最高の相棒と勝利をつかみました。
「ッ!?」
僕は『漆黒盾キャスパリーグ』を地面に置き、無防備な姿をさらけ出した。
まさかこんなことをすると思ってみなかったのか、指の隙間から
まあ、自分は弱点を必死に守っているっていうのに、僕は逆に弱々しい姿をさらけ出したんだから、理解できないよね。
それで、オマエはどうする?
引き続きその目玉を守り続けて、指で弾いただけで殺せる僕を放っておくのかな?
まさか、そんな情けないことはしないよね。
「ッッッ!」
あはは、馬鹿にされたと思ったのかな。顔を真っ赤にして突進してきたよ。
ご丁寧に、弱点の目を
ギガントスプリガンは、巨大な手を組み、大きく振りかぶって僕目がけて叩き落とす。
でも……この瞬間を、待っていた。
「キャス! 今だあああああああああッッッ!」
「くらえ! 【スナッチ】!」
勢いよく振り下ろした両腕を止めることができず、ギガントスプリガンが驚愕の表情を浮かべた。
もちろん、この瞬間を待ち構えていたキャスの漆黒の爪が、弱点の目を逃すはずもなく。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!?」
一つ目がズタズタに斬り刻まれ、ギガントスプリガンは初めて声を……悲鳴を上げる。
そう……『漆黒盾キャスパリーグ』は、僕のSPがあってはじめてこの原形を留め、【スナッチ】を放つことができる。
だから、僕はわざと盾を地面に置いて身体から離した
おかげでギガントスプリガンは、まんまと騙されたってわけだ。
とはいえ、勢いよく振り上げられた巨大な手は止まらず、僕の目の前に迫る……んだけど。
「おっと」
サンドラの攻撃の何倍も遅いギガントスプリガンの攻撃なんて食らうはずもなく、僕はつま先だけ触れていた『漆黒盾キャスパリーグ』から離れて後ろに飛び退くと、拳は地面に叩きつけられ、地響きが起きた。
それと同時に、前のめりに倒れるギガントスプリガン。
「ハル!」
「ちょ!? 痛いって!?」
「やったやった! ボク達の勝利だ!」
ギガントスプリガンが完全に沈黙し、爪を立ててしがみつくキャスは大はしゃぎで勝ち名乗りを上げた。
おかげで僕の顔面は、傷だらけになりましたとも。トホホ。
◇
「この奥に、ハルが欲しがっていた『称号』があるんだよね?」
「うん……」
いや、それは分かっている。理解しているんだよ。
だけどさあ……問題は、この巨大な扉をどうやって開けるのかってことだよね。
僕はてっきり、ギガントスプリガンを倒したら自動的に開くのかと思ったんだけど、残念ながらうんともすんとも言わない。
どこかに扉を開ける仕掛けがあるのかと周囲を調べるも……ハア、やっぱり何も見つからないなあ……。
「ウーン……これは、自力で開けろってことなのかな……」
いやいや、まさかね。
「ねえねえ、ハル」
「ん? どうした?」
「ボクが災禍獣キャスパリーグになれば、何とかなるかも」
「本当か!?」
今は子猫の姿だけど、僕のSPを供給すれば、本来の姿である災禍獣キャスパリーグの姿になることも可能。
それならいけそうではある……んだけど。
「じー……」
「な、なに……?」
僕は思わず、キャスを凝視してしまう。
いや、今はちゃんと相棒だって認めているし、キャスだってそう言ってくれているんだけど、サンドラとモニカもいない中、災禍獣キャスパリーグに襲われたら紙装甲の僕なんてひとたまりもない。
そんなリスクを抱えて、本当にその方法を取るのか……って。
「あははっ」
それこそ今さらだよね。
キャスは僕と一緒にギガントスプリガンを倒して、一度だって裏切る素振りを見せたこともない。
というか、大切な相棒を疑うなんて、どうかしてるよ。
「もう! ボクを見て笑うなんて酷いよ!」
「あはは! ごめんごめん!」
前脚でポカポカと叩くキャスに、僕は大声で笑った。
とにかく、相棒が提案してくれたんだから試してみようか。
ということで。
「いいか、相棒?」
「もちろんだよ! 相棒!」
四本足で扉の前に立つキャスの背中に、僕はそっと手を触れると。
「ニャハハハハハハ! 災禍獣キャスパリーグ、降臨ニャのだ!」
ヘンウェンに匹敵するサイズになり、甲高い声で調子に乗って名乗りを上げるキャスに、僕は思わずこめかみを押さえる。
コイツ、本当に大丈夫かな。不安になってきた。
「こんな扉、ボクの一撃でぶち壊してやるニャ! ニャアアアアアアアアアッッッ!」
キャスが前脚を思いきり叩きつけ、衝撃音が部屋の中に鳴り響く。
おお! これは期待できるのでは!
「ニャ! ニャ! ニャ!」
さらに前脚の連続攻撃を繰り出し、巨大な扉が徐々にひしゃげていった。
おおおおお……! さすがは期間限定のイベントボス。災禍獣キャスパリーグの名は伊達じゃない!
そんな格闘を繰り広げること、およそ十分。
「どうだニャ! ボクの手にかかれば、こんなものだニャ!」
前脚で汗を
確かに扉の向こうに行けるようになったけど、意外にも人がなんとか一人通れるくらいの隙間を作るのが限界だったのだ。これは果たして、魔獣的に誇っていい成果なのだろうか。
「さあ! 相棒、行くよ!」
僕の手から離れ、いつもの子猫サイズに戻ったキャスが、シュタッと軽やかに肩に乗った。
せっかく災禍獣キャスパリーグになれたのに、未練とかはないみたいだ。
「ああ! 行こう、相棒!」
キャスとハイタッチし、僕は相棒が開けてくれた扉の隙間をくぐる。
やっぱりキャスは、僕の最高の相棒だったよ。
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