アシュリーside

私はお母様が大好きでした。


お母様はいつもベッドの上だったけど、そんなお母様に本を読んでもらって、一緒にベッドでねむるのがとても好きでした。


お母様は今は元気がないけど、きっといつか一緒にお外で遊べる日がくるとお父様は仰っていました。


そして、私が六歳の誕生日を迎えた時、お母様が一冊の本を私にプレゼントしてくれました。


「白馬の王子様?」


「そうよ、まだアシュリーにはちょっと難しい本かもしれないけど、お母様が読み聞かせてあげるから大丈夫よ」


そこで私は少しだけムッとしてしまいました。


「私だって難しい本を一人で読めます!!」


「あら、ごめんなさいね。じゃあアシュリーがその本を読み切ったら、お母様にその話を聞かせてくれるかしら?」


「はい! 任せてください!!」


それから私は何日もかけてその本を読みました。


そしていつしか、その物語の中に出てくる白馬の王子様に恋をしていました。


お姫様が悪い奴らに襲われるところを、颯爽と現れて助けてくれる。


そんな強くて優しいお方。


私はいつか白馬の王子様が自分のもとへ現れてくれることを夢見るようになりました。


この本を読み終えたら、絶対白馬の王子様のことをいっぱいお母様に聞かせてあげたいです。


私はお母様とお話しすることを想像して、笑みを浮かべていました。


しかし、ある日からお母様に会える機会が減ってきました。


どうやら体調を崩しているみたいで、私が部屋に入れない日もありました。


でも、お母様とした約束のため、私は一生懸命その本を読みました。


そして、本を貰ってから数週間が経ち、私は漸くその本を読み終えました。


私は自室で一人、読後感に浸っていました。


「この本の内容を早くお母様にお伝えしたいわ。でももう夜も遅いし...きっとお母様は眠っているわ...」


そこで私は、早くお母様にお話ししたいという思いを抑えて、眠りにつきました。


その日の夜中、屋敷が騒がしくて目が覚めました。


そして、部屋のドアがノックされメイドさんが入ってきて言いました。


「お嬢様、ただちにお越し下さい!!」


「え?」


私はメイドさんにお母様の部屋まで連れてこられました。


そして私が部屋に入ると、顔を伏せたお父様と、ベッドで眠っているお母様がいました。


――そして、その日からお母様が目覚めることはありませんでした。


どうして...私を置いて行ったの? 私...『白馬の王子様』一人で読めたよ? 


お母様と約束したから、私頑張れたんだよ?


沢山、お話したかったよ...


その時、私は完全に心を閉ざしてしまいました。


そして、それから一年が経ったある日、廊下でメイドさんの会話が聞こえてきました。


「もう七歳なのに魔法が使えないらしいわよ」

「ほんと、貴族としてどうなの?」

「しかも、まだ“あの本”を持ち歩いているそうよ」

「信じられないわ」


それを聞いた時、胸がギュッと苦しくなりました。


「ちょっと! あなた達なにを話をしているのッ!!」


私がその場を立ち去る時、メイド長の怒鳴り声が聞こえました。


そして次の日、私のことを悪く言っていたメイドさんたちは居なくなっていました。


メイドさんたちはお父様がクビにしたんだと思います。


それでも、あの時言われた言葉が私の頭の中で何度も反芻します。


お父様は私が魔法が使えないと知ってから、仕事ばかりするようになりました。


私も魔法を使えない引け目から、自然とお父様を避けるようになりました。


私は一人ベッドの毛布にうずくまります。


「お母様...助けて...」


そこで私はふと手元の本に視線を落とします。


「白馬の王子様...なんていないのかな?」





それから一年が経ち、私は王宮の社交界に参加していました。


いずれ学園で会うことになる同い年の子息令嬢たちがいるので、お父様が友達ができるかもしれないからと行くように言いました。


しかし、私はすぐに意地悪な令嬢たちに目をつけられました。


「あなた魔法も使えないのにこの社交界にきたのですか?」

「ほんと、貴族として恥ずかしくないの?」

「それに、いつまでこんな子供じみた本読んでるのよ!!」


そこで一人の令嬢が、私がお母様に頂いた大切な本を取り上げました。


「待ってください!! その本だけは!!」

「うるさいわね!!」


その時――


「ちょっとあなた達!! 何をやっているの!!」

「なに?ってリリー・リステンド様!?」


そこに現れたのは金色の髪に赤い瞳の綺麗な女の子でした。


リリー様という名前は、たしか公爵家のお方だったと思います。


「その本をその子に返してあげなさい」


「申し訳ありませんでした!!」

「お、お許しください!!」


リリー様がそう言うと、令嬢たちは本を放り出して逃げて行ってしまいました。


リリー様が私を助けてくれた?


困ったときに悪い奴から助けてくれる、その姿はまるで――


「白馬の...王子様...」


私がそう呟くと、リリー様は首を傾げ、何か納得したような顔をすると、落ちていた本を拾って渡してくれました。


「はいこれ、あなたの大切な本なんでしょ?」


私はいないと思っていた白馬の王子様が現れたような気がして、嬉しくなりました。





その後、リリー様は私が魔力操作をできるようにと魔法を掛けてくれました。


リリー様が私の両手を握って魔法を発動します。


すると、優しい光が私を包み込んでいきました。


その心地よさに私は目を閉じます。


暫くして、私を包んでいた優しい光が消えるのに名残惜しさを感じながらも目を覚まします。


ん? あれ? なんだかすごく温かい夢を見ていたような気が...


「どう? 魔力は感じる?」


リリー様がそうお聞きになったので、私は自分の身体に意識を向けます、すると――


「し、信じられないです!! 感じます!! 自分の魔力が感じられます!!」


そしてその後、私は初めての魔法を使いました。


私はそれが嬉しくて嬉しくて、はしゃいでしまいました。


すると、リリー様が魔法で沢山のお花を作って私に見せてくれました。


それはとても綺麗で、魔法が使えるようになった自分もできるかもと、期待で胸がいっぱいになりました。


「じゃーん!! どう? 素敵でしょ?」


そう仰ったリリー様を見ると、そこにはなんと大きくて立派な白馬がいました。


そして、リリー様はその隣で私に笑いかけてくれています。


この先暗闇でしかなかった私の人生に、優しく手を差し伸べて救ってくれたお方。


「やっぱり本当に居たんだ...白馬の王子様。いや、王女様...かな?」


この日の社交界は、私にとって人生で最高の一日でした。





私が屋敷に帰ると、お父様が心配そうに待っていました。


いつも仕事部屋にこもりっきりだけど、今日は出迎えてくれて嬉しいです。


使用人さんたちもみんなで出迎えてくれました。


「アシュリー、社交界はどうだった?」


「お父様、あのね!!――」


それから私は社交界で起きた出来事を全て話しました。


「ほら!! 私魔法が使えるようになったんですよ!!」


そして、私はリリー様に教えてもらった『ライト』を発動します。


すると、お父様は涙を流し、私を強く抱きしめました。


「お、お父様?」

「よかった、本当によかった...」


すると、周りの使用人さんたちも泣き出してしまいました。


その後聞いた話なのですが、どうやら魔力詰まりというものは、高位の神官様を何人も集めてやっと治せるそうです。


そして、そのためには莫大なお金がかかるため、子爵である私のお父様ではそのお金を用意できず、そのお金を稼ぐために毎日一生懸命働いていたそうです。


「それにしても、リリー様は本当にすごいお方だな」


「はい!! だってリリー様は白馬の王女様ですから!!」






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