『無能の悪童王子』は生き残りたい~恋愛スマホRPGの噛ませ犬の第三王子に転生した僕が生き残る唯一の方法は、ヒロインよりも強いヤンデレ公爵令嬢と婚約破棄しないことでした~
サンボン
転生先が噛ませ犬の第三王子でした。
「“ハロルド”殿下、そろそろお仕度をなさいませんと……」
使用人達が僕の部屋を訪れ、おずおずと顔色を
それはそうだろう。ただでさえ気難しい僕の機嫌を損なってしまったら、それこそどんな目に遭わされるか分かったものじゃないからね。
「分かっている。申し訳ないけど、あと三十分だけ待っていてくれないかな」
「っ!? しょ、承知しました……」
使用人達は驚きのあまり目を見開くと、そそくさと部屋から出て行った。
いや、ちょっと断りの言葉を入れた程度で、その反応はないんじゃない? ……と言いたいところだけど。
「ハア……まあ、普段が普段だから、しょうがないよね……」
鏡に映る、黒髪をオールバックにまとめた灰色に輝く三白眼の瞳の雑魚キャラな自分の姿を見つめ、僕は盛大に溜息を吐く。
僕の名前は、“ハロルド=ウェル=デハウバルズ”。
西方諸国にある列強国の一つ、“デハウバルズ王国”の第三王子であり、姑息で卑劣で長いものに巻かれる最低最悪の男。
それが、この僕なのだ。
え? どうして自分のことをそこまで
だって僕は……この『エンゲージ・ハザード』(略して『エンハザ』)というチャット型恋愛スマホRPGに登場する、主人公のライバルキャラの
まあ、簡単に言ってしまえば、国民的ネコ型ロボットアニメに登場する、あの物理法則を無視した変な髪型の奴ポジってわけだ。
ライバルキャラに全力で
その事実を知ったのは、今日の朝。
目が覚めると異世界転生あるあるの、いきなり前世の記憶が
ちなみに前世は普通の大学生で、“
田舎から上京して大学に通うも、元々人見知りかつ引っ込み思案で馴染むことができず、ボッチだった僕は、寂しさを紛らわせるため『エンハザ』を始めたんだ。
ところが『エンハザ』のヒロイン達(正しくは中の人)による軽快なチャットトークとその可愛らしさにドはまりし、バイト代のほとんどを突っ込んで課金ガチャを回して……言ってて悲しくなるのは、転生前でも一緒だったよ。チクショウ。
とにかく、ここは以前いた世界とは違うんだ。僕は何としても、ゲームと同じシナリオを阻止しないと。
そうじゃなきゃ、僕は死んでしまう運命なのだから。
いや、ただの腰巾着キャラが、どうしてそんな目に遭わないといけないんだよって言いたいところだけど、残念ながらこのハロルドという男、最終的に謀反を企てるのだ。
大勢のヒロイン達は当然のことながら、ライバルキャラとなる第一王子や第二王子……いや、このゲームに登場するほとんどの者達から認められ、好かれていく主人公に盛大に嫉妬して。
だが、コイツは第三王子として
当然、謀反が上手くいくはずもなく、主人公とヒロイン達にあっさりと阻止されてしまい、最後はハーレムを築いた主人公の目の前で処刑されてしまう。
なんとかしたいものの、生まれてからこれまでの十三年間における傍若無人な振る舞いによって、ハロルドの評価は最悪。本編開始前からマイナススタートである。
ちなみに、ライバルキャラである第一王子と第二王子はちゃっかり主人公と和解しており、どのルートを辿っても死んだりすることは決してない。
というか、二人の王子は元々がイケメンクールキャラなので運営は調子に乗って『エンハザ~ガールズサイド~』なるものをリリースしており、こちらでは女主人公に尽くすクールでヤンデレなイケメンキャラとして登場している。ハロルド? いるわけないじゃないか。
いずれにせよ、僕がそんな最後を迎えないようにするためには、自分の悪評を改善しつつ『エンハザ』本編には全力で関わらないようにするのが得策、なんだけど……。
「そういうわけにはいかないよねー……」
だって、主人公は僕の弟で第四王子、ライバルキャラは兄の第一王子と第二王子なのだから。
普通に生活しているだけで、絶対に絡まないといけないっていうね。逃げ場なしだよ。
幸い、今の僕の年齢は十三歳であり、本編開始までにあと三年ある。
その間に、何としてでもゲームには絶対に存在しない、僕が生き残るルートを無理やり作らないと。
そのためには。
「今日の面会、絶対に失敗するわけにはいかない」
この『エンゲージ・ハザード』というゲームは、主人公が次期国王に選ばれる条件である『世界一の婚約者を連れてくること』を目的として、たくさんの個性的で可愛いヒロインと出逢い、恋愛する、冒険とラブコメの物語だ。
RPGパートにおいて王国どころか世界各地で起こる事件を解決し、その時に出会ったヒロイン……つまり婚約者候補との恋愛パートをチャット形式で進めるという、極めて斬新な仕様となっている。
ただこのゲーム、残念ながら仕様が極めて斬新過ぎたことと、チャットのためのチケット購入に加え、ヒロインや武器のガチャを回すための課金が通常のゲームの二倍必要となるという、非常にプレイヤーの財布にダメージを与える仕様なのだ。
だから、リリースと同時にユーザーによる批判コメと低評価爆撃が後を絶たず、結局リリースから半年も経たずにサービス終了の憂き目に遭った。
サービス終了の一週間前に突然掲載された『運営からのお知らせ』を見た時は、ここまで
「と、とにかく、死んでたまるか! 僕は絶対に生き残ってやるんだから!」
将来に絶望しか見出せないこの世界だけど、僕はゲームのシナリオを全クリ……いや、サービス終了の告知と共に始まった一週間限定イベントはまだだった。とにかく、この『エンハザ』という世界を知り尽くしているんだ!
なら、『エンハザ』のイベントをことごとく回避するために、死ぬ気で頑張ればなんとかなるはず。そうであってください。お願いします。
「そして、
ハロルドらしく小物くさい笑い声を上げた僕は、鏡に向かって拳を突き上げた。
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いつも『『無能の暴君王子』は生き残りたい』をお読みいただき、ありがとうございます!
実は本作、小説家になろう様にて先行公開を行っております!
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