第61話

学園から帰った屋敷で、私は頭を抱えていた。


「えーっと。ソフィアの誕生日には大きな花束と、金のブレスレットと、高価なドレスと、あとその辺の土地と、えーっとえーっと...」


「お嬢様」


「何よレイ? 今ソフィアへのプレゼントを考えてて忙しいの!!」


「そのことなのですが。ソフィア様は平民出身でいらっしゃいますよね? それでしたら、あまり高価すぎるプレゼントでは逆に困ってしまうのではありませんか?」


「た、確かに...」


「お嬢様から頂いたものであれば、ソフィア様はなんであれきっとお喜びになると思いますよ」


「そうかな?」


「はい」


そっか。私はソフィアの気持ちを考えずになんて勝手なことを...


「ですのでお嬢様。私の誕生日には是非お嬢様のパンティーを――」


「レイ教えてくれてありがとう!! でも一体何を渡せば...」


レイの助言を受けて、私はしばらく考え込む。


「お嬢様。考えすぎると美しいお顔にシワが寄りますよ」


「う、うるさいわね!!」


レイが温かい紅茶を出してくれたので、私はそっとカップを手に取る。


「お嬢様。ソフィア様のお家について、わかったことをお伝えしてもよろしいでしょうか?」


「流石レイ! もう聞いてきてくれたのね」


勢いでソフィアの家に行くと言ったものの、実は住所なんて全く知らなかった私。そこで、レイに調べてもらうことにしたのだ。


ゲームの中で、ソフィア自身についてはほぼ語られないのよねー。


住んでる場所すらわからなかったわ。


誕生日の日付だって、ファンブックに載っていた数少ない情報のひとつだし...


「それでソフィアはどこに住んでるの?」


「ソフィア様は孤児院で暮らしていらっしゃいます」


「こ、孤児院!?」


孤児院に住んでいるなんて初耳だわ...


あれ? でも特待生のソフィアには、一人で暮らしていけるだけの支援金が毎月送られるはず...


「そのことなのですが。ソフィア様は少しでも孤児院にお金を入れるために、今も孤児院に住んでいらっしゃるようです」


「そうなのね...」


私が答えると、レイが小さくうなずいた。


「――ってなにナチュラルに人の心と会話してるのよ!!」


「そう仰ると思い、既に反省しておきました」


「反省ってなによ......レイ。あなたほんと何もわかってないわね......」


お辞儀をしたレイがゆっくりと頭をあげる。


「あ、それとお嬢様」


「なによ?」


「どうやら孤児院では、ソフィア様の誕生日は祝っていないようです」


「え、そうなの!? も、もしかして私のソフィアがいじめを受けてるの!?」


「私の??」


「あ、いや、なんでもないのよ!!」


私は慌てて取り繕う。


「左様ですか。いじめなどはないようです。以前ソフィア様をみんなで祝おうとした際、ソフィア様が泣いて孤児院を飛び出して行ったことが原因のようです」


「え? 嬉し泣きってこと??」


「お嬢様、違うと思います」


レイは淡々とした口調で続ける。


「もしかしたら、誕生日にいい思い出がないのかもしれません」


え、マジ!? レイの“もしかしたら”はほとんど当たるのよね......


私、もしかしてソフィアの触れちゃいけないことに触れちゃった!?


明日ソフィアの誕生日なんですけど!?

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