第53話

私の一回戦の相手がリナだなんて嘘でしょ!? あの娘ゲームでめちゃくちゃ苦戦した強キャラよ!?


「リリー様と剣を混じえること、光栄に思います。騎士団長の娘として、このリナ、全力で行かせて頂きます!」


いや、あの、全力はやめて!! ちょっとは手加減して!! この大会魔法禁止だから、私勝てるかわからないよ!?


「始めッ!!」


そんな私の思いを置いてくように、審判が容赦なく開始の合図を響かせる。


その瞬間、観客達の盛り上がりは最高潮に達した。


「いきますよ!!」


それと同時に、リナが剣を上に構えて走り出す。


はやッ...くない?


あれぇ? 全部の動きが捉えられるわ。


練習に付き合ってくれたレイの動きに比べたら全然速くない。


そこで、私は最近行っていたレイとの血の滲むような練習を思い出す。


「お嬢様、剣術とは殺し合いです」


「そ、そうなの? なんだか凄く物騒ね......」


「常に相手がどんな攻撃をしてくるのか予想する必要があります」


「なるほど」


「仕込み刀や毒矢に石の投げつけなど、如何なる攻撃にも対応しなくてはいけません」


「いや剣術はどこいったのよ!! それに学園の大会でそんな事したら一発で失格よ!! いや失格どころか逮捕よ!!」


「承知しました。では隙をついて目潰しです、目潰しをして下さいお嬢様」


そう言ってレイは二本の指を立てて、シュッシュッと前に突き出す。


「あなたに剣術を志願した私が間違っていたわ...」


「冗談ですよ、お嬢様」


「あなたの目、凄く真剣だったわよ......」


それからレイによる私の猛特訓が始まった。


「ちょっとレイ! なんで下からばかり狙ってくるのよ!!」


「これは足元を狙う相手への練習です。ふむ、花柄ですか。素晴らしいですね」


「何を言ってるのよッ!!」


私は横なぎを放ち、レイから距離を取る。


すると、訓練場の観客席から、ミリーの大きな声が聞こえた。


「お姉様あああ!! ここで練習していたのですね! ミリー応援しています!!」


「ちょっとミリーお嬢様、まだお勉強の途中ですよ!!」


そして、ミリーの後ろから遅れてメアリーがやって来るのが見えた。


「よそ見してはいけませんよ、お嬢様」


すると、レイが上段からの猛攻を仕掛けてきた。


「ちょっと、さっきまで下からばっかりだったのに、なんで今度は上からばっかりなのよ!!」


「これは私の身の安全のためです」


「さっきから何のことだかわからないわよ!!」


私はレイの攻撃を紙一重で受け止める、上からだけの攻撃に、私は一筋の隙を見つけた。


ラスボスリリー・リステンドの才能は素晴らしく。力や技術など習得に時間がかかりそうなものはまだレイに遠く及ばないが、隙を見つける力は凄まじい速度で身につけた。


「ここよ! もらったわ、レイ!!」


「!?」


その瞬間、レイの目が少しだけ見開いた。


これは決まるわ!!


すると、レイが地面を這いつくばるような動きに切り替えて、私の一撃をギリギリで避けた。


「うそっ!?」


そして、下からの振り上げで、私の剣を弾き飛ばした。


「っく。お嬢様の動きが素晴らしく、ついやってしまいました」


レイがボソっとそう呟く。


やってしまったって何のことかしら?


すると、観客席から凄まじい光と熱を放つ球体の魔法が、レイ目掛けて高速で向かってきた。


それをレイが剣に魔力を込めて一刀両断する。


二つに割れた魔法は後ろの壁にぶつかり、凄まじい轟音をとどろかせて爆発した。


「ちょっとレイ大丈夫!? あの魔法を打ってるのは...ミリー!?」


なんでミリーがレイに高火力の魔法打ってるのよ!!


そうしてる間にも次々と魔法が飛んでくる。


レイは私に被害が出ないように、私から離れつつそれを華麗に避けていく。


「ちょっとレイさん!! 何見ようとしているのですか!! 羨ましい――じゃなくて!! ミリーが許さないですよ!!」


「申し訳ございません、ミリー様。ただ、下に潜り込んだのは剣を避けるためでございます。ですので、私はお嬢様の花柄など見ていません」


その瞬間、魔法の数が倍増し、訓練場は大爆発した。


そう、それが私とレイの猛特訓の思い出......


あれ!? なんかロクな回想が出てこなかったわね!?


「なにボーっとしているんですか!!」


すると、目の前の相手、リナが剣を振りかぶる。


「はあああっ!!」


レイに比べると隙だらけ過ぎるわね。


私は彼女の攻撃を軽く避け、一撃を入れる。


パリン。


彼女の腕輪が発動して青いバリアが張られるが、私の一撃を受け止めた後に割れてすぐに霧散した。


「そ、そんな!?」


動揺している彼女に更に追撃をする。


パリン。


パリン。


決着はすぐについた。


「うそ...でしょ...? 騎士団長の娘である我がこんな簡単に敗れるなんて......」


守護の腕輪の防御魔法がなくなったリナが、両膝を付いて崩れ落ちる。


彼女は本来決勝に進めるはずだったのよね...


すると、彼女が私の顔をじーっと見ると、私の前にやってきて急に土下座をしだした。


え!? なんで!? なんで土下座!?!?


すると、彼女が腹から出てるであろう芯の通った声で言う。


「お願いしますリリー様、我を弟子にして下さい!!」


弟子!? なんで急に弟子になりたがってるのよ!?


「い、いや弟子とかは...」


「我は貴方の強さに惚れました、リリー様。いや、師匠!! これから我に剣技を是非教えて下さい!!」


「え、ま、まだ弟子にするとは......あと土下座はやめて! み、みんなが見てるから」


「わかりました師匠。ではまた今度じっくりお話しましょう」


いやなんでもう師匠呼びしてるのよ!! てか急に弟子だなんて無理よ!!


リナはそう言い残して、姿勢よく舞台を降りて行った。


一体なんなのよおおおおお!!

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