第50話

寝る前、部屋の隅にある机で、私は明日の剣術大会について思考を巡らせていた。


いよいよ明日は剣術大会ね...もしソフィアが優勝したら、その後に邪神教の襲撃があるはずだわ...


そう。ゲームだと剣術大会で優勝すれば、邪神教と呼ばれる邪悪な勢力からの襲撃され戦闘が始まる。


しかし、この戦闘はかなり難易度が高く、何度も死んだプレイヤーが殆どだ。


ゲームなら「Continue」があるけど、現実だと......


そこで、私はゲームオーバーになった後の映像を思い出す。


倒れたソフィアから流れる大量の赤い血。

それがバケツの中をひっくり返したかのように、凄い勢いで床へと広がっていく。


「予言の通り。我が神の器にふさわしい」、そう言いながら敵の一人が近づき、ソフィアに魔力を流し始める。


すると、巨大な邪神が現れる。


そこからは会場の人達の悲痛な叫び声とともに、真っ暗な画面へと移り変わってゲームオーバーだ。


私はただそこに座り、目の前のモニターに映し出された光景に凍りついたのを憶えている。


恋愛ゲームって一体なんなのよ...


で、でも大丈夫。私が大会で優勝すれば、きっと邪神教の奴らは私を器として襲うはずよ。


優勝した瞬間にわざわざソフィアを襲ったのは、ソフィア自身が器だったからじゃなくて、恐らくこの大会で優勝した者が器だったからね。


そうなったら、私が返り討ちにすればいいのよ!!


私は自分にそう言い聞かせ、ベッドへと潜り込む。


しかし、ゲームで見た映像が何度も蘇り、なかなか寝付けなかった。


うぅ...ダ、ダメだわ。誰かに相談しないと。


そこで、私はネグリジェのまま、レイの部屋を訪ねた。


「レイ、起きてる?」


私はそーっとノックをする。すると、扉が開き、真っ暗な廊下に光が刺した。


「どうかされましたか? お嬢様」


レイはいつも纏めている長い髪をおろし、今まさに寝ようとしていた様子だった。


「どうぞ中へお入り下さい」


不安そうな私を見て察したのか、レイは優しくそう言って、温かいミルクを出してくれた。


そして、私はゲームについては伏せ、明日起こる出来事を全て話した。


「承知致しました。しかしお嬢様、どのようにして邪神教の襲撃にお気づきになったのですか?」


「ああ...あっアレよ! あのー、予知魔法をやってみたら見えたのよ〜」


「予知魔法でございますか...そうだったのですね」


「そ、そうなのよ〜」


い、いや。本当はそんな魔法、高度過ぎて出来ないけどね。


その後、明日の襲撃に対する対策をレイとしばらく話し合った。


「ふぁ〜。ありがとうレイ。お陰で不安も小さくなって眠れそうだわ」


「一緒に眠りますか? お嬢様」


「いや、部屋に戻って眠るわ」


「しかし、お嬢様の苦手な雷が今から落ちますよ?」


「何言ってるのよレイ。雨なんか降ってないわよ」


私はそう言って部屋の扉を開けた、すると、雨の降る音が鳴り始め、廊下の窓から大雨が見えた。


「え、まさか」


すると、ピカッと稲光が走った後、すぐに大きな雷が落ちた。


「ヒィィッ!! レイ、やっぱり一緒に寝るわ!!」


「そう仰ると思い、既に枕も用意してあります」


「ていうか、雷が落ちるってよくわかったわね。もしかして、レイも予知魔法ができるの!?」


すると、レイが無言で微笑んだ。


いや何よその含みのある微笑みはッ!!

なんでちょっと予知魔法できる感じ出してるのよ!!

あの魔法は高度過ぎて絶対無理だから!!


「冗談でございますお嬢様。予知魔法など私できません」


「わ、わかってるわよ...」


すると、稲光が部屋全体を光らせた。


「ヒィッ! レ、レイ。早く眠るわよ!!」


私はレイの背中を押し、一緒にのベッドに入る。


そして、毛布を頭から被り、レイに護ってもらいながら眠ったのであった。

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