第32話

魔怜まれんの花が咲く場所は、山の中の開けた場所にあった。


私たちが山道を抜けて見たのは、青い花びらの魔怜まれんが、海のように広がる景色だった。


「わぁ、とっても綺麗ですね!」

「一面青色です!! ミリーこんなの初めて見ました!!」


一緒にきたアシュリーとミリーは大はしゃぎする。


す、凄いわ...ゲームで見るよりキレイ...


それから、暫く景色を楽しんでいたその時――


ん? この魔力は...


山の方から、邪悪な魔獣の魔力に私は気がついた。


魔獣とは、魔力でできた人を襲う凶暴な存在だ。


それがなぜ山の中から? 山の方には、ルークが連れてきた護衛の方達が居るはずだけど...まるで見逃したみたいに魔獣がこっちに向かってきてるわ。


あ、でもその人達に攻撃されたのか、ちょっと魔力が弱ってるわね。


すると、山の中から魔獣が姿を現し、こちらに向かって走ってきた。


「あれは、ダークボアね」


イノシシのような見た目で、凶暴だが、所々傷ついてみえる。


私の言葉を聞いた皆が、魔獣の存在に気がつく。


ジェシカとアシュリーは魔獣に怯えるが、ミリーとレイは冷静に見えた。


すると、ルークがみんなの前に出る。彼はジェシカをチラッと見ると、少しだけ笑みを浮かべた。


「みなさん、魔獣が現れました! さぁ、ここは僕に任せ――」


や、ヤバい! 私がこの中で一番強いから、私が対処した方が安全よね!?


そこで私は走り出し、その魔獣を思いっきり蹴り飛ばす。


すると、魔獣は紫色の魔石だけを残し、跡形もなく木っ端微塵に消し飛んだ。


「ありがとうございますですわ! リリー様!!」

「やっぱりリリー様は強くてカッコイイです!!」


私が振り返ると、ジェシカとアシュリーの視線が凄くキラキラとしていた。


そして、ルークはメガネが斜めにずれ、愕然とダークボアがいた場所を眺めていた。





それから暫く経ち、みんなで景色を楽しんでいると、ルークがある言い伝えを話しはじめた。


「実は、花びらが一枚少ない、五枚の魔怜まれんを見つけると、その人の恋が叶うという言い伝えがあるんですよ。まぁ、滅多に見つからないんですけどね」


それを聞いた途端、みんなの顔が真剣になる。


すると、ミリーが魔法を発動させ、その魔怜まれんを探し出し、自分の周りに沢山浮かせる。


アシュリーも本で得た知識をフルで活かし、直ぐに沢山見つけ出した。


レイは探してもいないのに、何故かポケットから花を出す。


いや、なんで最初っから持ってるのよ!!


そして、ジェシカは一生懸命探して見つけ出した一輪を、大事に両手で持って、嬉しそうな表情をしていた。


私も魔法を使わずに探して、なんとか一輪見つけることが出来た。


やっと見つけたわ!!


私が喜んでいると、地面を探すルークの後ろ姿が見えた。


「あれ? あれ? ここに置いておいたはずなのに...」


「どうしたんですか? ルーク様」


「あ、い、いや、僕も魔怜まれんを探していたんです」


「そうですか。ミリーがその辺で見つけていたので、ルーク様もきっと見つかりますよ!!」


「は、はい...」


その日は結局、ルークは一輪も見つけることができなかった。

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