第二王子の勧誘を丁重に断りました。
「ハロルド。せっかくだから、兄上の言葉どおりに僕と手を結ぶ気はないかい?」
……ラファエルから、派閥の勧誘を正式に受けちゃったよ。
「えーと……記憶が確かなら、僕のこと好きじゃないですよね?」
「どうだろう? 少なくとも、兄上よりは嫌いじゃないよ」
嫌な言い回しだなあ……それって、結局のところカーディスよりは
「念のため確認しますが、僕の母親もマーガレット妃殿下であることは、ご存知ですよね。なら……」
「……ハロルドは、どうしてそんなことを聞くのかな?」
あ、しまった。ラファエルがマザコンだってことは、あくまでも前世の『エンハザ』の設定として知っているのだから、言っちゃ駄目じゃないか。
おかげで彼の周りの気温が、間違いなく二、三度は下がったよ。
「そ、その……見ていれば分かりますよ。マーガレット妃殿下が、ローズマリー妃殿下のことをぞんざいに扱っていることは。なら、ローズマリー妃殿下の実の息子であるラファエル兄上が、僕やカーディス兄上に対して、思うところがないはずがない」
「へえ……よく見ているじゃないか」
ニコリ、と微笑むラファエルだが、エメラルドの瞳は一切笑っていない。それどころか、なんだかハイライトが消えたように見えるんだけど。メッチャ怖い。
「まあいいや。質問に答えると、兄上はともかく、ハロルドは今までマーガレット妃殿下とは深く関わり合いを持っていない。なら、別に敵対する意味もないだろう?」
「それはまあ……」
「こうして兄上と
ラファエルの言うことはもっともだ。
そもそも、カーディスがエイバル王の命を受けてウィルフレッドを引き入れたことが原因で、今回の結果となったのだから。
それに、先程のカーディスの言葉。
『貴様がそのつもりなら、こちらにも考えがある! このままで済むと思うな!』
これって、後で絶対に意趣返ししてくるよね。
なら、ラファエルの
でも。
「……せっかくのありがたい申し出ですが」
「なぜだい? 今も言ったように、義理立ては不要だろう? なら、
「もちろん理解しています」
そう……ラファエルの提案が
ただし、『エンハザ』本編が始まるまでの、つなぎの間だけを考えるのならば。
そもそも、本編が開始されると、ラファエルだってウィルフレッドを陰で支援することは確定している。
それってアイツの噛ませ犬以下である僕からすれば、敵の中に身を置いていることに他ならないよね。
なら、バッドエンドを回避することを前提として考えれば、ラファエルに接近することは得策じゃない。
……なんてもっともらしい理由を並べてみたものの、一番の理由は、サンドラとその実家であるシュヴァリエ家を巻き込みたくないからなんだけどね。
ラファエルのことだから、僕を勧誘したのだって、カーディスとマーガレットへの嫌がらせであることはもちろんのことだけど、シュヴァリエ家を取り込みたいっていう思惑も当然あるだろうし。
バッドエンドを回避することも大事だけど、それ以上に、サンドラに何かあったらもっと嫌だから。
「あ……誤解しないでいただきたいのですが、カーディス兄上やマーガレット妃殿下に遠慮しているわけでもないですし、もちろんラファエル兄上にも遠慮しているわけでもないですから」
「だったら、どうして断るのかな? ひょっとして、お前も王太子の座を狙っているのかい?」
「まさか。そんなもの、
表情こそ笑っているけど瞳は一切笑っていないラファエルに、僕は肩を
これは本心だし、そもそもシュヴァリエ家に婿入りするんだから、全く意味ないよね。
「とにかく、これだけは言わせてください。僕は王位継承争いに一切関わりを持つつもりはありませんし、協力も邪魔もしません、なので、僕のことは空気か何かのように扱っていただけると助かります」
わざと
少なくとも、僕を
「ふう……ここまで意思が固いのなら仕方ないね。
「そうしていただけると助かります」
というか、今回どころか未来永劫諦めてほしいんですけどね。
「だけど」
「っ!?」
「困ったことがあったら、いつでも言ってくれよ? 僕達は、
「あ、あはは……」
一瞬で僕に詰め寄ったラファエルが、鼻が触れるほど顔を近づけてニコリ、と微笑む。
今のはラファエルの光属性スキルの一つ、【光の扉】かな。どこでも〇アみたいな、ふざけた能力だよ。ハロルドとは大違いだ。
「じゃあ、そういうことで」
ラファエルは手をヒラヒラさせ、深々とお辞儀をする侍女を連れてこの場を去った。
「ハア……色々と、疲れましたね」
「ふふ、そうですね」
大きく溜息を吐いて話しかけると、サンドラは嬉しそうに頷いた、
だけど、カーディスやラファエルとのやり取りの中で、彼女が喜ぶような要素ってあったけ?
などと首を
「ハル様が私のことを思って、あのような選択をなされたことは分かりますよ?」
「え……あ、あはは……」
どうやら、サンドラには全部お見通しだったみたいだ。
そのことが恥ずかしくなってしまい、僕は照れ笑いをしてごまかした。
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