第8話
レイが私の侍女になった次の日。
今日からレイが身の回りのお世話をしてくれる。
そして私は今、自室でレイに勉強を見てもらっていた。
「貴族の勉強って大変ねー」
「はい、貴族として生き残るうえで大切なことですから」
その時、グゥ~という私のお腹の音が鳴った。
は、恥ずかしい!! 朝から暫く勉強してたから、お腹が減っちゃった。
「こ、小腹が空いたわね。お菓子でも食べたいわ」
「そう仰ると思い、すでにお茶とお菓子を作ってこの時間に運ばせるように言っておきました」
「え?」
その瞬間、部屋のドアがノックされ、メイドがお茶とお菓子を持ってきた。
え、心でも読んでる!? なんで私がこの時間にお腹が空くってわかったのよ!?
てかあなたお菓子を頼む時間なんてあった!? 朝からずっと私といたよね!?
「あ、あはは...レイは気が利くのね」
「ありがとうございます。しかし、これくらいお嬢様の侍女として当然かと」
「そ、そうかなー...?」
そしてお菓子を食べ、勉強も終わった頃。
「うーん、今日は図書室に行って恋愛小説でも借りて読もうかしら」
「そう仰ると思い――」
「うそでしょ!?」
ま、まさかね!?
「――既におすすめの恋愛小説を何冊か借りておきました」
だからなんでわかるのよ!!
うわー、でもこれ私の好みピッタリの小説だー、めちゃくちゃおもしろそー。じゃなくてッ!! ちょっと優秀にも程があるくない!?
「す、すごいわ、これ全部すごく面白そうね。 でも、よく私の好みがわかったわね」
「これくらい侍女として当然かと」
当然じゃないわよ!! 明らかに異常よ!!
でも、本人はこれが当たり前って雰囲気だし...普通に結構助かるし...てか正直ありがたい。
そしてその後も、レイの優秀さに何度も驚かされながら、それなりに有意義な時間を過ごした。
夕食を済ませて食堂から自室に戻る時、後ろに付いてくれてるレイについてふと考える。
レイ・フィート。ラスボスリリーの直前に戦う敵キャラだ。その強さから、レイに心を折られてクリアを諦めたプレイヤーも多い。
そんなレイの最期は、リリーがヒロインちゃん達に敗れた後、レイはそのボロボロの身体を引きずって、亡骸となったリリーのもとへ向かうと、リリーに寄り添うようにしてその生涯を終えるのだ。
ゲームでもレイは、リリーにどんなにひどいことを言われてもリリーの傍を離れなかった。
どうしてこんな完璧なメイドが、最悪な性格のリリーに仕えてたんだろう...
「ねぇレイ、あなたはどうしてそこまで私に尽くしてくれるの?」
「それは私がお嬢様の侍女だからでございます」
「そう、でもあなたは以前から私、リリー・リステンドのもとで働きたいと希望していたそうね、お父様から聞いたわ」
「......」
「だからね、あなたの本心が聞きたいわ、どうして私にこだわるの?」
きっと、壮大な理由があるに違いない。
するとレイは、私の目を真っ直ぐ見てきた。
そして、真剣な面持ちで答えた。
「お嬢様の顔がドタイプでございます」
「へ?」
え、ちょ、どういうこと!? わわわ私の顔がタイプ!?
レイは小首を傾げると、更に大きな声で言う。
「お嬢様の顔がドタイプでございますッ!!!!」
「き、聞こえてるから!! お、大きい声で言わないで!! 恥ずかしいから!!」
「かしこまりました」
「わ、私の顔がタイプなの!? いつから?」
「あの日は忘れもしません、私の前に天使が現れた日ですから。あれは私がまだ、王宮で侍女見習いとして働いていた時、お嬢様がリステンド公爵様と王宮を訪れた日のことです。そこで私は一目惚れをしました――」
それからは地獄だった。
小一時間ほど、本人を前にしてその愛を語られるという、新手の罰を受けた私は、恥ずかしさで顔から湯気が出そうだった。
その内容の大半が、私の肌をすべすべしたいだの、私の匂いで作った香水がほしいだの、お嬢様は国の宝として認めるべきだのだ。
更にここでは言えないような内容のものまであった。
正直まるで変態だった。
「――というわけで、私はお嬢様に仕えるため生れてきたようなものなのです」
彼女がやっと喋り終えると、私はすでに疲労困憊だった。
「そ、そうだったのね。レイの気持ちが聞けて嬉しかったわ」
「身に余るお言葉ありがとうございます」
「さ、もう夜中だし、早く部屋に戻って寝ましょう」
「かしこまりました」
「あ、その前にトイレに行きたいわ」
私がそう言うと、レイはスッと背筋を伸ばし、ポケットから勢いよく何かを取り出した。
「そう仰ると思い、すでにこちらビニール袋を用意しております!!」
「いや普通にトイレいくわよ!!」
この場でトイレなんかするかッ!!
なにちょっと項垂れて残念そうな雰囲気だしてるのよ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。