第39話

「お主ら静かにするのじゃ! 立っている者は今すぐ座るのじゃ!」


開いたドアの向こうにいたのは――


こ、子供?


ぴょこぴょこと効果音が聞こえてきそうな足取りで、その子は教卓へと向かう。


身長ほどある水色の髪を揺らし、教卓に辿り着くと、持っていた黒い表紙をパタンと置いた。


「迷子?」

「迷子ですね」

「迷子ですわ」


「おいそこ! 迷子じゃないわ!!」


そう言う彼女はその身長から、顔の上半分しか教卓から見えていない。


しかし、その頭から生える立派なアホ毛は、しっかりと確認できる。


「良いか? わらわはこのクラスの担任をすることになった、キロじゃ。よろしく頼むぞ」


その瞬間、このクラスの全員が口を揃えて言った。


「「「「「先生!? 子供じゃなくて!?」」」」」


「子供じゃないわ!! 妾は立派な大人じゃ!!」


更に、キロ先生は「妾は怒るとコワいのじゃ!」と言って、皆を睨む。


しかし、その姿が愛らしい子供にしか見えなかった私は、クラスの皆と口を揃えて言う。


「「「「「可愛い~!!」」」」」


「可愛いって言うななのじゃああああ!!」


皆がキロ先生の可愛さにほんわかムードの中、クラスのどこからか話し声が聞こえてきた。


「キロって、あの伝説の冒険者パーティー、秘宝の星のキロか?」

「まさか、あんなに可愛い子があのキロな訳ないだろ」





「さて。お主らには今日、みなの前で自己紹介をしてもらうのじゃ」


キロ先生はそう言って、名簿に目を通す。


うーん。ゲームで担任の先生はテキストで少しだけ登場するけど、こんなにキャラの濃い口調だっけ?


「じゃあまずソフィア。お主から自己紹介をするのじゃ」


「ひゃ、ひゃい!!」


教室の真ん中辺りに座っていたソフィアは、慌てて立ち上がり、そわそわしながら皆の前に出ようとする。


あっ!ソフィアがトップバッターなのね。すっごい緊張してるだろうなぁ。


頑張れソフィア!!


「キャっ!!」


すると、教室に敷かれていたカーペットにソフィアの足が思いっきり引っかかり、盛大に転んだ彼女は、そのまま階段状の教室をゴロゴロと転がり、カーペットに包まれながら皆の前に出た。


ソ、ソフィア!? 大丈夫なの!?!?


あまりに予想外な出来事に、クラスの皆は呆然としている。


すると、カーペットがもぞもぞと動き出し、赤面したソフィアがぱっと顔を出した。


「私の名前はソフィアです!! これからよろしくお願いします!!」


いやこのタイミングで自己紹介!? もうちょっと落ち着いてからの方がいいんじゃない!?

カーペットから顔しか見えてないよ!?


すると、ソフィアは目をギュッと閉じて、カーペットのままお辞儀をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る