小さな黒猫魔獣とエンカウントしました。
「ここから先は、ボクの縄張り! 一歩でも入ったら殺してやるニャ!」
……黒い子猫が、人の言葉をしゃべってメッチャ
というか、一歩目で魔獣とエンカウントって、どうなの?
しかも、見た目は一応キャスパリーグと全く同じではあるんだけど……あはは、まさかね。
「アレクサンドラ殿、どうします?」
「魔獣キャスパリーグは、とても大きな獅子の姿をしていると言われています。それに、魔獣とはいえこのような小さな猫に手をかけるのは、さすがに
サファイアの瞳をこれでもかとキラキラさせて、子猫の魔獣を凝視するアレクサンドラ。
どうやらとても気に入ったらしく、お持ち帰りも辞さない感じだ。
「いけません。たとえ子猫とはいえ、これは魔獣。大きくなれば、シュヴァリエ家に害をなすことは目に見えています」
モニカが、いつになく真剣にたしなめる。
普段が普段なだけに、真面目なことを言われると違和感が半端ない……と思ったけど、さっきからチラチラと子猫の魔物を見ているから、モニカも構いたくて仕方がないみたいだ。
「むう……モニカは頑固ですね」
「お嬢様は、もう少し自重なさってください」
口を尖らせるアレクサンドラだけど、このモニカには逆らえないようで、渋々といった様子で諦めたようだ。
でも、そんなことを言っているモニカだってメッチャ唇を噛みしめて耐えているよ。これ、僕が後押ししたら、ここぞとばかりに連れて帰るのでは。何かあったら全部僕のせいにして。
「コ、コラー! ボクは強いんだニャ! 恐ろしいニャ! もっとビビるニャ!」
前脚をブンブンと振り回し、必死にアピールする子猫の魔獣。何かするたびに、アレクサンドラの心をつかんで離さないのにはちょっと嫉妬する。
「ハア……」
「ワワ!? ニャ、ニャにをするニャ!」
僕は子猫の魔獣抱き上げて、ずい、と顔を寄せると。
「念のため聞くけど……お前はキャスパリーグなのか?」
そんなことを尋ねてみた。
「ハロルド殿下。こんなに愛らしい子猫なのですよ? さすがにそれはあり得ないかと」
「そうですよ。先程お嬢様がおっしゃられたように、言い伝えのキャスパリーグは獅子の姿をした大型魔獣です。このような子猫などでは……」
「フ、フン……よく見抜いたじゃニャいか」
「「っ!?」」
どこか照れくさそうに鼻を鳴らして肯定する子猫……もといキャスパリーグ。
二人は信じられないようで、目を見開いている。
確かにちっちゃいけど、見た目は間違いなくキャスパリーグだもんなあ……僕も信じたくはなかったけど。
でも、『エンハザ』とのあまりのギャップに、どうしたものかと頭を抱えたくなる。
だってさあ……『漆黒盾キャスパリーグ』を手に入れるには、この子猫を討伐しないといけないわけで、そんなことをしたら絶対に二人に恨まれるよね。八方
「だけど、どうしてそんなに小さな身体をしているんだ? 獅子の姿というのは出まかせだったとして、本来は大きな猫の魔獣じゃないのか?」
「ニャニャ……お、お前にボクの何が分かるニャ!
逆ギレしてまくし立てるように話したかと思えば、キャスパリーグは顔をしかめてうつむいてしまった。
その言葉ぶりから、何か事情があるみたいだ。
「それはどうでもいいとして、『漆黒盾キャスパリーグ』って知っているかい?」
「ヒ、ヒドイニャ! ボクがこんなに落ち込んでいるっていうのに、『どうでもいい』ってどういうことニャ!」
キャスパリーグはメッチャ文句を言ってくるが、どうでもいいものはどうでもいい。
僕にとって大切なのは、『エンハザ』本編が始まったとしてもアレクサンドラと婚約したままで、万が一巻き込まれたとしても僕自身と彼女……一応、モニカも入れておこう。とにかく、僕の大切なものを守り抜くこと。魔獣の悩みなんかに構っている暇はないのだ……って。
「ハロルド殿下。今おっしゃった、『漆黒盾キャスパリーグ』というのは?」
「あ……」
そ、そういえば、キャスパリーグの討伐については話していたけど、肝心の『漆黒盾キャスパリーグ』については説明していなかったよ。
「そ、そのー……実は……」
僕はアレクサンドラの顔色を
魔獣キャスパリーグを討伐すれば、その武器が手に入る可能性があることを。
もちろん、『王宮にある文献には、そんな言い伝えが記されている』と、嘘を吐いて。
だけど。
「……本当に、そのような
「そうです。私はご主人様である殿下を、そのような冷たい御方に育てた覚えはありません」
二人から総スカンを食らってしまったよ。あと、僕もモニカに育てられた覚えはないよ。
でも、あれがないと僕もメッチャ困るんですけど。どうしよう。
などと頭を悩ませていると。
「……もしボクの言うことを聞くニャら、『漆黒盾キャスパリーグ』について教えてやらんこともないニャ」
コイツ……子猫の分際で、メッチャ悪い顔をしているよ。
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