第28話

「アシュリー様、急に抜け出して申し訳ありませんでしたわ」


ジェシカがアシュリーに謝罪をする。


「ビックリしましたよ〜。ジェシカ様は慌ててリリー様のところへ行っちゃうし、ミリーちゃんも突然いなくなっちゃうし...」


「あら? ミリー様もいらっしゃらないのですか?」


「はい。ミリーちゃんはいつも通り、私の貸した本を熱心に読んでいたのですが、先程やる事ができたと言って何処かへ行ってしまわれましたわ」


「ミリー様が本の続きを読まずに何処かへ行くなんて珍しいですわね」


そう。ミリーは今、アシュリーが貸してくれる小説に夢中なのだ。


私はジェシカの屋敷に定期的にマナーを学びに(遊びに)行くようになった。


そして、私がアシュリーも呼び、よく三人で遊ぶ仲になったていた。


そこにミリーがついてきて、アシュリーの持ってるいる本に興味を示し、ハマったという訳だ。


内容は少女同士が恋愛をする百合物語。


どうやらミリーはそういう小説を気に入ったらしい。


いやー、まさかミリーが私と同じ、百合好きの道に進むとは思わなかったなぁ。


ちなみに、その小説を数行読んだジェシカは、「こ、こここ、こんなことを女性同士で!?」と顔を真っ赤にしてそのまま気絶してしまったので、今では別のジャンルをお勧めしてもらっている。


そして、アシュリーがジェシカに問いかける。


「そういえば、ジェシカ様はどうしてリリー様のところへ向かわれたのですか?」


「そのことなのですが――」


ジェシカは事の経緯を全て話した。


「え!? リリー様に渡したケーキに毒を盛っていた!? な、なんてことを...それって重罪じゃないですか!!」


「ええ、その通りですわ。そして、このケーキは重要な証拠でわすわ。きっと、レイさんがいなければ見つけることが出来ませんでしたわ」


「さ、流石レイさんですね」


「そうですわね。ま、取り敢えず、お茶とお茶請けをいただきながらお話しましょうですわ」


私たち三人はそれぞれの席に座り、お茶をいただく。


それから、暫くお茶を飲みながら三人で話し合っていた時だった。


「わぁ、このクッキー美味し――」


一瞬、遠くの方でミリーの魔力が膨れ上がった気がした。


ん? 気のせいかな? 今ミリーの魔力を感じたような...


「どうかされましたか? リリー様」


言葉を途中で切った私を、アシュリーは不思議そうな顔で問いかける。


「二人ともごめんなさい。少しミリーが心配になったから、様子を見てくるわ」


私は二人に断りを入れ、魔力を感じた場所に急行した。


確か、ここら辺からミリーの魔力を感じたはず!!


辿り着いたのは、草木が生い茂る近くの山の中だった。


私は身体強化で緑の中を駆ける。


ミリー...一体どこにいるの...?


その時、少し背の高い茂みの向こう側から、震えた叫び声が聞こえてきた。


「ひいいいいい、もう許して下さいいいいい!!」


私が慌ててその茂みを掻き分けると、そこにはなんと、顔面をボコボコにされ、土下座をするヨダンと、その頭を踏みつけるミリーがいた。


そして、その周りには、ヨダンの護衛だと思われる黒ずくめの男達が五人ほど倒れていた。


更に、その人達が持っていたであろう剣がバキバキに折れて、その辺に散乱していた。


「ミリー、その人達どうしたの!?」


「あ、お姉様。なんか転んで怪我してたみたいなので、声を掛けていたんです」


いや嘘つけ!!

どう見ても転んだ傷には見えないよ!?

絶対あなたがその人達ボコボコにしたよね!?


すると、ミリーはしれっとヨダンの頭から足を離した。


そして、ミリーはヨダンに問いかける。


「ねぇあなた、転んだだけですよね?」


すると、ヨダンは必死に首を縦に振る。


その表情は、信じられないほど怯えきっていた。


「こ、転んだだけなのね...じゃ、じゃあその後ろで倒れてる人達は?」


「この人達も転んだだけです」


いや転びすぎでしょ!! てか“転んだ”の一本槍かよッ!!


「そ、そうなのね...じゃ、じゃあ、私がヒールしといてあげましょうか?」


「お姉様、ミリーがやっておくので心配しなくて大丈夫ですよ。ここはミリーに任せて、お姉様は誕生日パーティーのお料理を楽しんできてくだい!!」


「いいの?」


「はい! ミリーはまだ、ちょうきょぅ――じゃなくて、やる事が残っているので!!」


うん...な、なんか関わらない方が良さそうね...


「わかったわ」


私はそうミリーに言って、山の中を後にした。


その途中で、後ろから「もう悪いことしませええええん!! 自首しますから許してええええ!!」と聞こえたが、私は聞こえないふりをして屋敷へと戻った。


次の日、騎士様達が屋敷にやって来て、ヨダンが出頭したことを報告した。


自白とケーキが決定的な証拠となり、ヨダンは捕まったようだ。


他にも余罪が沢山有り、幾つもの罪を犯していた極悪人だった。


出頭した際のヨダンは、物凄く何かに怯えていたそうだ。


連行される際、十歳前後の少女を見ただけで、身体を震わせていたとか。


ちなみに、顔面はボコボコのままだったらしい。


いやせめてヒールはしてあげて!!

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