小さな相棒の願い ※災禍獣キャスパリーグ視点

■災禍獣キャスパリーグ視点


「ニャフフ……これでボクも、最強魔獣の仲間入りなのだ!」


 相棒のハルがベッドの中で寝息を立てる中、ボクは窓の外に見える月を見つめ、ほくそ笑んだ。

 今のボクなら、きっとあのヘンウェンだって倒せると思う。


 ……母様かあさまみたいに大きくなれば、だけど。


「ま、まあ、ボクには相棒のハルがいるから、いつでも大きくなれるんだけどね!」


 そんな強がりを言ってみたものの、常にハルと触れてマナをもらわないといけないから、今のボクに、一人で戦う機会なんてないことはもちろん分かっている。

 今のボクじゃ、全然強くないことも。


 でも。


「い、いいもん……ハルは、ボクのこと相棒だって言ってくれるし、すっごく大切にしてくれるんだから」


 今から一年前、母様かあさまの縄張りであるモーン島に突然現れた、白豚の魔獣ヘンウェン。

 母様かあさまと同じくらい大きくて、母様かあさまが全力で戦っても敵わなくて、そして……最後はボクをかばって殺された。


 ボクは震えるだけで、何もできなくて、母様かあさまがヘンウェンに食べられている隙に一目散に逃げだして。

 ……そうだよ。ボクは、母様かあさまを捨てて逃げたんだ。


 だって、しょうがないじゃないか!

 ボクは小さくて、なんの力もなくて、どうすることもできなかったんだから!


 それからヘンウェンの奴は、島にいる生き物を、手あたり次第に食べ始めた。

 ボク達キャスパリーグと一緒に暮らしていた、大切な仲間を。


 次々に生き物が食べられていき、残るはボクと数匹の動物だけ。

 もうどうしようもなくて、ボクは島から逃げ出すことも考えた。


 でも……いつも島の端っこまで来て、足が震えて動けなくなるんだ。

 まるで、ボクに母様かあさまの仇を討てってささやくように。


 なのに、僕はヘンウェンが怖くて、後ろを振り返ることができなくて、ただそこに立ち尽くすことしかできなかった。


 その時だよ。


 ――ボクが、相棒のハルと出逢ったのは。


 ◇


「ニャハハ、あの時は本当に驚いたなあ……ダメ元であんな交渉してみたけど、ハルったら魔獣のボクなんかのために、あのヘンウェンと戦ってくれたんだもん」


 ハルは、災禍獣キャスパリーグのもう一つの姿……『漆黒盾キャスパリーグ』を求めて島にやって来た。

 だから、そのことを条件に、あのヘンウェンと一緒に戦うようにけしかけたら、本当に戦ってくれたんだよね。


 信じられないよね。

 だってボク、小さくても魔獣なんだよ? ニンゲンなら、普通はボクを殺そうとするはずなんだ。


 なのにハルは、ヘンウェンのところまで一緒に来てくれて、颯爽さっそうとボクの前に現れて、守ってくれて。


「あの時ボクがどれだけ嬉しかったか、分かってるのかなあ……分かってないんだろうなあ……」


 幸せそうな顔で眠るハルを見て、ボクはクスリ、と笑う。

 母様かあさまは、『ニンゲンは全ての魔獣にとって敵』『たった一人のニンゲンに勝っても、何千、何万ものニンゲンが襲ってくるから、絶対に戦ってはいけない』『もし出会ってしまったら、すぐに逃げなさい』って、いつも口を酸っぱくして言ってたよね。


 でもね、母様かあさま

 ニンゲンの中には、ボクみたいな弱い魔獣にも優しくしてくれて、必要としてくれる、そんな素敵な人だっているんだよ?


 だからボク、これからもずっとずっと、ハルのそばにいたいんだ。

 何といっても、ボクはハルのたった・・・一人の・・・相棒・・だから。


 とはいえ。


「……時々、サンドラがボクに嫉妬する時があるんだよね」


 ボクは魔獣だし、ニンゲンのハルとそういう・・・・こと・・になったりするはずがないんだけど、気づけばサンドラが、ボクのことをジトーッって睨んできたりするんだよ……。

 ま、まあ、もちろんハルがボクを求めてくれるのなら、その……やぶさかではないんだけど、ね……。


 ていうか、ボクの姿は子猫だし、そうなろうと思ったら、ニンゲンみたいな姿に変身するしかないんだけど……そんなことをしたらハル、絶対に引いちゃうよね。


 万が一ハルに嫌われたら絶対に嫌だし、今のままですっごく幸せだから、うん……ボクはこのままでいいや。

 それに、ハルの婚約者はサンドラだけど、相棒・・はボクだけだもん。


 だから。


「ハル……絶対に、浮気しちゃ駄目だよ? ボク以外の誰かを相棒にしたら、承知しないんだから」


 もぞもぞとシーツの中に入り、ボクはハルのお腹の上で、ポツリ、と呟く。

 ハルと一緒にいるためなら、今回の迷宮攻略だって……ううん、どこへだって行くし、どんな敵が開いてでも戦うんだから。


 ハルも言ってたけど、一緒に手に入れた『称号』のおかげで、ボクはすっごく強くなったんだ。

 絶対にボクを相棒にしたこと、後悔させないからね?


「おやすみ、ハル」


 ボクはハルの頬にチュッってキスをすると、ゆっくりとまぶたを閉じた。


 ハル……ずっとずっと、一緒にいようね。

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