第51話

剣術大会当日の朝。


フリートフォレス学園の伝統である剣術大会を一目見ようと、学園内は沢山の人で溢れかえっていた。


色々な出店が立ち並び、至る所から料理のいい香りがする。


そんな賑わいとは裏腹に、私の心は邪神教のことでいっぱいだった。


「あちらにリリー様の大好きなクッキーのお店がありますわ!」


「あっちには綺麗なマカロンが売ってますよ!」


「ええ。そうね...」


ジェシカとアシュリーが嬉しそうに話しかけてくるが、その内容が上手く頭に入ってこなかった。


すると、二人の顔色がとてつもなく悪くなる。


「リ、リリー様が食べ物に興味を示さないだなんて一大事ですわッ!!」


「リリー様!? そんなああああ。一体何があったんですか!? 朝ごはんを食べれなかったんですか!? それとも昨日のおやつが少なかったんですか!?」


アシュリーが私の両肩を掴み、涙を浮かべながら勢いよく前後に揺らす。


しかし、私はそんな状況でも、昨日レイと話した事を考えていた。


レイが観客を守ってくれるから、私は戦いに集中して...


あぁ...ソフィアや観客の人達にもしもの事があったらどうしよう...


私の思考は良くない方へとどんどん落ちてゆく。


その時、甘い香りが鼻腔をくすぐり、私の暗い思考を断ち切った。


「いい匂い...」


「あっ! リリー様の目に生気が戻りましたわ」


思考の波から抜け出すと、地面に両膝をついて私の腰に抱きつき涙を流すアシュリーと、出店で買ってきたであろうケーキを私に差し出すジェシカがいた。


「ジェシカ、これは...?」


「リリー様、とても難しいお顔をされていましたわ。で、ですので、疲れた時は甘い物をと思い、ケーキきを買ってきましたわ」


「ありがとう。私は大丈夫だから安心して。ケーキは頂くわ」


言えない...私が邪神教と戦うなんて言ったら、きっと二人は凄く心配しちゃうわ...


ゴーン。 ゴーン。


その時、剣術大会がもうすぐ始まる合図の鐘が、学園内に響き渡った。

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