第19話

私が前世の記憶を思い出してから五年が経って、私は九歳になった。


そして私は今、アシュリーと一緒に、とある公爵令嬢の誕生日パーティーに来ていた。


「アシュリー!! この料理すごく美味しいわよ!!」


「はい、とっても美味しそうですね! あ、リリー様、お口にソースが付いてますわ」


アシュリーはそう言ってハンカチを取り出し、私の口元を拭いてくれた。


その時、この誕生日パーティーの主役から声が掛かる。


「ちょっとあなた!! 仮にもワタクシと同じ公爵令嬢でしょ!! もっと人の目を気にしなさい!!」


そこには、縦ロールに巻かれた赤い髪に、高貴な扇で口元を隠した一人の令嬢が立っていた。


ジェシカ・メリストン。


宰相の息子ルートで、ヒロインちゃんの恋のライバルになるキャラクターだ。


かなり厳しい家庭で育っており、貴族としての振る舞いが完璧な令嬢だ。


誰にでも厳しい口調だが、相手を成長させるために敢えて厳しいことを言う、実はとってもいい子だ。


うわー!! 本物のジェシカだ!! ゲームではヒロインちゃんを成長させる良きライバル令嬢なのよねぇ。


ゲームしてた時は、ヒロインちゃんは攻略対象なんかよりも、ジェシカとくっ付いてほしい!! と思っていたわ。


私がそんなことを考えていると――


「ちょっと聞いてますの!? あなたそんなんだと、他の貴族に舐められますわ。まったく、一から食事のマナーをやり直した方がいいですわ」


ジェシカは腰に両手を置いてそう言う。


そこで、私は心の声を聞く魔法、心眼を発動する。


すると――


(貴族は下に見られてはおしまい、いつ野心を持った輩に取り入れられるか、分からないですわ。隙を見せてはダメですのに...リリー様のこの先心配ですわ...)


うん。やっぱりジェシカはいい子だわ。


でも、いつも厳しい環境で、自分を追い詰めるほど努力をして、完璧な令嬢になっているキャラだったはず。


そんなジェシカは十二歳の時に、宰相の息子にあるセリフを言われて、彼のことが気になるようになる。


私は顎に手を当て、少し視線を落として考える。


確かそのセリフは――


「ジェシカ様、あなたの努力は本当に素晴らしいものです。でも、一人の女の子としての幸せを、見失わないでほしい。それが私の願いです。だったかな?」


私は思い出したセリフを、独り言のように呟いた。


すると――


「な、なななな、何を仰ってるんですの!?」


私が視線を上げると、そこには顔を真っ赤にしたジェシカがいた。


も、もしかして聞こえちゃってた!?


「だ、大体そういうことは、 め、目を見て言うものであって!!」


そこでジェシカは、顔を真っ赤にして、汽車のように頭から蒸気を出した。


バサッ!!


「あ、扇で顔隠した」


そして、扇の向こうから声が聞こえる。


「あ、あなたの言動、全く意味が分からないですわ!! も、もうワタクシはぷんぷんですわ!!」


そう言ってジェシカは、私たちの前から、駆け足で去っていった。


「お、怒らせちゃったかな...」


すると、それを隣で見ていたアシュリーが、私の袖を引っ張って声をかけてきた。


「リリー様があんなロマンチックなセリフを言うなんて思いませんでしたわ。ちなみに、ち、な、み、に!! 私も最近、令嬢としての振る舞いを頑張っています!!」


何故かアシュリーは、期待の眼差しで私を見つめてきた。

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