僕達は『称号』を獲得しました。

「これか……」


 扉の隙間をくぐり、一番奥へとたどり着くと祭壇があり、その上には石板があった。


 あれこそが、僕の求めていた『称号』に間違いなさそうだ。


「んー……ボクには読めないや」


 祭壇に上り、石板をまじまじと見つめるキャスが、もろ手を挙げた。つまりお手上げということだ。

 というかそのリアクション、猫からどんどん遠ざかっているな。魔獣だけど。


「どれどれ」


 僕も祭壇のそばに寄り、石板を見ると……うん、僕も読めないぞ。どうしよう。

 どうしたものかと、僕は軽く石板に触れてみると。


「「っ!?」」


 石板が輝きを放ち、読めない文字が浮き上がった。

 ということは、やっぱりこれこそが、僕の求めていた『称号』で間違いないみたいだ。


 いざなわれるように、僕は浮かんだ文字に手を伸ばす。


「あ……」


 浮き上がった文字が僕の手の中に吸い込まれていき、石板は光を失った。

 えーと……これで僕は、『称号』を手に入れたってことでいいのかな……。


 特に身体に変化はなさそうだけど、それ以外考えられないから、そういうことでいいんだろう。いいんだよね?


「ボクも石板に触ったら、『称号』ってもらえるのかな」

「どうだろう? キャスは魔獣だし、さすがに無理なんじゃないか……って!?」

「「光った!?」」


 どうやら、『称号』を手に入れるのに人間も魔獣も関係ないみたいだ。

 キャスは黄金の瞳をキラキラさせて、僕がしたのと同じようにふわふわ浮かぶ文字に前足で触れた。


 やっぱり文字はキャスに吸い込まれていき、石板の光も消える。


「どう? どう? ボク、何か変わった?」

「んー……」


 どう見ても、変わった様子はない。

 僕はキャスを抱き上げ、隅々まで確認してみると。


「あ」


 先程の文字が、お腹にバッチリ刻まれていた。

 つまり、無事『称号』を手に入れたってことだ。


「あったよ。キャスも僕と同じ、『称号』持ちだ」

「本当? わあい! やったやった!」


 『称号』を手に入れて、大喜びのキャス。

 僕も平静を装ってはいるものの、心の中ではメッチャ驚いている。


 まさか魔獣が『称号』を手に入れることができるなんて思ってもみなかったし、こんなことならその可能性について、もっと真剣に考えればよかった。


 とはいえ、今回僕達が入手した『称号』は【金剛不壊ふかい】。

 キャラの物理防御力と魔法防御力を三倍に上昇させる効果がある、まさに防御特化型の『称号』だ。


 サンドラを守り抜くと決めた僕に、これ以上相応しい『称号』はない。

 そういう意味では、僕の盾であるキャスにももってこいだよ。


 というか……普通に防御力三倍って、当然ながら『エンハザ』の全ての盾の……いや、武器の中でトップだ。もはや、UR武器すらも凌駕する。


「そういえば、僕の『称号』は身体のどこにあるんだろう……」


 身体を見回してみるものの、どこにも見当たらないんだけど……って!?


「キャ、キャス!?」

「ニャハハ、ボクに任せて」


 キャスの奴、服の中に入っていったし!? というかくすぐったい!? ヤメテ!?

 あ、そ、そこはらめええええええええッッッ!?


「ニャハハハハハハハハハハハハハハハハハ! ハルの『称号』、お尻にあったよ!」

「うう……もうお婿に行けない……」


 身体をくまなくキャスにまさぐられた挙げ句、よりによってお尻に『称号』があるなんて。

 これ、なんて罰ゲーム?


 ◇


「お帰りなさいませ!」


 迷宮の入り口へ戻ると、サンドラがパアア、と満面の笑みで駆け寄ってきた。

 最推しの笑顔が見れて、メッチャ癒される。


「それで、いかがでしたか?」

「はい。無事、『称号』を手に入れることができました」


 僕の答えを聞き、サンドラは顔をほころばせた。


「ねえねえ聞いて! ボクとハルで、すっごく大きな魔獣を倒したんだよ! こんなに、こーんなに大きかったんだから! しかも、ハルなんてわざと無防備で誘い出して、その隙にボクが弱点を突いたんだ! すごいよね! すごいよね!」


 キャスが一生懸命にぴょんぴょん飛び跳ねて、ギガントスプリガンの大きさをアピールする……んだけど、それに反比例して、サンドラの顔色がみるみる青くなっていった。


「サ、サンドラ、どうしたんですか!?」

「ほ、本当にもう……」


 僕の胸に力なくしがみつき、彼女が大きく息を吐く。

 ど、どこか具合が悪くなったのかな……。


「ハル様! 無茶はおやめくださいませ! あなた様に何かあったら、私はどうすればいいのですか!」

「うわっ!?」


 サンドラが勢いよく身を乗り出し、鼻先が触れる距離まで顔を近づけて詰め寄った。

 その表情は、怒っているようにも見えて、だけど、すごく心配してくれていて。


「す、すみません……ですが、こればかりはどうしても一人でないと……」

「それは分かっております! 分かっておりますが……っ!」


 泣きそうな表情でうつむいてしまう彼女に、僕は胸が苦しくなる。

 それだけ、彼女を悲しませてしまったのだから。


「……こんなことをするのは、今回限りです。もう、危ない真似はしませんから」

「絶対……ですからね? 約束、ですからね?」


 消え入るような声でささやくサンドラに、僕は何とも言えない気持ちになった。

 だって、僕はこれからも、何度も危ない橋を渡ると思うから。


 そうじゃないと、この『エンゲージ・ハザード』という世界で生き残れないから。


 ――大切な君を、守り抜くことができないから。


「……こうなれば、ハル様にはどんな相手でも瞬殺できるようになるまで、強くなっていただくしかありません」

「はい……?」

「ハル様! 今から特訓です! いつもの三倍……いえ、五倍は覚悟してくださいませ!」

「ヒイイイイイイイ!?」


 悲鳴を上げる僕を引きずり、サンドラが訓練場へと向かう。

 まさか、こんなオチが待っているなんて思いもよらないんですけど!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る