第29話

私は屋敷の食堂で朝食を食べていた。


「んー!!このスクランブルエッグとっても美味しいわ!!」


私がそう言うと、それをじーっと見つめていたミリーが突然立ち上がり、テーブルに両手をついた。


「ミリーもお姉様にお料理を作ってあげたいです!!」


その瞬間、食堂全体がざわついた。


や、ヤバイヤバイ!! ミリーがお料理ですって!? か、確実に死人が出るわ...


ミリーは輝いた瞳で私を真っ直ぐ見つめてきた。





屋敷の厨房には、私、レイ、ミリー、料理長。そして、ミリーの侍女であるメアリーがいた。


「ほ、本当にやるのですか? ミリーお嬢様は私が侍女になる以前、パンを作り、それを食べたリリーお嬢様が倒れて屋敷中がパニックになったと伺っているのでが...」


すると、ミリーはメアリーの肩に手をそっと置く。


そして、慈愛に満ちた表情で語りかける。


「メアリー。人は大切な人の笑顔の為ならば、どんな試練だって乗り越えられるのです」


いやどちらかと言えば試練なの私だよね!?

確かにミリーにとって料理は試練かもしれないけど、食べる人の方がかなり試練だと思うよ!?


「そ、その通りですね...ミリーお嬢様、挑戦してみましょう!!」


いや食べるの私だからね!?


すると、料理長がある提案をしてきた。


「今回作る料理が三品なのですが、いきなり一人で三品作るのは大変なので、リリー様、ミリー様、レイさんで一品ずつ作るのはどうでしょうか?」


「あ、それいいですね!! ミリーはお姉様の作ったお料理も食べてみたいです!!」


た、確かに。それなら私もミリーの料理を一品食べるだけで済むわ。さすが料理長!!


「そうしましょう!!」


数分後。


「トマトを盛り付けてっと。完成!!」


私が最初に調理をし、トマトとチーズのサラダが完成した。


うん! これはなかなか良い出来だと思うわ!


「おお、流石ですリリー様!!」

「ありがとう! 料理長」


そして、次はレイの番だ。


レイと料理長が調理台に立ち、私たち三人はその反対側からその様子を見る。


「レイさんが作るのは、メインのステーキですね。じゃあまず、そこの野菜を切ります」


すると、レイが調理台の下から何かを取り出した。


「そして、全て切ったものがこちらです」


レイが切られた野菜の入ったボールを出す。


いやどっから出したのよ!! てかいつの間に用意したのよ!!


ほら、料理長もビックリしてるじゃない!!


「も、もう切っていたんですね。で、では、そこにあるお肉をじっくり焼きます」


「そして、じっくり焼いたものがこちらです」


すると、焼かれたお肉が出てきた。


いやいつ焼いたのよ!! 手際がいいってレベルじゃないわよ!!


「で、では、それらをしっかり盛り付けていきましょう」


「そして、盛り付けたものがこちらです」


あるなら最初っからできてるじゃないッ!!


で、でも、レイの作ったステーキ、凄く美味しそう...


「じゃあ、最後はミリーの番ですね!!」


そして、とうとうミリーの番がきた。


ミリーが作るのはスープだ。


「ミリー様には、わかりやすいように紙に書いたレシピもご用意いたしました」


「ありがとうございます料理長!! えーっと、じゃあ、まずは砂糖大さじ一杯ですね」


ミリーは砂糖大さじ一杯を計量スプーンで掬った。


あら、ちゃんと計量スプーン使えてるじゃない!!

よかったわ、ミリーはやっぱりやればできる子なのよ!!


すると、ミリーはそのスプーンを調理台に置いた。


ドサァ。


そして、何を思ったのか、持っていた砂糖の入った瓶の方をそのままひっくり返して、全部鍋に入れ出した。


いやそっちじゃないよ!!


「えーっと。次は塩とコショウですね」


ミリーは塩と胡椒が入った瓶をそのまま鍋に放り込む。


「次は強火で温めるですね。えーっと、強火ですから、『ファイアーボール』、きっとこれぐらいです」


ミリーが魔法を唱えると、手の平に炎の玉が浮かんだ。


あまりの熱さに、周りの大気が歪む。


いやいやいやいや!! 何ファイアーボールで温めようとしてるの!! それ最早攻撃だよ!?


「ちょっとミリー、ストップ!! ストップ!!」


「どうかされましたかお姉様?」


私に止められたミリーは炎を収める。


こ、ここで止めなければ、私はミリーの手料理で破滅する事になっていたわ...


辺りを見渡すと、料理長とメアリーはミリーの魔法に怯えていた。


私はミリーにそっと近づき、頭を優しく撫でる。


「ミリー、今日の所は一旦辞めましょう」


そう。私の命のために。


その後、私はミリーを説得して、なんとか今日の料理はなしになった。


そして、私のサラダを食べたミリーは、とても喜んでいた。


私もレイのステーキを食べ、美味しかったので大絶賛したら、レイもなんだか嬉しそうに見えた。




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