メッチャ大きいクエストボスに挑みました。

 結論から言うと、サンドラとモニカが加わったことで、迷宮攻略は劇的にはかどった。


 当然だ。僕とキャスだけで第一階層を攻略するにしても、三時間弱で終わるんだよ?

 僕よりも圧倒的に実力が上の二人なら、吸血コウモリだろうがレオゴーレムだろうが、全て瞬殺してしまうよね。


 なので。


「ハル様、この先が最深部……ということで、よろしいのですね?」


 第二階層からスタートして僅か五時間弱で第九階層のレオゴーレムもあっさりと粉砕し、最後の第十階層へと続く階段の前で、サンドラが尋ねる。


「はい。最初に言っていたとおり、ここからは僕一人で向かいますので、君とモニカは、先に迷宮の入り口まで戻っていてください」


 そう……ここから先は、僕一人……といっても、キャスは魔獣だし武器扱いなので連れて行くけど。というか、キャスがいなかったら僕が死ぬ。

 なんといっても、この奥には真の守護者・・・・・が待ち構えているのだから。


「では、行ってきます」

「ハル様……ご武運を」


 サンドラとモニカに見送られ、僕とキャスはゆっくりと階段を下りる。

 『エンハザ』では九体目のレオゴーレムを倒したら、すぐにバトルに移行するから、いきなりエンカウントするはずだよな……。


 そんなことを考えながら、注意深く進むと。


「っ!? ハル!」

「うん……」


 階段の一番下まで来たところで、大きな鉄の扉の前に立ち塞がる、一つ目の巨大な人型魔獣。

 この迷宮の……いや、『称号』クエストの最後の階層を守る、真の守護者・・・・・


 ――“守護巨人ギガントスプリガン”。


 『エンハザ』ではあくまでもクエストボス扱いのため、レイドボスのような強さはない。それは間違いない、んだけど……。


「うわあ……ヘンウェンよりも大きい……」


 ゆうに十メートル以上はあると思われる巨体を見上げ、キャスは毛と尻尾を逆立てて呟く。

 いやいや、確かに巨人だけど、それでもレイドボスよりも大きいってどういうこと?


 僕、ギガントスプリガンの攻撃を防ぐことができるかなあ……。


「で、でも! ボク達はヘンウェンだって倒したし、レオゴーレムも楽勝だったもん! だから、ボクとハルなら、どんな相手にだって負けないんだ!」


 キッ、とギガントスプリガンを見据え、キャスが吠えた。

 迷宮に入る時はあんなにビビっていたのに、いざ強い敵が現れたら、小っこいくせに精一杯の勇気を奮い立たせる。


 本当に……。


「……お前は、最高の相棒だよ」

「ハル?」


 おいおい、なんでキョトンってするんだよ。せっかく褒めたのに。

 まるで無自覚なラノベ主人公みたいじゃないか。


「よし! 相棒! あのデカブツを、僕達で倒すぞ!」

「う、うん!」

「…………………………」


 『漆黒盾キャスパリーグ』に変身したキャスを手に、ギガントスプリガンの前に躍り出てみるが、この巨大な魔獣はギロリ、と僕達を睨むだけで、手も出してこない。

 どうやら、こちらから仕掛けない限りは、向こうも攻撃しないみたいだ。


 つまり、先手は常にプレイヤー側だということ。

 そういえば、『エンハザ』でも初撃は必ずプレイヤーからだったな。


「キャス! 遠慮はいらない! いきなり倒してやれ!」

「うん! 【スナッチ】!」


 重厚な黒鉄くろがねの盾から、巨大な漆黒の爪がギガントスプリガンに襲いかかる。


「っ! どうだ!」

「駄目! 全然効いてない!」


 爪はギガントスプリガンの胸をえぐったが、大したダメージにはなっていない。

 それどころか、今の一撃が合図となって、ギガントスプリガンが無言で巨大な拳を振り上げ、僕達に襲いかかった。


「くっ!」


 『漆黒盾キャスパリーグ』を構え、僕はすかさず拳の一撃を防ぐ。

 やはりクエストボスということもあって、一撃の重さはヘンウェンよりも劣っていた。


「だけど……これじゃ、防戦一方だな……っ」


 何度も打ち下ろすギガントスプリガン両手の拳を受け止めながら、僕はポツリ、と呟く。

 なのに僕は、ギガントスプリガンを脅威とは全然思わないし、負ける気がしないんだ。


 でも、その理由なら分かっている。

 僕は日々の特訓の中で、コイツなんかとは比べ物にならないほど強く美しい女性ひとの攻撃を、毎日受け止めてきたのだから。


「ハル! だけど、どうするの? ボクの【スナッチ】が効かないんじゃ、お手上げだよ!」

「分かってる! だから、ギガントスプリガンの身体の、ありとあらゆる部位に攻撃を仕掛けてみてくれ! 絶対に、弱点があるはずだ!」

「で、でも! そんなことしたらハルのマナが無くなっちゃうよ!」

「それこそ心配無用だ! キャスが【スナッチ】を何十発でも何百発でも放ったくらいで、僕のマナは絶対に枯渇こかつしない!」


 たとえ紙装甲でスキルも使えないハロルドだけど、マナ……SPだけは、あり得ないくらいあるんだ。

 キャスが何発も【スナッチ】を放ったところで、大したことはない。


「も、もう! 知らないんだからね!」


 キャスは半ばヤケクソ気味に【スナッチ】を次々と放つ。

 腕、足、腹、背中、ありとあらゆる部位に。


 だけど、ギガントスプリガンはひるむことなく、僕目がけて容赦なく攻撃してきた。

 巨大な拳で殴ったり、神殿の柱よりも太い脚で蹴り上げたり。


 それら全てを受け止め、いなし、かわす。

 そうして、ギガントスプリガンとの一進一退の攻防を続けていた、その時。


「っ!」


 僕は、見逃さなかった。

 これまで一切防御することなくキャスの【スナッチ】を受け続けていたギガントスプリガンが、初めてひるんだ瞬間を。


「キャス! アイツの弱点はあの巨大な一つ目だ! お前の自慢の爪で、えぐり取ってやれ!」

「分かった! 【スナッチ】!」


 キャスの漆黒の爪が、ギガントスプリガンの目を狙って集中的に攻撃を繰り出す。

 さすがにまずいと思ったのか、巨大魔獣は両手で目を覆い隠した。


「クソッ! このままじゃらちが明かない!」

「ハル、ど、どうする?」


 キャスが心配そうに尋ねてくるが、弱点が分かった以上、こっちが攻撃の手を緩めることなんて…………………………いや、その逆か!


「キャス、攻撃はいい。それより……」


 盾の陰に顔を隠し、僕はささやく。

 ギガントスプリガンを倒すための、一つの策を。


 そして。


「ッ!?」


 僕は『漆黒盾キャスパリーグ』を地面に置き、無防備な姿をさらけ出した。

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