最高の相棒をゲットしました。

「よし……っと」


 ヘンウェンを討伐した僕達は、せっかくなのでキャスパリーグの母親の墓を作ってやった。

 ただ、遺体は既にヘンウェンに食べられてしまったらしく、かといってこの雌豚魔獣を土に埋めるのもどうかと思うので、本当に形だけになってしまった。


 なので、せめてもの意趣返しということで、倒した時に現れた『屠殺刀とさつとうヘンウェン』を墓標にしてやったとも。

 持ち帰ったところで、使えない僕には宝の持ち腐れだからね。


「母様……ボク、やりました」


 墓の前で、どこか寂しげな表情で報告をするキャスパリーグ。

 もはや語尾に『ニャ』と付ける最初のキャラ設定は、微塵みじんも感じられない。あれは何だったのだろうか。


「さて……感傷にひたっているところ悪いけど、約束は覚えているよね」


 そう……僕達は、王都からはるばるここまで、決して遊びに来たわけじゃない。

 ましてや、ヘンウェンなんてレイドボスの討伐なんて、想定外だとも。


 全ては、『漆黒盾キャスパリーグ』を手に入れるため。


 だというのに。


「や、約束ってニャんだったかニャー?」

「ここにきてとぼけるの? しかも、今さらそのキャラ付け必要なくない?」


 白々しい表情のキャスパリーグに、僕は冷静にツッコミを入れさせてもらった。

 あれだけ大変な思いをしたんだ。今さら無しになんて、できるわけないから


「大体、お前は僕のマナがなかったら、あの姿を維持できないんだぞ? なら、またヘンウェンみたいな魔獣が現れたら、太刀打ちできないだろ」

「むううう……」


 器用に口を尖らせ、キャスパリーグはうなる。

 実はヘンウェンを倒した後、よわよわ子猫魔獣の分際で調子に乗ったんだよね。


『ボクは災禍獣キャスパリーグ! もうボクに敵う奴なんていないのだ! ニャハハハハハハハハ!』


 いやあ、僕のSPを吸収したから、まさに『エンハザ』に登場するキャスパリーグの姿になることができたんだけど、悲しいかな常に吸収し続けないと維持できなかった。

 要するに、供給元である僕とほんのちょっとでも触れていなければ、SPの供給が途絶えて元の子猫又はミニチュアサイズの盾に戻ってしまうというわけだ。


 あの時のコイツの落胆ぶりは、ほんのちょっとだけあわれなピエロに見えたよ。


「それで、どうする? もちろん僕は、それでもお前がこの島から離れたくないっていうのなら、これ以上強要するつもりはない。たとえ、お前が約束を破って他の魔獣に蹂躙じゅうりんされる運命なのだとしてもだ」

「むうううううう……」


 フフフ……これでもかと、不安をあおってやったよ。

 どうだ? 僕達がいなくなって、果たしてやっていけると思うか? 思わないよね。あとモニカ、そんな目で僕を見ないでくれるかな。


 ちなみに本音では、それはもう一緒に来てもらわないとメッチャ困る。

 そうじゃないと、僕が『エンハザ』よろしくバッドエンドの末路を迎える可能性が上がってしまうからね。


 とはいえ、コイツと一緒に戦ったことで、ちょっとだけ扱い方を理解した。

 多分、次の一押しで確実についてくることになるだろう。


 それは。


「ハア……せっかく、最高の相棒・・・・・が見つかったと思ったのにな」

「「「っ!?」」」


 溜息を吐いてそう告げた瞬間、キャスパリーグの黄金の瞳が見開いた。

 クハハ! 母親を失って独りぼっちになってしまったところに、まるでメッチャ期待しているみたいに求められたら、悪い気はしないだろう?


 だけど、どうしてアレクサンドラとモニカまで、目を見開いているのかなあ?


「ほ、本当にボクのこと、そう思っているの……?」

「そうだけど?」

「で、でも! ボクはマナがなければ、何にも役に立たない……」

「それこそ何言ってるんだよ。マナなら、僕の中にいくらでもあるじゃないか」


 そう……僕には『エンハザ』登場キャラの中で一番の最大SP値の持ち主だ。

 属性が違うせいでスキル攻撃が一切使えないのに、運営は一体何を考えているのかと首を傾げたけど、言うまでもなくネタだったんだろう。おかげでメッチャ助かりました。ネタ万歳。


「それに、僕だってお前以外の武器なんてまともに扱えない。なら、僕達って一緒にいることで強くなれるってことだろ?」

「っ!」


 よし、食いついた。

 これでもう、コイツは僕達と一緒に行くと自ら言い出すに違いない。


「し、しょうがないなあ……ハロルドは、ボクがいないと何もできないもんね。ほんのちょっとだけ、手伝ってあげるよ、その……あ、相棒」


 あははー、メッチャ照れてるし。

 というか、扱いやすくもあるけど可愛いな。これがあのキャスパリーグなんて、他の『エンハザ』プレイヤーが知ったら目を丸くするんじゃないか?


「よし! じゃあこれからよろしくな! 相棒!」

「うん! よろしくね! 相棒!」


 僕とキャスパリーグは、お互いに拳と前脚を突き出し、コツン、と合わせた。


 ここまではよかったんだけど……。


「……ハロルド様の婚約者は、この私なのですが」


 アレクサンドラが思いきりねてしまい、王都に着くまでなかなか機嫌を直してもらえなかったよ。

 でも、猫の魔獣に嫉妬する彼女がメッチャ可愛かわいすぎて、炊き立ての白米を何杯もおかわりしたくなったことは、僕だけの秘密だ。


 この世界に、お米は存在しないけどね。

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