主人公と一緒にホスト役を務める羽目になりました。

「……此度こたびは、ウィルフレッドに使節団のホストを任せる」


 うわー……エイバル王も、思いきった決断をしたなあ。

 僕も大概だけど、アイツも『けがれた王子』なんだから、そういった外交には向かないと思うんだけど。


「お待ちください。ウィルフレッドはまだ十三歳であり、それにホストはおろか王族としての務めを果たしたこともありません。さすがに荷が重すぎるのでは?」

「なればこそよ。ウィルフレッドにも、そろそろ王族としての責務を果たしてもらわねばな。それに、ウィルフレッドにはお主がいる。よく助けてやれ」

「はっ……」


 カーディスが物申すが、エイバル王にそう言われては受け入れざるを得ない。

 まあ、エイバル王はこういった時のことも見越して、ウィルフレッドをカーディスの派閥に入れたのかも。


 三年後にはご乱心するくせに、国王らしくなかなか考えているじゃないか。

 そう考えると、僕とサンドラの婚約にも、何かしらの思惑とかあるのかな? 一番考えられるのは、王家と王国最大貴族の連携強化だとは思うけどね。


 それも、全ては『世界一の婚約者を連れてきた者を、次の王とする』なんて馬鹿なことをのたまったせいで、全て台無しになるけど……って。


 ここまで考えて、僕は背中に冷たいものを感じた。

 もしそれが、全てエイバル王の計算の上で行われたものだったら……。


 あ、あははー……いや、まさかね。


 僕は、ふとよぎった可能性をこれ以上考えまいとして、かぶりを振る。

 そうだよ。『エンハザ』本編の出来事は、全て制作者にとって都合の良いようにシナリオを考えたものであって、エイバル王にそんなことを考えられるほど優れているはずがないよ。


 その時。


「陛下、ウィルフレッドに経験を積ませることが目的なら、ハロルドも同じ。ならばここは、二人にホストを任せるというのはいかがでしょうか」


 はああああああ!? ラファエル、何を言い出すの!?

 ちょっと気を抜いて、余計なことを考えている隙を突くのはやめてくれるかな!?


「お。お待ちください! 申し訳ありませんが、僕にそのような大役は務まりません!」


 僕は慌ててラファエルの提案を断った。

 誰が好き好んで、面倒な上にウィルフレッドなんかとそんなことをしなきゃいけないんだ! 断固拒否する!


「ふむ……ラファエルの言うことももっともであるな……」

「っ!?」


 いやいや、エイバル王も考えなくていいから!?

 お願いだからそっとしておいてください!


「よし。バルティアン聖王国のホストは、ハロルドとウィルフレッドの両名で務めるように」

「あ……ああー……」


 エイバル王のその一言で、僕は思わず情けない声を漏らしてしまった。

 おのれラファエル。オマエのせいで罰ゲーム確定だよ。どうしてくれよう。


 だからさあ、ラファエル……そんな、『僕に感謝するんだよ』的な笑顔で、コッチ見ないでくれるかな?


 ◇


「……ということなんです」

「「ハア……」」


 謁見の間での一部始終をサンドラとモニカに説明すると、二人揃って溜息を漏らした。

 いや、僕も溜息しか出ないよ。


「王国のとして、聖王国のホストを務めること自体はとても名誉なことですが、よりによってあのくずと一緒に、ですか……」

「ウィルフレッドのことですから、必ずハロルド殿下の足を引っ張ってくると思われます」


 サンドラがこめかみを押さえてかぶりを振り、モニカは淡々と事実だけを告げる。

 そうだよね。僕も絶対にろくなことにならないと思っているよ。


「きっと周囲は、あのくずと比較すると思いますので、結果次第ではハル様のお立場が悪くなってしまうのでは……」

「えー……それはすごく困ります」


 別に第三王子としての評価には興味ないものの、そのせいでシュヴァリエ家への婿養子計画や、最悪サンドラとの婚約にまで影響が出てしまったらシャレにならない。

 ただでさえサンドラの兄のセドリックは、婚約者である僕のことをよく思っていないというのに。絶対これをネタにして、婚約解消に向けて手を打ってきそう。


「私も、ハル様のことを何も知らない連中が、不当な評価をすることが許せません」

「そうですね。ハロルド殿下は、こんなにも揶揄からかいがいのある……ゲフンゲフン、素晴らしい御方だというのに」


 モニカは思わず本音が漏れていたことは置いといて、こんなにも僕のことを想ってくれる二人のためにも、ウィルフレッドに負けるわけにはいかないね。

 まあ、なんの勝負をするんだって話だけど。


 ハア……それにしても、僕は主人公には関わらないと決意したんじゃなかったのかな? 結果的に、『エンハザ』以上に絡んでいるんだけど。

 しかも今回に関して、僕は完全に噛ませ犬扱いだし。


 まあ、だけど。


「……噛ませ犬にだって、牙くらいはあるんだよ」


 みんなに聞こえない声で、僕は静かに呟く。

 そうだ。サンドラのためにも、あんな奴に負けてたまるか。


 噛ませ犬になるのは、ウィルフレッドのほうだ……って。


「サンドラ……?」

「ふふ……あなた様の牙は、この私が誰よりも知っております。そしてハル様は、誰よりも心が強く、誰よりも素敵な御方であることも」


 僕の手をそっと握り、サンドラはとろけるような笑顔を見せる。

 あ、あはは……聞こえちゃったか……。


 でも、僕のことをこんなにも信じて、こんなにも想ってくれる最高の婚約者に、絶対にいいところを見せたいよね。


 だから。


「見ていてください。僕は絶対に、アイツに勝ってみせます」


 サンドラの小さな手を握り返し、僕は精一杯の笑顔を見せた。

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