第29話
私は屋敷の食堂で朝食を食べていた。
「んー!!このスクランブルエッグとっても美味しいわ!!」
私がそう言うと、それをじーっと見つめていたミリーが突然立ち上がり、テーブルに両手をついた。
「ミリーもお姉様にお料理を作ってあげたいです!!」
その瞬間、食堂全体がざわついた。
や、ヤバイヤバイ!! ミリーがお料理ですって!? か、確実に死人が出るわ...
ミリーは輝いた瞳で私を真っ直ぐ見つめてきた。
◎
屋敷の厨房には、私、レイ、ミリー、料理長。そして、ミリーの侍女であるメアリーがいた。
「ほ、本当にやるのですか? ミリーお嬢様は私が侍女になる以前、パンを作り、それを食べたリリーお嬢様が倒れて屋敷中がパニックになったと伺っているのでが...」
すると、ミリーはメアリーの肩に手をそっと置く。
そして、慈愛に満ちた表情で語りかける。
「メアリー。人は大切な人の笑顔の為ならば、どんな試練だって乗り越えられるのです」
いやどちらかと言えば試練なの私だよね!?
確かにミリーにとって料理は試練かもしれないけど、食べる人の方がかなり試練だと思うよ!?
「そ、その通りですね...ミリーお嬢様、挑戦してみましょう!!」
いや食べるの私だからね!?
すると、料理長がある提案をしてきた。
「今回作る料理が三品なのですが、いきなり一人で三品作るのは大変なので、リリー様、ミリー様、レイさんで一品ずつ作るのはどうでしょうか?」
「あ、それいいですね!! ミリーはお姉様の作ったお料理も食べてみたいです!!」
た、確かに。それなら私もミリーの料理を一品食べるだけで済むわ。さすが料理長!!
「そうしましょう!!」
数分後。
「トマトを盛り付けてっと。完成!!」
私が最初に調理をし、トマトとチーズのサラダが完成した。
うん! これはなかなか良い出来だと思うわ!
「おお、流石ですリリー様!!」
「ありがとう! 料理長」
そして、次はレイの番だ。
レイと料理長が調理台に立ち、私たち三人はその反対側からその様子を見る。
「レイさんが作るのは、メインのステーキですね。じゃあまず、そこの野菜を切ります」
すると、レイが調理台の下から何かを取り出した。
「そして、全て切ったものがこちらです」
レイが切られた野菜の入ったボールを出す。
いやどっから出したのよ!! てかいつの間に用意したのよ!!
ほら、料理長もビックリしてるじゃない!!
「も、もう切っていたんですね。で、では、そこにあるお肉をじっくり焼きます」
「そして、じっくり焼いたものがこちらです」
すると、焼かれたお肉が出てきた。
いやいつ焼いたのよ!! 手際がいいってレベルじゃないわよ!!
「で、では、それらをしっかり盛り付けていきましょう」
「そして、盛り付けたものがこちらです」
あるなら最初っからできてるじゃないッ!!
で、でも、レイの作ったステーキ、凄く美味しそう...
「じゃあ、最後はミリーの番ですね!!」
そして、とうとうミリーの番がきた。
ミリーが作るのはスープだ。
「ミリー様には、わかりやすいように紙に書いたレシピもご用意いたしました」
「ありがとうございます料理長!! えーっと、じゃあ、まずは砂糖大さじ一杯ですね」
ミリーは砂糖大さじ一杯を計量スプーンで掬った。
あら、ちゃんと計量スプーン使えてるじゃない!!
よかったわ、ミリーはやっぱりやればできる子なのよ!!
すると、ミリーはそのスプーンを調理台に置いた。
ドサァ。
そして、何を思ったのか、持っていた砂糖の入った瓶の方をそのままひっくり返して、全部鍋に入れ出した。
いやそっちじゃないよ!!
「えーっと。次は塩とコショウですね」
ミリーは塩と胡椒が入った瓶をそのまま鍋に放り込む。
「次は強火で温めるですね。えーっと、強火ですから、『ファイアーボール』、きっとこれぐらいです」
ミリーが魔法を唱えると、手の平に炎の玉が浮かんだ。
あまりの熱さに、周りの大気が歪む。
いやいやいやいや!! 何ファイアーボールで温めようとしてるの!! それ最早攻撃だよ!?
「ちょっとミリー、ストップ!! ストップ!!」
「どうかされましたかお姉様?」
私に止められたミリーは炎を収める。
こ、ここで止めなければ、私はミリーの手料理で破滅する事になっていたわ...
辺りを見渡すと、料理長とメアリーはミリーの魔法に怯えていた。
私はミリーにそっと近づき、頭を優しく撫でる。
「ミリー、今日の所は一旦辞めましょう」
そう。私の命のために。
その後、私はミリーを説得して、なんとか今日の料理はなしになった。
そして、私のサラダを食べたミリーは、とても喜んでいた。
私もレイのステーキを食べ、美味しかったので大絶賛したら、レイもなんだか嬉しそうに見えた。
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