第55話

私はソフィアとの激闘(?)の末、なんとか剣術大会に優勝することができた。


あ、危なかったわ。ソフィアのあまりの可愛さに、試合に負けちゃうところだった。


でも、これで私が邪神とやらの器になったはず...


「流石リリー様です。私なんかじゃ手も足も出ませんでした」


試合が終わってソフィアが歩み寄ってきた。


「そんなことないわ。私もあと一発食らっていたら負けだったもの」


「もぉ~。私気付いていましたよ! リリー様、所々手加減していましたよね」


ソフィアはほっぺを膨らませて、少し不貞腐れる。


へ? 私手加減なんてしてないわよ!?


てか、ほっぺをふくらませてるソフィア可愛い...


「つ、次はリリー様を本気にさせてみせますよ!」


ソフィアはそう言って審判と一緒に舞台を降りて行った。


舞台上には私一人だけとなった。


私は盛り上がっている観客たちに手を振る、すると更に観客たちは歓声を上げた。


邪神教が狙ってくるなら私一人のこのタイミングよね。


その時、会場全体を黒い霧が一瞬で包み込んだ。


来たわね。


霧が消えると、私の眼前には黒いローブにフードを被った者たちが四人、不気味な雰囲気をまとって立っていた。


私は冷静に周りを見渡す。


四角い金色の巨大な結界が舞台を覆いつくしていた。


中から外の景色が見えないわね...なるほど、ゲームで邪神教との戦いに教師や護衛の騎士が助けに来なかったのは、この結界のせいね。


すると、四人の中の一人が前に出てきて、低い声で話しかけてきた。


「クックック。喜べ、貴様は我が神の器に選ばれた」


「私は邪神の生贄になるつもりなんてないわ」


「ふっ。貴様に選択肢などない」


ピピッ。ピピッ。


その時、レイから通信魔法が届く。


『お嬢様、結界の影響で長くは話せないので、手短にお伝え致します。他の邪神教の動きはなく、観客たちは無事です。外からは教師や騎士たちが結界の解除を試みていますが、かなりの時間が掛かると思われます。そちらの様子は外からだと伺えませんので、存分に暴れても構わないかと。引き続き私は観客の護衛をしておきます』


レイの声が途切れ、通信が切れた。


良かった、観客の人達は無事のようね。


外の人達を人質に取られたら大変だから、この結界は逆にありがたいわね。


すると、相手の前に出た男が話しかけてきた。


「クックック。伝説の魔道具に何年もかけて魔力を送り込んで作った結界を張った。たとえドラゴンだって破ることはできない。さぁ、もう助けは来ないぞ? 大人しく我が神の器に――」


「お姉様ああああああああああああああああ!!」


その時、伝説の魔道具によって作られた結界が、一人の少女のドロップキックによって破られた。


高さ十メートルほど上にある結界に空いた穴から降ってきたのは、私のよく知っている妹。そう、ミリーだった。


ミリーが舞台に降りてくると、黒いローブの男たちは驚きの声を上げた。


「そ、そんなまさか!? この結界が身体強化したただの蹴りに破られただと!? そ、それになんだあの禍々しいドス黒い魔力はッ...! 邪神様はもう既に目覚めておられたのか!?」


「大体の状況はお母様とお父様にききました。お姉様が閉じ込められたって...ミリーはそれを聞いて急いできました。あと、ミリーはその邪神とやらじゃないです」


あ、そういえばミリーは花火魔法を打って、強制退場させられてたわね。


喜びを表してくれるのは嬉しいけど、ルールはルールだからね。


すると、ミリーがゆっくりと邪神教の男たちに向かって歩き出した。


「あっ、ダメよミリー!! その人達は危ない人達だから近づいちゃダメ!!」


「危ない人達...ですか?」


すると、ミリーの魔力が更に膨れ上がる。


「あなた達、お姉様になにをしようとしたのですか?」


「な!? これ以上魔力が増えるだと!? こ、こんなんの、邪神様ですら...」


邪神教の一人が震えた声で呟く。


「う、うるさい! 我が神がこんな小娘に劣っているはずがなかろう!!」


「し、しかし、あ、あれはどうみても異常です!!」


「ええい!! 黙れ!! 我々はあの剣術大会で優勝した器を殺して、我が神を復活させ、この世界を浄化するのだ――」


その瞬間、ミリーの魔法によって男が吹っ飛ばされた。


「今、誰を殺すって言いましたか?」


ミリーの目には光がない。周りはドス黒い魔力が波を打ち、際限のない広がりを見せている。


飛ばされた男は結界に背中を強打し、白目を剥いて気絶していた。


無事な骨があるかどうかも怪しい衝撃を受けただろう。


や、ヤバい! ミリーを止めないと! 妹に人を傷つけるようなことはさせたくないわ。


「ミリー! お姉様は大丈夫だから、あとはお姉様に任せて!!」


「ごめんなさいお姉様。これはミリーのわがままですが、この人達はミリーがやっつけないと気が済みません」


それからは一瞬だった、絶望する邪神教の信者たちをミリーが魔法でボコボコにした。


全員が白目を剥いて気絶した後、ミリーは満足したのか、笑顔で私の所に駆け寄り抱き着いてきた。


「お姉様! 大丈夫でしたか?」


私はミリーの頭を優しく撫でる。


「ええ。お姉様は大丈夫よ、助けてくれてありがとう、ミリー。ただ、今みたいな危ないことは、今度からしちゃダメよ?」


「は、はい。わかりました...」


ミリーはしょんぼりとした表情を浮かべた。


「大丈夫かリリー!! ってなんじゃこの状況は...ん? 隣にいるのはミリー・リステンドか?」


すると、ミリーが破った穴からキロ先生達が入ってきた。


「どうやら襲撃にあったようじゃが...お主ら姉妹を襲うだなんて、なんだか襲った方が哀れじゃな...」


こうして邪神教襲撃のイベントは、無事犠牲者ゼロで終わりを迎えたのであった。

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