『無能の悪童王子』は生き残りたい~恋愛スマホRPGの噛ませ犬の第三王子に転生した僕が生き残る唯一の方法は、ヒロインよりも強いヤンデレ公爵令嬢と婚約破棄しないことでした~
絶対に婚約破棄しないために決意しました。
絶対に婚約破棄しないために決意しました。
「こ、ここは、王宮内でも特に綺麗な場所でして、一年中様々な花を咲かせています」
王宮の中庭に案内し、僕は声を上ずらせて説明する。
いや、
だけど。
「…………………………」
僕と一緒にいるのがつまらないのか、アレクサンドラは終始無言のままだ。
何か面白いことでも言えればいいんだけど、あいにくコミュ障の僕には無理ゲーですとも。
「そ、そうだ。せっかくですのでテラスでお茶をしましょう」
居たたまれなくなった僕は、なんとか状況を打破しようとそんな提案をするものの、完全受け身の彼女はただ黙ってついてくるのみ。
席に着き、王室御用達のお茶や最高のお菓子を用意しても、一切口をつけようともしない。
ハア……やっぱりハロルドじゃ、どう頑張っても運命なんて変えることはできないのかな……。
死という最悪の結果が待っているだけでなく、婚約者になるはずの一番の推しにすら見向きもされないこの状況に気が滅入ってしまい、僕は視線を落とす……って、いやいや!? そんな簡単に諦めてどうするんだよ!
このままじゃ僕のバッドエンドだけじゃなく、アレクサンドラだって処刑されてしまうことになるんだぞ!
な、なら!
「ア、アレクサンドラ殿!」
「っ!?」
勢いよく顔を上げ、大きな声で名前を呼んだものだから、彼女は驚いて目を見開いた。
「そそ、その! ……その、知っているかもしれませんが、僕はこれまで、あまりいい王子ではありませんでした。人に迷惑ばかりをかけ、自分勝手で、
「……………………………」
最初の勢いはどこへやら。僕のトーンはどんどん尻すぼみになり、最後のほうは消え入りそうな声になる。
でも、アレクサンドラはそんな僕の言葉を、ただ無言で聞いてくれていた。
「一方で、この婚約は王族から持ちかけたものであり、シュヴァリエ公爵が……君が拒否することができないことも、理解しています」
「……ハロルド殿下は、何をおっしゃりたいのでしょうか?」
ようやく口を開いたアレクサンドラは、氷のような冷たさを
しかも、彼女は僅かに眉根を寄せていて、怒っている様子が
思わず変な声が出そうになってしまうけど、僕は何とか気を取り直し、彼女を見つめると。
「三年……三年、僕に時間をください! その間に、僕は君に
「な……っ」
「どうか……どうか、お願いします!」
僕は椅子から飛び降りて土下座を敢行し、地面に額を
悪名高い第三王子のハロルドが、王国の臣下の令嬢に頭を下げてみっともなく情けない姿でお願いをしているんだ。これでますます、彼女は幻滅したかもしれない。
でも……僕は、こう考えたんだ。
このままだと死ぬ運命しかない僕だけど、『エンハザ』本編が始まる前までにアレクサンドラに認めてもらえるような男になることができたなら、僕と彼女の運命を変えられるんじゃないかと。
つまり、僕とアレクサンドラが結ばれることにより、世界一の婚約者を探すために婚約破棄をするというイベント自体が発生しなくなり、それによって主人公と争うこともなく、バッドエンドを回避できるかもしれないと。
「…………………………」
沈黙の中、彼女の視線を頭上に感じる。
そして。
「……分かりました」
「っ!」
「ハロルド殿下の三年後のお姿を、今から楽しみにしております」
「あ、ありがとうございます!」
アレクサンドラの答えが嬉しくて、僕は何度も頭を下げた。
勢い余って地面に額を打ちつけてしまったけど、それ以上に、まだ彼女と繋がっていられる可能性があることが、本当に嬉しかったんだ。
すると。
「そ、その……殿下、そろそろお時間です」
「あ……」
しまった。ここにはお世話のための使用人達もいるんだった。情けない姿をバッチリ見られちゃったよ。どうしよう。
「コホン……そ、その、ありがとう」
「っ!? い、いえ……」
誤魔化すように咳払いし、教えてくれた使用人に感謝の言葉を告げると、彼女は一瞬驚いてそそくさと離れていってしまった。
多分、普段偉ぶって横柄なくせに、婚約者となる彼女相手に情けない姿を見せたものだから、心の中で馬鹿にしているんだろう。僕もこれから使用人と、どう接したらいいか分からないよ。困った。
「ア、アレクサンドラ殿、手を……」
「はい……」
気を取り直し、彼女の前で膝をついて右手を差し出すと、すぐに手を添えてくれた。
そうして、エイバル王とシュヴァリエ公爵の待つ応接室へと戻ってくると。
「ハロルドよ、アレクサンドラ嬢とは仲を深めることができたか?」
「え!? え、ええ、まあ……」
どう答えていいか分からず、曖昧に返事をする。
あのやり取りで仲が深まったのかといえば、一ミリ程度であればそうなのかもしれないので、嘘にはならないよね。
「陛下、それでは失礼いたします」
「失礼いたします」
「うむ。アレクサンドラ嬢よ、これからはいつでもハロルドを尋ねてくるがよい」
シュヴァリエ公爵とアレクサンドラが
僕は、彼女の香りが残る応接室で、いつまでも扉を見つめていた。
握りしめる両手の拳に、覚悟と決意を込めて。
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