第22話

ジェシカから手紙を貰って数日後。


私はジェシカからのお誘いを受け、ジェシカの屋敷に向かおうとしていた。


「お嬢様、馬車の用意はできております」

「流石レイね、ありがとう」





私とレイは、屋敷の外に停めてある、馬車の前に来ていた。


「お嬢様、お気をつけ下さい」

「ありがとう、レイ」


私が馬車に乗り込もうとしたその時、ミリーの声が遠くから、急速に近づいてきた。


「お姉様ーーーーッ!!」


私は声の方向に振り返る。


「あらミリー、どうしたの?って。ん? あれは身体強化!? めちゃくちゃ速いんですけど!?」


そこには、物凄い勢いで迫ってくる妹がいた。


ヤバい、ヤバい!! こ、これは私も身体強化で受け止めなくっちゃ!!


「身体強化ッ!!」


「お姉様ーーッ!!」


「ぐはっ!!」


私はミリーを抱き止める。


しかし、ミリーの頭が腹部に強く当たり、思わず声を出してしまう。


同時に、ミリーの勢いに押されて、私は後ろへと移動していく。


「お嬢様ッ!?」


レイの声が聞こえるが、私はミリーの勢いを殺しきれず、元いた位置から二十メートルほど先で止まった。


「お姉様!!」


ミリーは私のお腹にぐりぐりと顔を押し付ける。


ちょ、お腹は!!今の頭突きで痛いからぐりぐりはやめて!!


「ミ、ミリー!!」

「あっ...」 


私はミリーの両肩を掴んで、ガッと私から距離を取る。


すると、ミリーは少しだけ寂しそうな顔をした。


「ミリー、急にどうしたのよ?」


「お姉様がどこかへ出掛ける気がしたので、見送りにきました!」


「そ、そうだったのね。ありがとね、ミリー」


「お姉様。ちなみに、どちらへ行かれる予定だったのですか?」


「ジェシカ様のお屋敷よ」


その時、ミリーの瞳から光がスっと消えた。


「お姉様、ミリーも一緒に行きます」


「え? ミリーも一緒に行きたいの?」


「はい」


「で、でも、ジェシカ様が招待の手紙をくれたのは、私だけだし...いいのかしら...」


「はい、きっと大丈夫です」


その時、一人の少女の声が遠くから聞こえた。


「ミリーお嬢様〜!! 今はダンスのレッスン中ですぅ!! 抜け出さないでくださーい!!」


一人の少女が走ってきた。


三つ編みの茶色い髪を揺らしながら、目の縁に涙を溜めて、精一杯の大声でミリーを呼んでいる。


「あら、ミリーはダンスのレッスンを抜け出してきたの?」


「あ、いや…」


「はぁはぁ、やっと追いつきました。ミリーお嬢様」


膝に両手をついてはぁはぁと息を切らし、地面とにらめっこする彼女の名はメアリー。


ミリーの侍女だ。


あちゃー、ミリーは基本いい子なんだけど、たまにレッスンを抜け出したりするのよねぇ。

その度にメアリーが必死に追いかけてて、ちょっと可哀想だわ。


「ミリーお嬢様。さぁ、ダンスのレッスンに戻りますよ」


「ミ、ミリーはお姉様と一緒に、ジェシカ様の所に行くんです!!」


「いえ、今日という今日はダメです!!」


「ムゥ…身体強化ッ!!」


ミリーは身体強化を発動する。


あ、ミリーは逃げる気ね。


そこで、私も身体強化をして、ミリーを逃がさないために、素早くミリーを抱きしめる。


「ぐふっ、お、お姉様!?」


「ミリー、あまりメアリーに迷惑を掛けてはいけないわ」


私がそう言った瞬間、ミリーはしゅんとなった。


「う、うぅ…ごめんなさい」


もし、ミリーに犬の尻尾と耳が着いていたら、重力に従って、全て垂れ下がっていただろう。


「ジェシカ様には、次はミリーも連れて来てもいいか、聞いておくわ」


私がそう言うと、ミリーは勢いよく顔を上げた。


「いえ !! メアリーに迷惑をかけないように、すぐにレッスンを終わらせて、ミリーも後から絶対行きます!! お姉様のことが色々と心配なので!!」


「え? い、いやでも――」


「待っていて下さいお姉様!!」


「あ、ちょ、ミリー!!」


そう言ってミリーは、爆速で屋敷へと戻っていった。


「あ、待って下さい、ミリーお嬢様あああ!!」


メアリーもその後を、必死に追って行った。

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