主人公が張り切り過ぎたおかげで、僕の評価が上がりました。

 バルティアン聖王国の使節団を迎え入れるための準備が、つつがなく行われた。

 基本的に、僕もウィルフレッドも当日のホストを務めるだけなので、事前の準備などは全て外務大臣や文官達を中心として行われている。


 僕やウィルフレッドは、最終的なチェックをするだけなのだ。

 というか、高々十三歳の僕達にそんなことまで任せてしまったら、それこそ台無しになって外交問題に発展してしまう危険があるからね。


 だというのにさあ……。


「駄目だ! これでは王国が、田舎者・・・だと馬鹿にされてしまう! もっと洗練された調度品を用意するんだ!」

「「「「「は、はあ……」」」」」


 ウィルフレッドの奴、張り切るのはいいけど、そんな抽象的な指示で無理難題を押し付けるから、準備をしてくれている者達が戸惑っているじゃないか。

 こういうのは、ちゃんと具体的に何をすべきかを、分かりやすく説明してあげないと。


 それ以前に、本当にそれが必要なことなのかどうか、精査したのかな? してないんだろうな……って。


「おっと、僕も手伝うよ」

「っ!? ハ、ハロルド殿下、滅相もない!」

「あはは、こういうのは人数が多いほうがはかどるからさ」


 人手が足らず困っていたところに、僕は手伝いを申し出た。

 文官や使用人達は戸惑っていたけど、ただでさえ大変なんだから、これくらいはさせてもらおう。


 それに前世の僕は、こう見えて高校の文化祭で実行委員をやっていたんだから。

 といっても、クラスの投票で面倒事を押し付けられたっていうのが正解だけど。


 そうして、僕はみんなと一緒に準備をしていると。


「やあ、はかどっているかい?」


 ……僕にホストなんて役割を押し付けた張本人がやって来たよ。


「準備をするのは、外務大臣を中心とした文官や使用人達ですからね。僕はただ、それを見守っているだけですよ」

「へえ……それで、ハロルドはまるで使用人みたいなことをしているわけだ。あそこで率先して陣頭指揮を執って頑張っている、ウィルフレッドと違って」


 ラファエルは、今も使用人達に大声で指示を出し続けているウィルフレッドを見やる。

 あーあ。あんなに怒鳴ったら、みんな萎縮いしゅくしちゃうよ。知らんけど。


「少なくとも、僕みたいな素人は余計な口出しをしないに限りますよ。あとは、使節団が滞在中に粗相をしないだけです」


 そのために、使節団が滞在する一週間のスケジュールについて、外務大臣や文官達とすり合わせはしっかりしている。

 ただし、僕がそんなことを頼んだものだから、外務大臣達は目を丸くしていたけどね。失礼な。


「ふうん……」


 えーと……ラファエル、なんでそんなに僕のことを興味深そうに見てるの? あいにく、そんな趣味は僕にはないんだけど。


「やっぱりさ、お前は僕と手を結ぶべきだよ。僕だったら、もっとお前の才能を活かしてやれる」

「あ、あははー……過大評価が過ぎますよ。それに、その件に関しては以前お断りしましたよね?」

「それでもだよ。僕は、お前が・・・欲しい・・・


 男に真剣な表情で『欲しい』なんて言われても、嬉しくも何ともないです。

 というか、僕は既にサンドラのものですから。


「ハロルド殿下、こちらのご確認を……」

「ああ、今行く。それではラファエル兄上、失礼します」

「ハア……ちゃんと真面目に考えておいてくれよ?」


 文官が呼びに来て、これ幸いとばかりにこの場を離れる。

 ラファエルは、溜息を吐いて苦笑した。


 ◇


 そんなこんなで全ての準備を終え、明日はいよいよ使節団が王都に到着する。


 いやあ……余計な仕事を押し付けられたせいで、ここ一か月は死ぬほど忙しかったよ。本当に大変なのは、外務大臣や文官、それに使用人達だけどね。


「ハル様、とてもよくお似合いです」

「そ、そうかなあ……」


 で、僕は今、明日のために用意した式典用の服を、最終確認のために試着して、サンドラ達に確認してもらっているところだ。

 彼女は頬を染めて絶賛してくれているけど、僕個人の感想としては、馬子にも衣裳感が半端ない。

 まさに、『服に着られている』って言葉がピッタリだね。とにかく似合ってない。


「明日の夜は、使節団を歓迎するパーティーがもよおされます。それで……君にはその、僕のパートナーを務めていただきたいんですけど……」


 少し照れながらそう告げると、サンドラが少しうつむき、嬉しそうに口元を緩めた。メッチャ可愛い。


「だ、だけど、大変申し訳ないのですが、使節団にギリギリまで付きっ切りになってしまうため、お迎えに上がることができなくて、その……申し訳ありません」

「ふふ、お気になさらないでください。大切なお役目があることは分かっておりますし、それに、パーティーではハル様を独り占めできるのですから」

「あ、あはは……」


 深々と頭を下げる僕に、サンドラはクスリ、と笑って了承してくれた。

 これは使節団が帰ったら、お詫びに彼女のお願いをなんでも聞くことにしよう。どんなお願いをされるか、ちょっと怖いけど。


「ちぇー……ボクはお留守番かあ……」

「キャスさん、ご安心ください。パーティーの食事は、このモニカが全てここへお運びします」

「本当! やったあ!」


 キャスがベッドの上の飛び跳ね、メッチャ喜んでいる。

 美味しいものが食べられるなら、それでいいらしい。チョロイ。


「それにしても……ふふ、あのくずが何も分かっていないおかげで、ハル様の評価を上げる結果になりました」


 そう……準備に余計な口出しをしたせいで、ウィルフレッドはカーディスからも注意を受けていた。

 アイツのしたことは現場を引っかき回しただけだから、当然だよね。

 まあ、そのおかげで、僕は何もしていないのに文官や使用人達から信用を得る結果に繋がったのだから、本当に分からないものだよ。


 これで少しでも、『無能の悪童王子』を返上できたらいいんだけど、それは無理か。

 どうやら僕の態度や行いだけで、そんなレッテルを貼られているわけじゃないみたいだってことが、今回の準備の中で分かったし。


「本当に、明日が楽しみでなりません」


 そう言うと、サンドラは口の端を吊り上げた。メッチャ怖い。

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