第38話

私はお手洗いを済ませて、鏡の前に立つ。


先に教室へ向かったレオ王子は、もう教室に着いた頃かな。


「...なんだか緊張するわね」


私は、ジェシカから貰ったクマの刺繍がされているハンカチで手を拭いて、お手洗いを後にした。


こ、ここがSクラスの教室ね...や、やっぱり緊張するわね。


教室の中からは、沢山の話声が聞こえる。


ドキドキ。


私は気を引き締めて、スライド式のドアを開ける。


ガラガラガラ。


シーン。


私がドアを開けた瞬間、教室にいる全員が一斉に私の方を見た。


え!? 私がドアを開けた瞬間、みんな静かになったんだけど!?


すると、一時は永遠に続くと思えた静寂が、二人の親友によって破られた。


「リリー様! こっちですわ!」

「一番奥のここですうううう!!」


ジェシカが胸の前で控え目に手を振り。アシュリーは笑顔で大きく両手を振っていた。


すると、それが合図かの様に、教室は喧騒を取り戻した。


あ、あの空気感に耐えられなかったから助かったわ。


私はジェシカとアシュリーのいる、一番後ろの席へと向かう。


し、視線をすごく感じるわね...


階段状になっている教室を上る途中、周りの皆が、私をチラチラと見てくるのがわかった。


ざわざわ。ざわざわ。


な、なんか皆私を見ながら話してない?


私が席に到着し、ジェシカとアシュリーの間に座ると、前に座る男子二人の話し声が聞こえてきた。


「なぁ、お前も見ただろ? 鑑定の儀の石盤破壊」

「ああ、あれを見て、お前の話していた噂が本当かもと思ったよ」


小声で話してるけど、これ多分私のことよね? 噂って何のことかしら?


「だろ? 色々噂はあるけどさ、お前これ知ってる? ドラゴンの群れを一人で壊滅させたらしいぜ」

「マジかよ...」


男子二人が、チラっと私の方を見る。


いやしてないわッ!! なんで私がドラゴンの群れを壊滅させたことになってるのよ!!


「しかも、そのドラゴンを全部食ったらしい」

「し、信じられねぇ...」


いや信じなくていいからッ!! 食べる訳ないでしょうが!!


彼らは話していく内に、驚きや興奮の声を抑えられなくなっていた。


「他にも、ダンジョンのモンスターを全て倒すと言って、ダンジョンごと破壊したらしいぜ」

「マ、マジかよ...」

「しかも、その後―」

「ま、まさか...その倒したモンスターを全部食ったのか?」

「いや、ダンジョンごと食ったらしい」

「し、信じられねぇ...」


また二人がチラっと私の方を見る。


いや食えるかああああああああ!! 誰よそのデタラメな噂を広げた奴!!

なに? 私のイメージは、強力な魔法をぶっ放して、その後なんでも食べる化け物なの!?


「怒らせると、多分俺らも食われちまうぜ...」

「お、恐ろしいな...」


すると、私の隣に座っていたアシュリーが、バン!!と机を叩いて立ち上がった。


「リリー様はそんな人じゃないです!!」


ア、アシュリー...


「確かに食いしん坊さんで、(まぁそこが可愛いんですけど)魔法も人間じゃありません!!(私はリリー様の魔法が大好きです) ちょっと、いや、かなりおっちょこちょいさんですけど、やる時はやるカッコいいお方なのです!!」


な、なんか複雑だよ!?

庇ってる? 庇ってくれてるんだよね!?


その時、教室の扉がガラガラと開いた。



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