貴族達が、あなた様が何か問題を起こすのではないかと冷や冷やさせるほどに」

「あ、あははー……」


 サンドラにそんなことを指摘されてしまい、僕は苦笑するしかない。

 実際、周囲を見回してみると、確かにこちらを見ている者がちらほらといる。


「ですが……ハル様は、私の話をお聞きになって、それで怒ってくださったのですよね?」

「あう……」


 図星を突かれ、ぐうの音も出ない。

 あの時・・・の男の子が実はサンドラだと知り、彼女を閉じ込めた犯人がウィルフレッドであることが判明して、どうしても許せなくなったんだ。


 だって、あの時・・・のサンドラは、初めて訪れた王宮でそんな酷い目に遭って、心細くてものすごく泣いていたのだから。


「ご安心ください。おかげさまで、私は強くなりました。あなた様に『竜の寵愛』を差し上げるために」


 胸に手を当て、熱を帯びた瞳で僕を見つめるサンドラ。

 さっきも『竜の寵愛』って言葉が出てきたけど、それって何なの? メッチャ気になる。


「さあ、向こうに美味しそうな料理が並んでいますよ。一緒にいただきましょう」

「わっ!?」


 そんな僕の疑問を知ってか知らずか、彼女は少し強引に僕の手を引いて、オードブルの並ぶテーブルへといざなった。


 ◇


「お帰りなさいませ、ハロルド殿下」

「ハル! 寂しかったよー!」

「わぷっ!?」


 サンドラをシュヴァリエ邸に送り届け、王宮に戻ってきた僕をモニカが出迎え、キャスは顔に思いっきり飛びついてきた。


「うん、ただいま。帰りにサンドラが美味しい焼き菓子をくれたから、一緒に食べよう」

「! 食べる食べる!」

「では、すぐにお茶をご用意いたしますね」


 それにしても、キャスはお菓子が大好きだなあ。魔獣なのに。

 ということで、部屋に戻ってモニカがカップに注いでくれたお茶を、口に含む。


「それで、パーティーはいかがでしたか?」

「うん。サンドラと初めてのダンスを踊れたし、懐かしい昔話・・も聞けたしで、すごく楽しかったよ」

「それはよかったです。お嬢様も、やっと打ち明け・・・・られた・・・のですね」


 んん? モニカの言い回し、ちょっと気になるけど……まあいいか。

 それよりも。


「ハア……今度から、何かしらの行事にはウィルフレッドも顔を出すのか……」

「? 何かあったのですか?」

「ああいや、大したことじゃないんだけどね」


 僕はウィルフレッドがエイバル王の命によって、カーディスの派閥に入ったということを説明した。

 カーディス自身もまんざらでもない様子なので、エイバル王とカーディスの間で何かしらの取引があったのだろうという、僕の憶測を付け加えて。


「なるほど……確かにそれは、少々気になりますね」

「だろう? いずれにしても、あの二人には要注意だ」

「はむ! はむ! これ、すっごく美味しい!」


 うんうん、僕達の会話そっちのけでお菓子に夢中になっているキャスは可愛いな。

 こうして見ると、本当にただの小さな子猫だな。人間の言葉しゃべるけど。


「でしたら、この私にお任せください。二人の監視に加えて、国王陛下とカーディス殿下の間に何があったのか、調査いたします」

「うん、頼むよ。だけど、絶対に無茶だけはしないでね」

「かしこまりました」


 胸に手を当て、うやうやしく一礼するモニカ。

 ちょっと揶揄からかい癖があるのが玉にきずだけど、彼女だって僕の大切な人だからね。


「それで、ハロルド殿下はウィルフレッド殿下のことを、どう思われますか?」

「えーと……どう思われるっていうのは……」

「言葉どおりの意味です。思惑などはともかく、殿下ご自身が、あの男をどのように評価なさっているのか、ということです」


 モニカは無表情だけど、どこか探るような視線を僕に向ける。

 ふむ……ウィルフレッドのことを、どう思っているか、か……。


 前世の僕だったら、主人公だし自身がプレイヤーなわけだから、恋愛スマホRPGよろしくリア充チーレム野郎っていう評価になるのかな。


 だけど。


「あの男は……いや、あのくずは絶対に許せない。だけど、絶対に関わり合いになりたくない」


 そうだ。僕はあの時・・・の出来事を……幼い頃、サンドラが部屋に閉じ込められた時の犯人が誰なのかを知った今、絶対に許すわけにはいかない。

 かといって、『エンハザ』本編が始まってしまったら、アイツは主人公として活躍し、噛ませ犬以下の僕はただ不幸な目に遭う未来しかない。


 なら、当初の計画どおり、ウィルフレッドとは関わらないようにするしかないんだ。


「それをお聞きして安心しました。このモニカ=アシュトン、改めてハロルド殿下に忠誠を誓います」

「うん。これからも、よろしくね」


 ひざまずき、こうべを垂れるモニカの手を取り、僕は感謝と信頼の意味を込めて、精一杯の笑顔を見せた。

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