『無能の悪童王子』は生き残りたい~恋愛スマホRPGの噛ませ犬の第三王子に転生した僕が生き残る唯一の方法は、ヒロインよりも強いヤンデレ公爵令嬢と婚約破棄しないことでした~
ライバルキャラの価値観を受け入れられませんでした。
ライバルキャラの価値観を受け入れられませんでした。
「やあ、ハロルド。婚約おめでとう」
食堂内に入ってくるなり、人懐っこい笑みを
――第二王子、ラファエル=ウェル=デハウウバルズ。
ええー……カーディスだけじゃなく、ラファエルまで来ちゃったよ。
ちなみに、ラファエルは『エンハザ』の男キャラの中で一番腹黒く、常にカーディスを追い落とすことだけを考えているという設定だ。
何でも、母親である第二王妃のローズマリーのことが世界一大好きなマザコンらしく、第一王妃のマーガレットによるローズマリーに対する見下した態度に憤り、その意趣返しとしてカーディスに仕返しをしているということらしい。
これは、同じくマーガレットの息子である僕にも適用され……てないんだよな、これが。
まあ、実の母や兄に『兄のスペアになれない息子』『使えない弟』扱いを受けている『無能の悪童王子』なんだから、何もしなくても既に最低評価だからなあ。切ない。
とはいえ、大人しくさえしていれば、ラファエルに目を付けられなくて済むので、それはもう空気のように振る舞いますとも。
そういうことなので、実はラファエル本人は王位継承争いに興味がなく、とにかくカーディスが次期国王にさえならなければそれでいいらしい。
といっても、そうなると残るはハロルドかウィルフレッドしかいないんだけど、当然ながら僕が王様になってなったら、王国が滅亡しちゃうよ。
なので『エンハザ』においても、ラファエルはウィルフレッドに気づかれないように密かに支援していて、メインシナリオ中盤からはウィルフレッドを全面的にバックアップしていくのだ。
まあ、ウィルフレッドのことを最も憎んでいるマーガレットへの、強烈な嫌がらせになるしね。
このため、ラファエルは『エンハザ』内で敵として登場することはなく、戦闘シーンも一切ない……けど、ちゃんと能力値は設定されていて、公式サイトにはデータが掲載されている。
やはり王族として【デハウバルズの紋章】のスキルのほか、三つの属性の魔法スキルを使用できる【三精霊の祝福】という固有スキルを持っていた。なんだよそれチートじゃん。
とまあ、王族の名に恥じないハイスペックな能力を持つラファエルもまた、押しも押されぬヒーローだということだ。カーディス含め、そりゃ女性向けのガールズサイドも製作されるわけだよ。売れなかったけど。
「……ラファエル。ここにはハロルドに祝福の言葉を伝えに来ただけか?」
「それ以外にありますか?
ジロリ、と睨むカーディスに、ラファエルが
だけど、誰よりも兄だと思っていないラファエルがカーディスを『兄上』なんて呼ぶと、何というか気持ち悪くて今すぐこの場から逃げ出したい。
「それで、お相手は
「は、はあ……」
「いやあ、それはすごいね。僕にも、早く婚約相手を決めてほしいよ」
なるほど、ラファエルは愚痴を言いに来たのか。
確かに第二王子を飛び越えて、しかも最大貴族の令嬢を『無能の悪童王子』であるハロルドにあてがったんだ。ラファエルからすれば面白くないか。
それに、僕も憎きマーガレットの息子だから。
「フン……聞いているぞ。陛下やローズマリー妃殿下を通じて、シュヴァリエ公爵に婚約を申し出たが、
「あはは、そうなんだよね。こんなことなら、
カーディスの最大限の皮肉に、ラファエルは苦笑してかぶりを振る。
だけど、今の話が本当だとするなら、シュヴァリエ公爵はエイバル王の要請を拒否したということだよね……。
なのに、どうして悪評高い僕との婚約は受け入れたんだ? 謎過ぎる。
「だけど、兄上だって可能なら、シュヴァリエ家の令嬢を婚約者にしたいだろう? “フレデリカ”嬢と婚約破棄してでも」
「まあな……といっても、
あー……王位継承争いをしている二人にとっては、婚約者も大事な
それによって自分が国王になれるかどうかが左右されるんだから、よりよい婚約者が現れたら、今の婚約者を捨ててでも、そっちに乗り換えたりするかあ。
「む?」
「ハロルド?」
「申し訳ありません。体調がすぐれませんので、せっかくですがここで失礼します」
僕は席を立ってそう告げると、足早に食堂を出た。
これ以上、こんな
でも。
「……『エンハザ』では、ハロルドだって同じことをしたんだよな」
廊下の壁に拳を打ちつけ、僕はポツリ、と呟く。
ただカーディスに媚びを売りたい一心で。
そうすることで兄に役に立つ弟であるとアピールして。
母であるマーガレットに見てほしくて。
そして……アレクサンドラ=オブ=シュヴァリエという、素晴らしい女性を傷つけたんだ。
本当に、ハロルドを含めてデハウバルズの王子は、揃いも揃って腐っているよ。
だからこそ。
「僕は……僕は、絶対にそんなことはしない……っ!」
僕は、
これは、自分がバッドエンドを回避して生き残るためだけじゃない。
一番大好きなアレクサンドラの顔を、『エンハザ』のあのスチルのように曇らせないために。
ゲームでは一切描かれなかった、本当の彼女の色んな表情を知るために。
あの訓練場で初めて知った、誰よりも強く、気高く、優しい彼女のために。
二人の兄への怒りと、アレクサンドラと添い遂げる決意を胸に抱え、僕は自分の部屋へと戻ってくると。
「ええー……」
……よりによってマリオンが扉の前で、土下座スタイルで待ち構えているんですけど。
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