第13話

私たちは屋敷の敷地内にある訓練場にいた。


訓練場の地面は砂でできていて、人が数千人は入れる広さだ。


「魔法のみでの勝負で、降参を宣言した時点で負けだ、それでいいな?」


「はい」


「ふっ、オレは王宮でも魔法の天才と呼ばれているんだ。そんなオレを相手にして――」


私はレオ王子の話を無視して、チラッと観戦席にいるミリーたちを見る。


や、やばばばば!? ミリーの魔力がすごい膨れ上がってるわ...


なんとか説得して訓練場まで来てもらったはいいけど、もし私が負けたらレオ王子がどうなるか分からないわね...


王子の護衛の騎士さんも物凄く不安そうな顔をしてるよ...


「――というわけでお前はオレには勝てない。よし、じゃあはじめるぞ」


「あ、は、はい」


レオ王子がそう言うと、両手を前に突き出して魔力を練りだした。


え、魔法イメージするの遅くない!? めちゃくちゃ隙だらけなんですけど!?


その光景を観戦席から見ていたミリーは、レオ王子を見る目が怒りの目から、すごく冷たい目に変わっていた。


最近は優秀なミリーに魔法を教えてるから分からなかったけど、普通の子供ってこれくらいなのかな?


「くらえ!! ファイアーボールッ!!」


そう言うと、彼の手の平からテニスボールサイズの火の玉が私目掛けて飛んできた。


「ほいっ!」


私は片手で虫を払うように火の玉をかき消す。


「な、なにいッ!?」


リリーの魔法がどれだけチートか、同年代の魔法を見てなんとなくわかったわ。


「じゃあ次は私の番ね!!」


私は右手を掲げて手の平を空へ向ける。


レオ王子には悪いけど、圧倒的な力を見せて二度と婚約を申し込めないようにするわ。


「ファイアーボール」


私がそう唱えると、私の手の平の上に直径二十メートルはある炎の玉が出来上がった。


辺りの温度が急激に高まり、色とりどりの髪色と瞳を持つ者たちのその色が、全て赤色に染まった。


あまりの光の強さに中心部は直視できない。


「はあああああああああっ!?」


レオ王子は驚きのあまり絶叫した。


そして、尻もちをついたレオ王子が言う。


「おいお前!! これのどこがファイアーボールなんだよッ!! どう見ても太陽じゃねぇか!!」


「いえ、これはファイアーボールです。さぁ、どうしますかレオ殿下?」


「こ、降参だ!! こんなのバカげてる!!」


「わかりました」


私はそこで手の平の太陽をかき消す。


「では、これで婚約の話はなかったことに――」


「まだだ!! 次は剣術で勝負しろ!!」


いやしつこいな!! なんで今の見てまだやる気あるのよ!!


私は面倒くさいという感情を露骨に表情に出した。





それから暫くして。


私とレオ王子は剣を持って対峙していた。


「使っていい魔法は身体強化のみだ。さっきはどうやったか知らないが、あんなインチキ魔法はもう使えないぞ」


誰がインチキ魔法よ!! まったく...めんどくさいから早めに終わらせよう...


「ではいくぞ!!」


レオ王子がそう言って剣を構えて走り出そうとしたその瞬間――


「レオ殿下、もう終わりです」


私は身体強化で移動し、レオ王子の背後に回って剣を突き付けていた。


恐らく、今の動きが見えていたのはこの場でミリーとレイだけだろう。


すると、レオ王子が口を開く。


「おいお前!! ズルしただろ!!」

「ズル? なんのことでしょうか?」

「どうやったかは知らんが、透明化の魔法を使っただろ!! お前の姿がみえなかったぞ!!」

「私は身体強化で走っただけです」

「嘘をつくな!!」


そう言うとレオ王子は私に魔法をかけた。


「これは?」


少し歩くと、私の足跡が黒色ではっきりと残っていた。


「その魔法でお前が透明化しても、足跡が見えるようにした。さぁ、これでもうズルはできないな? もう一度勝負だッ!!」


どんだけ負けを認めたくないのよこの王子ッ!!

わかったわ、こうなったら徹底的にやってあげるわよ!!


「さぁ、どこからでもかかってこい!!」


レオ王子がそう言った瞬間、彼の前から私は姿を消す。


「な、なんだよこれ...!!」


次の瞬間、瞬く間に訓練場の地面が真っ黒に染まっていく。


そして一瞬にして訓練場一面が真っ黒になった。


「お、おい、これって、あいつが本当に目に見えないスピードで動いてるってことか...?」


「その通りですよ」


その瞬間、レオ王子の肩に黒い足跡がつく。


「ひぃっ!?」


王子は涙目で肩を震わせた。


「わ、わかった。降参だ!! オレの負けだ!! お前には勝てっこない!!」


ふふ、やっと諦めてくれたようね。


「これで婚約の話はなしですね」


私は訓練場を魔法で綺麗にしながら王子の前に現れる。


「チッ、そうなるな」


すると、観戦席にいたミリーがやってきて、物凄い勢いで私に抱き着いた。


「流石お姉様です!! かっこよかったです!!」


「ありがとうミリー」


こうして私はレオ王子との婚約をなんとか回避したのだった。





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