『無能の悪童王子』は生き残りたい~恋愛スマホRPGの噛ませ犬の第三王子に転生した僕が生き残る唯一の方法は、ヒロインよりも強いヤンデレ公爵令嬢と婚約破棄しないことでした~
ヒロインをクビにして主人公とエンカウントさせることにしました。
ヒロインをクビにして主人公とエンカウントさせることにしました。
二人の兄への怒りと、アレクサンドラと添い遂げる決意を胸に抱え、僕は自分の部屋へと戻ってくると。
「ええー……」
……よりによって、マリオンが扉の前で土下座スタイルで待ち構えているんですけど。
でも、王宮から追い出されてしまったら、給金はなくなってしまうわシアラー家の再興が遠のくわで、マリオンにとっては死活問題だからなあ……。
「この度はハロルド殿下に無礼を働いてしまい、申し訳ありませんでした。どうか、お許しいただけませんでしょうか」
マリオンは平伏しつつ、いつものように抑揚のない声で謝罪の言葉を告げた。
さて……どうしようか。
彼女の境遇を考えれば同情できないこともないけど、かといって不問にしてしまったら、僕のために怒ってくれたアレクサンドラの気持ちを裏切ってしまうことになる。
とはいえ、このまま恨みを買ってしまえば『エンハザ』の本編が始まった時、主人公のウィルフレッドと結託して僕を敵対視してくる可能性が高い。
何かいい解決策はないものか……って。
「あ……」
一つだけあったよ。
これなら、アレクサンドラの気持ちを汲むことにもなるし、将来的に考えればマリオンにとっても悪い話じゃない……はず。
「コホン……マリオン。残念だけど、僕は君をこのまま侍女として置いておくわけにはいかない」
「っ!? お、お願いです! 二度と失礼な態度を取るような真似はいたしません! ですから、どうか……どうか、もう一度機会をお与えください!」
額を床に
今まで歯を食いしばって耐えてきたことが、これで全て無に帰してしまうことを考えれば、必死になるのも当然か。
「待ってくれ。僕は別に、王宮から追い出すと言っているわけじゃない」
「で、では!」
「これからは僕ではなく、第四王子のウィルフレッドに仕えるんだ。もちろん、
「あ……」
そう告げた瞬間、勢いよく上げたマリオンの顔が真っ青になった。
現在、ウィルフレッドには専属侍女がいない。
それは、侍女の誰しもが、彼の専属侍女になることを嫌がるからだ。
専属侍女になってもメリットは何一つなく、周囲の者達からは自分までウィルフレッドと同じように
これらはひとえに、僕の母親である第一王妃のマーガレットが、ほんの少しでもウィルフレッドの環境が改善されることを許さないから。
どうしてかって? 最愛の夫であるエイバル王を、彼の
そう……ウィルフレッドは、マーガレットにとっては最愛の夫と世界一憎い女の間に生まれた子供ということになる。
しかも、愛人の立場でしかない分際で、エイバル王に頼み込んで強引にウィルフレッドに王位継承権を与えさせたのだから、到底許せるはずもない。
他の王族や貴族達も、愛人の子なんかをそのような地位につけたことをよく思うはずもなく、とにかくウィルフレッドは、生まれた時から不遇の人生を歩まされている。
これが、ウィルフレッドが『
そんな主人公に同情しなくもない……いやいや、『エンハザ』本編が始まれば、むしろヒロインに囲まれてメッチャいい思いをすることになるんだから、僕は同情なんてしないけどね。
まあそういうことなので、マリオンはある意味死刑宣告を受けたことになるのかな。
「心配しなくても、誰かに聞かれれば『ハロルドに無理やり命令されて、ウィルフレッドの専属侍女にさせられた』と言えばいいし、僕からも侍女長にそのことは伝えておく。これなら、少なくとも周囲から同情されこそすれ、嫌な思いをせずに済むはずだ」
「ハロルド殿下は何も知らないからそんなことが言えるのです! 私は……私は……っ」
「だが、このまま王宮から去れば、シアラー伯爵家再興は果たせなくなるぞ」
「っ!?」
僕がマリオンの
身体を震わせ、
「それに、このまま仕えたところでお互い嫌な思いをするだけだし、僕にだってシアラー家再興を支援する力はない。なら、『無能の悪童王子』でも『
肩を
そもそもこれは、マリオンの身から出た
確かに僕もこの一か月、マリオンから
でも、だからってアレクサンドラとマリオン、どちらを選び尊重するかと言われれば、迷うことなく前者に決まっている。
少なくとも彼女と婚約者のままでいれば、『世界一の婚約者を連れてきた者を次の王とする』などという、くだらない王位継承争いに参加する必要はないのだから。
……いや、違う。
僕にとって、この世界で大切な存在は、アレクサンドラただ一人だから。
「マリオン、これは僕にとって最大限の譲歩だ。これが受け入れられないなら、今すぐ王宮を去ればいい」
「…………………………」
それだけを言い残すと、僕は自分の部屋へ入った。
背中に、これ以上ない憎悪の視線を受けて。
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