聖騎士ヒロインは理不尽な結果に激怒しました。

「……この勝負、カルラ=デルミニオ卿の勝ちとする」

「「っ!?」」


 審判を務めるカーディスが顔をしかめ、無情にも試合終了を告げた。


「な、なぜ! まだ私とハロルド殿下の勝負はついていない!」

「そうです! しかも僕の負けとは、どういうことですか!」


 納得のいかないカルラは、カーディスともう一人の審判であるロレンツォに詰め寄る。もちろん、この僕も。


「何を言う。ハロルドはデルミニオ卿の攻撃に手も足も出ず、ただ盾に隠れて必死に耐えているだけ。あのまま続ければ、結果は目に見えている。なら、ここが潮時だ」

「そうですね。この試合はあくまでも、デハウバルズ王国とバルティエン聖王国の親善のためのもの。決してハロルド殿下を傷つけるためのものではありません」


 カーディスの言葉に、ロレンツォも同意する。

 そんなもの、当事者である僕も彼女も望んでいないのに。


「し、しかし!」

「ハア……カルラ、いい加減にしなさい」


 なおも詰め寄ろうとするカルラに、クリスティアは溜息を吐いて強い口調でいさめた。


「とにかく、これで終わりです。これ以上続けては、それこそハロルド殿下がみじめになってしまいますよ。あなたも聖騎士なら、弱い者いじめはやめ……」

「黙れえええええええええええええええッッッ!」


 とうとうこらえ切れなくなったのか、クリスティアの言葉を遮ってカルラが犬歯をき出しにして吠える。

 忠実な騎士であるはずの彼女が、到底主君に向けるべきではない言葉を放って。


「ハロルド殿下は、この私の渾身の一撃を全て防いでみせた! ただの一度も、食らうことなく! これのどこが弱い者いじめだというのか!」

「カルラ……あなたこそ黙りなさい」

「いいえ、黙りません! ハロルド殿下は、まごうことなき強者! 尊敬に値する御方です! それを、勝手に敗者だと……弱者だと決めつけるあなた方の愚弄する物言いこそ、控えるべきでしょうッッッ!」


 低い声で命令するクリスティアナに、カルラはなおも叫んだ。

 ああもう、馬鹿だなあ……こんな真似をしたら、下手をすれば処罰されちゃうじゃないか。


「カルラ殿、ありがとうございます。僕はあなたと試合ができて、本当に楽しかったです」

「っ! ハロルド殿下! ……そう、ですか……」


 これ以上カルラが余計なことを言わないよう、僕は精一杯の笑顔を浮かべ、彼女に右手を差し出す。

 まだ何か言いたげだったけど、色々察してくれたのだろう。彼女は肩を落とし、力なく握手を交わしてくれた。


「……この次は、誰にも邪魔されずに試合をしましょう」

「約束、ですぞ……」


 お互いゆっくりと手を離し、カルラはクリスティアや使節団の面々を無視して、一人訓練場を出て行った。

 僕も一つ息を吐くと、ひるがえってサンドラ達を見る。


「ハル様、お見事でした」

「あはは……ありがとうございます」


 うん……僕は、こんな奴等にどう思われたっていい。

 だって、僕のことをこんなにも理解してくれる、大切な女性ひと達がいるのだから。


「さあ、僕達も引き上げましょう」

「はい」


 サンドラの手を取り、呆気に取られている連中の横を通り過ぎて、僕達は訓練場を後にする。


 その時。


 ――クスッ。


 ええー……クリスティアが、僕を見てわらったんだけど。メッチャ嫌な予感がする。


 ◇


「失礼します。ハロルド殿下に、サルヴァトーリ猊下げいかが折り入ってお願いがあると申しております。ついては、お付き合いいただきたいのですが」


 試合の後も色々あり、部屋に戻ってサンドラ達とお茶を楽しんで癒されているところに、使節団の神官一人がやって来て、ぶしつけにそんなことを言ってきた。

 一応、使節団のホストを務めていることもあり、断りたくても断れないんですが……できればそのお願い、ウィルフレッドのほうに持って行ってくれないかなあ。


「お断りします。あなたを含め、あのような場でハル様のことを無礼にも笑っておきながら、少々厚かましいのではないでしょうか」


 おっと、僕が何かを言う前に、サンドラが真っ先に拒否したよ。

 それだけ彼女も、あの試合の一件を快く思っていないってことなんだけど。当然か。


「っ!? そ、その……お怒りはごもっともですが、何卒なにとぞご足労いただけないでしょうか」


 まさかこんな反応が返ってくるとは思ってもみなかったのか、神官は狼狽ろうばいし、慌てて頭を下げた。


 んー……正直、黒幕の呼び出しなんて、絶対にろくなことじゃないから行きたくない。

 でも、逆にそれを無視したことで、僕にとってよからぬこと……例えばバッドエンドのフラグが立つとか、そんなことになっても困る。


 それになあ……一応、頼まれ・・・もしたし・・・・


「ハア……分かりました。ただし、話を聞くだけですからね」

「! あ、ありがとうございます!」


 神官は勢いよく顔を上げ、何度もお辞儀をした。ちょっと必死すぎじゃない? 知らんけど。


「ハル様、よろしいのですか?」

「あはは……まあ、どんなお願いなのか、聞くだけ聞いてみようかと思いまして」


 もしバッドエンドフラグが立つような内容で、しかもサンドラに危害が及ぶようなものだったら、全力で阻止しないといけない。

 距離を置きたいのはやまやまだけど、その可能性を否定できない以上、僕としても動くしかないよね。


 ということで、僕とサンドラは神官とともに部屋を出る。


 そして。


「やあ、ようこそお越しくださいました」


 ロレンツォは涼やかな笑顔を浮かべ、部屋を訪れた僕達を出迎えた。


―――――――――――――――――――――――――――――


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