第9話

自室で勉強を終わらせた私は、立ち上がって拳を突き上げる。


「よし、今日は街で美味しいと噂のパン屋さんに行くわよ!!」


「そう仰ると思い、既に馬車の用意はできております」


「ありがとうレイ!!」


ふっふっふ! 今日は街に美味しいパン屋さんがあるというので、お忍びで行くことにしたのだ!! 超楽しみだわ!!


私が部屋から出ると、ミリーが走ってきて抱き着いてきた。


「お姉様!! お勉強はもう終わりましたか?」

「ええ終わったわ。それで、今から街のパン屋さんに行くんだけど、ミリーも一緒に行かない?」

「もちろん行きます!!」


それから私たちは外で待っている馬車へと向かった。


馬車の前につくと、私が先に乗り込んだ。


「ほら、ミリーこっちおいで」


私は隣の席をポンポンと手で叩く。


「はい!!」


そしてミリーは馬車に乗り込むと、私の隣の席を通り過ぎ、私の膝の上に座った。


「ミ、ミリー?」

「ミリーはお姉様のお膝の上がいいです!!」


か、かわいい!!


私は思わずミリーの頭をよしよしと撫でる。


すると、ミリーは気持ちよさそうに目を細めた。


そして、遅れてレイが馬車に乗り込んできて、私たちと対面の席に座った。


そしたら、ミリーはなぜか勝ち誇ったような表情をしてレイを見る。


レイは相変わらず無表情だけど、小さい声で「天使が二人...むしろ眼福...」などと呟いているので、今は無視することにした。


「それにしても、お姉様がお出掛けなんて珍しいですね」

「ええ、実は料理長おすすめのパン屋さんが街にあるのよ。街でも噂になってるらしいから、一回行ってみたかったのよね」

「そうだったのですね、お姉様は美味しいものが大好きですもんね!!」

「ええ――」


その時、馬車が急停止し、私とミリーは前の方に飛ばされた。

そこをすかさずレイが、私たち二人を抱きしめる形で受け止めてくれた。


どうやら子供が飛び出してきて急停止したらしい。


「ありがとうレイ、助かったわ」

「あ、ありがとうございますレイさん」

「いえ、これくらい侍女として当然です。お二人にお怪我がなくて良かったです」


私はほっとして、抱かれていたレイから少し離れ、レイにも怪我がないか確認のためレイの顔を見る、すると――


「ちょっとレイ!? あなた鼻血が出てるじゃない!! 大丈夫!?」

「ほ、ほんとじゃないですか!! レイさん大丈夫ですか!?」


私たち二人が心配してレイに顔を近づけ、頬に手を触れると、なぜかその鼻血の勢いは更に増した。


「ちょ、ちょっとこれ止まらないの!?」


「お嬢様、これは不可抗力です」


「ちょっとなに言ってるのよ!!」


その後、私のヒールで無事鼻血は治まった。


そして、なんとかパン屋に到着したのだった。

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