国王の思惑に気づきました。
「……なら、いっそのこと、シュヴァリエ家が王国から独立したら……?」
「「「「「っ!?」」」」」
僕が放った何気ない呟きが、キャスを除いたここにいる全ての人を戦慄させた。
「あ、も、もちろん、本気で言ったわけじゃないですよ!?」
「そ、そうですよね。いくらなんでも、さすがにそれは話が飛躍しすぎています」
この場の雰囲気がおかしくなってしまったことに気づいた僕は、慌てて取り
いけない、僕は何を馬鹿なことを呟いてるんだよ。
そんなことになってみろ。それこそ、『エンハザ』と同じ結末を迎えてしまうじゃないか。
「ふう……確かに客観的に見ると、シュヴァリエ家の領土と軍事力があればそれも可能かもしれんな」
「まあ、建国当時から王国を支えてきたシュヴァリエ家が、そのような真似をするはずもありませんが」
大きく息を吐くシュヴァリエ公爵に、セドリックが若干声を上ずらせて同意する。
つまり……ここにいるみんなが、その可能性について頭をよぎったんだ。
でも、前世で『エンハザ』をプレイした僕は分かっている。
仮に反乱を起こしても失敗に終わって、残されるのは『破滅』の二文字だということを。
「まあまあ、そんな話はこれまでにして、そろそろ夕食にしましょう。今日はハロルド殿下のために、うちの料理長が腕によりをかけてくれるのよ」
ノーマ夫人のその一言で、場の空気が一気に和やかになる。
本当に、シュヴァリエ家はこの
そういうことで、僕達は全員気を取り直し、食堂へと向かう……んだけど。
「サンドラ?」
「……先程のお父様のお話ですが、やはりおかしいです」
僕の服の
それについては、僕も胸の中でずっとくすぶっていた。
関係強化のためなら、僕……ハロルドとの婚約を希望するシュヴァリエ家の意向を汲んでそのまま婚約させればよかったはず。
だけど、実際には僕とサンドラの婚約に難色を示し、条件を付けていつ婚約破棄してもいい状況を作り上げている。
それも、他の王子と婚約させるために。
そのことから考えて、エイバル王にはサンドラと婚約をさせたい特定の王子がいるということだ。
じゃあ、それは一体誰だ?
先程も考えたけど、カーディスには既に婚約者がいる以上、残るはラファエルとウィルフレッドの二人。
最もサンドラの婚約者に相応しいと考えられるのは、ラファエルということになるが……。
「……まさかね」
「何か、お分かりになられたのですか?」
「あ、ああいや、あくまでも憶測でしかないのですが……」
僕は、思い至った可能性についてサンドラに話した。
そう……エイバル王が、サンドラをウィルフレッドの婚約者に望んでいるという可能性を。
「ハル様、冗談でもそのようなことをおっしゃるのはおやめください」
「いいえ……これは冗談なんかじゃありません。可能性として、それが一番考えられるんです」
サンドラとの婚約が決まり、それを祝うためにカーディスが用意した夕食の席で、そのカーディスとラファエルの会話。
『フン……聞いているぞ。陛下やローズマリー妃殿下を通じて、シュヴァリエ公爵に婚約を申し出たが、
『あはは、そうなんだよね。こんなことなら、
つまり、ラファエルはサンドラとの婚約を申し込んでいたにもかかわらず、断られてしまって成立しなかったんだ。
もしエイバル王がラファエルとサンドラを婚約させようと考えているのなら、もっと積極的に動いていただろうし、シュヴァリエ公爵に条件を示したこととも整合性が取れない。
そうなると、エイバル王がサンドラと婚約させたいと考える王子は、一人しかいない。
「っ! 馬鹿げています! なぜ陛下が、あのような
「お、落ち着いてください!」
思わず声を荒げたサンドラを、僕は必死になだめた。
確かに彼女の言うとおり、こんな回りくどいやり方をしてまでウィルフレッドとサンドラの婚約を望むなんて、どう考えてもおかしい。
それなら最初から、僕ではなくウィルフレッドと婚約させれば…………………………あ。
「そ、その……サンドラはもちろん、ウィルフレッドなんかと婚約したくはありませんよね?」
「当然です! 私のお相手は、ハル様をおいて他にいるはずもありません!」
かなりヒートアップしているサンドラが、僕に詰め寄る。
彼女が僕だけを選んでくれていることは分かっているので、これは念のための確認。
本題は。
「だからでしょう……国王陛下は、王国最大貴族であるシュヴァリエ家と君に配慮すると見せかけ、逃げ道を塞いだんです。君と僕が婚約破棄をすれば、ウィルフレッドとの婚約に障害はなくなる」
「あ……」
そう考えれば、こんな回りくどいことをしたことも頷ける。
おそらくは、僕とサンドラがすぐに婚約破棄をするだろうと、
前世の記憶を取り戻すまでの、『無能の悪童王子』のままのハロルドだったら、それもあり得る。
実際、『エンゲージ・ハザード』においては、エイバル王の宣言があったからではあるものの、あっさりとサンドラに婚約破棄を突きつけたんだし。
「……実際は、僕とサンドラはこんなにも仲がいいですし、婚約破棄をするなんてことは考えられません。国王陛下にとっては、大誤算だったでしょうね」
重苦しくなってしまった空気を変えるため、僕は少しおどけてみせた。
サンドラが今感じているはずの、不安を払拭するために。
「はい! 私がハル様と離れ離れになるなんてことは、たとえ世界が滅んでもあり得ません!」
「そのとおりです。僕とサンドラの婚約破棄だけは、絶対にしてたまるか……いや、させてたまるか!」
僕の胸に飛び込み、強い意志を
そんな彼女を、僕もまた負けないだけど想いと意志を込め、最推しの婚約者を抱きしめた。
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