第5話

私が前世の記憶を思い出してから一年が経った。


さ、今日も魔法の練習をしようかしら。


私が部屋を出ると、廊下の向こうから妹のミリーが手を振りながら走ってきた。


「お姉様!! お姉様!! 今日もお姉様の魔法見せてください!!」


走ったままの勢いで私に抱き着くと、ギューッと私の身体に顔をうずくめる。


私と同じ金髪に赤い瞳だけど、目は私と違ってまん丸で大きくて超かわいいッ!!


ああ、癒されるわ~。


「いいわよ、じゃあ庭園へ一緒に行こうね。ほら、お手手出して」


「はい!!」


私はミリーと手を繋いで庭園へと向かって歩く。


ミリーは賢くて、三歳なのにもうある程度会話することができる。


「ほんと、ミリーは頭がいいわね。難しい言葉も沢山知ってるし」

「はい! お母様に沢山教えてもらいました!!」

「へーそれは良かったわね!!」

「はい!! 『恐縮』とか、『秀逸』とか、『文武両道』とか教えてもらいました!!」


めっちゃ賢いな!! え、三歳児ってこんなに賢かったっけ!?


「あと、『亭主関白』というのも教えてもらいました!!」


いやお母様なに教えてんだよ!! いつ使うんだよそれ!!


そうこうしているうちに、庭園に到着した。


リリーの魔法は一言でいえばチートだ。

チートもチート、大チートだ!!


なんと、魔力を使ってイメージさえすれば、魔法で大体のことはできてしまう。


流石ラスボスね!! いや、これラスボスで済ましていいレベル?


ま、いっか!!


「ミリーは早くお姉様の魔法が見たいです!!」

「うふふ、そんなに楽しみなのね」

「はい!!」


よしっ!! かわいい妹のために、ちょっと派手な魔法を使おう!!


私は水でできた大きな龍を魔法で作り出し、それを操ってミリーに見せてあげる。


舞った水しぶきと、庭園に咲く色とりどりの花も相まってとても綺麗だ。


ミリーはそれを目を輝かせながらみている。


うん、喜んでる喜んでる!!

そんなに私の魔法が好きなのね!! ほんとかわいいわ。


ちなみに、ミリーはまだ魔法が使えない。


子供には魔力の操作が難しく、普通の子は六歳ごろからしか使えないらしい。


リリーは天才肌なので、やってみたら簡単にできた。


いやできるんかい!!って思ったけど、リリーって魔法の才能は凄いあるのよねぇ...だから無理やり納得した。


リリーも凄いけど、実はミリーの魔力も凄いのよねー。

なんたってラスボスの私と同じくらいだもの!!


さすが私の妹ね!! 


一年の特訓をしたから今は私の方が魔力量は多いけど、特訓をしてないゲームのリリーだと、ミリーの魔力量に負けてたと思うわ。


でも、こんなに魔力があるなら、ゲームに登場してもおかしくないのに、ミリーはゲームには登場しないのよねぇ。 


学年が違うからかな? 


まぁ、そのうちわかるのかな?





それから数日が経ったある日。


ドンドンドンッ!! 


真夜中に響くノックによって私は目を覚ました。


「こんな夜中になにかしら?」


そして、扉の向こうから震えた叫び声が聞こえてきた。


「お嬢様大変です!! ミ、ミリー様が!! ミリー様が魔力暴走を起こしました!!」


「なんですって!?」


魔力暴走って、大量の魔力を持った子供が魔力を制御できずに、自分の魔力に体を蝕まれて死に至る、とても恐ろしい病気だとゲームで見た記憶があるわ。


ゲームだと終盤の方で治療法が見つかるけど、現時点では公爵家のお医者様ですら治療法を知らないはず...


治療法はたしか...魔力暴走を起こした人よりも魔力を持ってる人の回復魔法で治せる、だったはず!!


ミリーよりも魔力が多い人なんて多分私しかいない。


ま、まさかこんなことになるなんて、特訓していて本当によかったわ....


でも、もしこれが特訓をしていないゲームのリリーなら、魔力が足りなくてミリーの魔力暴走を治せなかったわ。


それに気付いた時、一瞬にして血の気が引いた。


も、もしかしてミリーがゲームに登場しない理由って......。


とにかくミリーのもとへ急がなきゃ!!


私は部屋を飛び出し、ミリーの部屋の前まで行くとドアを勢いよく開けた。


「ミリー!! 大丈夫!?」


「お、おねぇさま......」


ミリーはベッドの上で横になり、涙を溢れさせていた。


賢い妹のことだ、自分の暗い未来を察してしまったのかもしれない。


両親や使用人たちも悲しい顔をしている。


ミリーの辛そうな顔...とっても胸が痛むわ...すぐに治してあげなくちゃ。


私は急いでミリーの傍に駆け寄よる。


「ミリー大丈夫!?」

「く、くるしぃですお姉様......ミリー......まだ......死にたくないよぉ......」

「待っててミリー!! お姉様が必ずあなたを救ってみせるわ!!」

「え...?」


私はミリーの左手を両手で握って魔法を発動する。


「パーフェクトヒール」


その瞬間、温かな光がミリーを中心に広がり、部屋全体を包み込んだ。


暫くして光が収まると、ミリーは驚愕の表情を浮かべていた。


この様子だと魔力暴走は治ったようだ。


「どう? ミリー、苦しくない?」


するとミリーはダムが決壊したように泣き出し、私に抱き着いてきた。


「うぅ、とっても怖かったですお姉様ああああ!!」

「よしよしっ!! お姉様がずっと傍にいるから大丈夫よ」

「ほ...本当ですか...? ずっとずっと!! ミリーの傍にいてくれますか...?」

「えぇ、もちろんよ。私たちは姉妹なんだから!! だから私はミリーから離れたりしないわ」

「ミ、ミリーも!! 絶対!! 絶対!! お姉様は離しません!!」


そう言うと、ミリーは抱きしめる力をギュッと強くする。


「あらあらミリーは甘えん坊さんね」

「えへへ、お姉様大好きです!!」



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