第18話

私とミリーは、レイと一緒に屋敷の庭園を散歩していた。


「あ、このお花すごく綺麗ね」


そこで私は、左手で輪っかを作ってそのお花をのぞき込む。


えーっと、これで目に魔力を集めてっと。


「カシャ」


「お姉様、何をされているのですか?」


「ああ、これ? これは写真魔法よ。最近開発したんだけど、自分の見た景色を魔力に保存して、それを別の物に写せるのよ」


そこで私はハンカチを取り出して、そのハンカチに手の平をかざして魔力を流す。


すると、先ほど私が見ていた綺麗な花がハンカチに写し出された。


「わあーすごいですお姉様!!」

「流石ですお嬢様、まるで精巧な絵画ですね」

「この魔法はミリーとレイにとっては簡単よ、教えてあげるわ」


そして二人は難なく写真魔法を習得した。


「お嬢様、これは撮る時に必ず『カシャ』と口に出すのですか?」


「そうよ、別に言わなくても撮れるけど、雰囲気よ! 雰囲気!!」


「承知いたしました」


すると、ミリーが質問してきた。


「お姉様、これは何にでも景色を写せるのですか? 例えば大きい枕とか」


「え? ええ、大抵の物には写せるわよ」


「へーそうなのですね。あっお姉様!! ちょっとお姉様の写真撮ってもいいですか?」


「ええ、もちろんいいわよ。じゃあ、一緒に撮りましょうね」


「あ、お姉様一人の写真が撮りたいです!!」


「そ、そうなの?」


ミリーはそう言うと、私を左手の輪っか越しに見つめてきた。


何故かレイもしれっとそれに参加した。


「じゃあお姉様、まず両手を上げて下さい」


「え、両手を? こ、こうかしら?」


「はい!! そして手首と手首をくっつけて下さい」


「こ、こう?」


「そして、顔は少し左下を見ながら、目線だけはこっちに向けてください」


「こ、こうかな?」


「はい!! そこで少し恥ずかしそうな顔をしてください!!」


「え? 恥ずかしそうな顔? こ、こう?」


その瞬間――


「「カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ」」


「な、なんでそんなに撮ってるの!?」


「これは抱きまく――らぁじゃなくて、えっと、写真魔法の練習です!!」


「そ、そうなの? それだったらもっと綺麗な景色の写真を撮りなさいよ」


私がそう言うと、下からレイが私のスカートをそっとつまんで持ち上げようとした。


「ちょっと何やってるのよレイ!!」


「お嬢様が綺麗な景色の写真を撮りなさいと仰ったので」


「あ、あなたねぇ...」





それから数日後。


私はレイと屋敷の廊下を歩いていた。


ちなみに、レイにはあれ以来写真魔法の使用を禁止している。


うーん、なんだかここ数日すごく視線を感じるのよねぇー。


一体なんなのかしら...


「ねぇレイ、ここ最近視線を感じない?」


「羨ましいです」


いやどういうことよ!! 会話が成立してないわよ!!


「レイ、たまに私は、あなたが何を言っているか分からない時があるわ...」





そして次の日、私はお母様の部屋の前に一人で来ていた。


お母様に呼ばれてきたけど、何の用だろう?


「失礼しますお母様、何かご用でしょうか?」


「あ、いらっしゃいリリーちゃん!! あのね、リリーちゃんがずっと食べたいって言っていたお店のケーキが手に入ったのよ!!」


そう言ってお母様は、色々な種類のケーキが入った箱を渡してくれた。


「本当ですか!? あ、これです!! わぁ美味しそうです!!」


「ミリーちゃんの分も入ってるから、一緒に食べてね。私はこの後お茶会があるから、二人で仲良く食べるのよ」


「はい!! ありがとうございます!!」


私はお母様の部屋を出ると、ケーキを届けるためにミリーの部屋へと向かった。


ふんふんふーん♪ ケーキ楽しみだなぁ~。ミリーもきっと喜ぶわね!!


あれ? そういえば、私からミリーの部屋に行くのってかなり久しぶりね。いつもはミリーの方から来てくれるから、なかなか行ったことがなかったわ。


そして、私はミリーの部屋の前に到着した。


コンコン。


「ミリー、一緒にケーキを食べましょう」


「お、お姉様!?」


その時、部屋の中からどんがらがっしゃんという音が聞こえた。


「ちょっとミリー!? 何があったの!? 大丈夫!?」


「あ、お姉様ちょっとまっ――」


私が部屋のドアを開くと、倒れた脚立と共に、ミリーがドアの前に走ってきた。


「ちょっとミリー、大丈夫!?」


「だ、大丈夫ですお姉様!!」


ミリー越しに見える部屋の中には、薄くて平らな紙片が壁中に貼られていた。


ん? あれは写真魔法で何かを写した紙かな? うーん、でもミリーが魔法で黒いモヤを掛けててなんの写真かわからないわ。


天井にもびっしりと貼ってあるわね。


「お、お姉様何かご用ですか?」


「あ、そうだ! 有名なお店のケーキをお母様に頂いたから、一緒に食べましょう」


その時、天井に貼られていた一枚の紙片が、ひらひらと私の前に落ちた。


私はその落ちた紙を拾い上げた。


「何か落ちたわよって、ん? これって私の写真?」


「あ、えっと、その、うーんっと」


「あ、これ昨日私が晩御飯食べてる時ね、ミリーったらいつの間に撮ったの?」


「そ、それは、お姉様があまりに幸せそうに食べていてかわいかっ――じゃなくて!! そ、その料理に興味があって写真を撮ったのです!!」


「も、もしかしてミリーは料理に興味があるの!?」


そこで私は、ミリーが作った暗黒物質(パン)を思い出す。


こ、これはまずいわ...


「料理をするのはいいけど、次は必ずお姉様と料理長を呼んでね!?」


「は、はい...」


その日から何故か、視線を感じる回数がかなり減った。



















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