第22話
ジェシカから手紙を貰って数日後。
私はジェシカからのお誘いを受け、ジェシカの屋敷に向かおうとしていた。
「お嬢様、馬車の用意はできております」
「流石レイね、ありがとう」
◎
私とレイは、屋敷の外に停めてある、馬車の前に来ていた。
「お嬢様、お気をつけ下さい」
「ありがとう、レイ」
私が馬車に乗り込もうとしたその時、ミリーの声が遠くから、急速に近づいてきた。
「お姉様ーーーーッ!!」
私は声の方向に振り返る。
「あらミリー、どうしたの?って。ん? あれは身体強化!? めちゃくちゃ速いんですけど!?」
そこには、物凄い勢いで迫ってくる妹がいた。
ヤバい、ヤバい!! こ、これは私も身体強化で受け止めなくっちゃ!!
「身体強化ッ!!」
「お姉様ーーッ!!」
「ぐはっ!!」
私はミリーを抱き止める。
しかし、ミリーの頭が腹部に強く当たり、思わず声を出してしまう。
同時に、ミリーの勢いに押されて、私は後ろへと移動していく。
「お嬢様ッ!?」
レイの声が聞こえるが、私はミリーの勢いを殺しきれず、元いた位置から二十メートルほど先で止まった。
「お姉様!!」
ミリーは私のお腹にぐりぐりと顔を押し付ける。
ちょ、お腹は!!今の頭突きで痛いからぐりぐりはやめて!!
「ミ、ミリー!!」
「あっ...」
私はミリーの両肩を掴んで、ガッと私から距離を取る。
すると、ミリーは少しだけ寂しそうな顔をした。
「ミリー、急にどうしたのよ?」
「お姉様がどこかへ出掛ける気がしたので、見送りにきました!」
「そ、そうだったのね。ありがとね、ミリー」
「お姉様。ちなみに、どちらへ行かれる予定だったのですか?」
「ジェシカ様のお屋敷よ」
その時、ミリーの瞳から光がスっと消えた。
「お姉様、ミリーも一緒に行きます」
「え? ミリーも一緒に行きたいの?」
「はい」
「で、でも、ジェシカ様が招待の手紙をくれたのは、私だけだし...いいのかしら...」
「はい、きっと大丈夫です」
その時、一人の少女の声が遠くから聞こえた。
「ミリーお嬢様〜!! 今はダンスのレッスン中ですぅ!! 抜け出さないでくださーい!!」
一人の少女が走ってきた。
三つ編みの茶色い髪を揺らしながら、目の縁に涙を溜めて、精一杯の大声でミリーを呼んでいる。
「あら、ミリーはダンスのレッスンを抜け出してきたの?」
「あ、いや…」
「はぁはぁ、やっと追いつきました。ミリーお嬢様」
膝に両手をついてはぁはぁと息を切らし、地面とにらめっこする彼女の名はメアリー。
ミリーの侍女だ。
あちゃー、ミリーは基本いい子なんだけど、たまにレッスンを抜け出したりするのよねぇ。
その度にメアリーが必死に追いかけてて、ちょっと可哀想だわ。
「ミリーお嬢様。さぁ、ダンスのレッスンに戻りますよ」
「ミ、ミリーはお姉様と一緒に、ジェシカ様の所に行くんです!!」
「いえ、今日という今日はダメです!!」
「ムゥ…身体強化ッ!!」
ミリーは身体強化を発動する。
あ、ミリーは逃げる気ね。
そこで、私も身体強化をして、ミリーを逃がさないために、素早くミリーを抱きしめる。
「ぐふっ、お、お姉様!?」
「ミリー、あまりメアリーに迷惑を掛けてはいけないわ」
私がそう言った瞬間、ミリーはしゅんとなった。
「う、うぅ…ごめんなさい」
もし、ミリーに犬の尻尾と耳が着いていたら、重力に従って、全て垂れ下がっていただろう。
「ジェシカ様には、次はミリーも連れて来てもいいか、聞いておくわ」
私がそう言うと、ミリーは勢いよく顔を上げた。
「いえ !! メアリーに迷惑をかけないように、すぐにレッスンを終わらせて、ミリーも後から絶対行きます!! お姉様のことが色々と心配なので!!」
「え? い、いやでも――」
「待っていて下さいお姉様!!」
「あ、ちょ、ミリー!!」
そう言ってミリーは、爆速で屋敷へと戻っていった。
「あ、待って下さい、ミリーお嬢様あああ!!」
メアリーもその後を、必死に追って行った。
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